- 週間ランキング
震災で壊滅的な被害を受けた漁師をはじめ多くの島民は地震後、家も仕事もなくなり、これからの生活をどうするかを考えなければならない状況に陥っていました。そんな折、地元の建設会社が復興事業の現場で島民を受け入れ、雇用を創出してきました。
ところが、ある程度復興が進んでくると建設事業が縮小し、雇用先が徐々に減少してきました。そこで、新たな働き口を確保しようと、この建設会社が農業へ参入することに踏み切ったのです。農業は多くの人手も必要で、しかも、一年を通しての軽作業もあり高齢者も採用できるので、奥尻島民にとってはまたとないチャンスでした。
震災から6年を経た1999年、増えつづける遊休農地に、まずは島に自生する山ぶどうを植えはじめました。さらに2001年からワイン専用種の栽培をはじめ、北海道ではじめて、ヨーロッパ品種を育てることにも成功しました。
北海道のワイン会社で研修を受けたり、4年間かけてワインの製法を習得したりなど、まさにゼロからはじめたワイン事業。こうして2008年にワイナリーの工場が完成し、醸造が本格化しました。
ぶどう畑の面積は約27ヘクタール。約65000本のぶどうが植えられています。
品種はメルローをはじめ、シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・グリ、ツヴァイゲルトレーベ、ケルナー、山ぶどうなど。北海道ではドイツ系の品種が多く栽培されていますが、奥尻ではメルローやピノ・ノワールといったフランス系の品種も育てています。特に北海道でメルローを栽培するのは珍しく、これも奥尻の気候がなせる業ともいえるでしょう。
島という環境であるがゆえに、海からの潮風が豊富なミネラルを運んできます。実際に土壌を量ってみると、北海道の内陸よりも奥尻の土のほうがミネラル分が5割も多いことがわかりました。また、奥尻島はブナの原生林が多く、水がおいしいことでも有名です。豊富なミネラルとおいしい水。奥尻のワインをテイスティングしたソムリエは、「潮の香りがする。この塩分を大切に生かしてほしい」と評価しています。
輸入原料を使わずに、島で育ったぶどうだけで醸造されるワインは「離島ワイン」ともよばれ、「潮風」をセールスポイントに、函館や札幌をはじめ、東京や大阪にも出荷されていて、好評を得ています。
奥尻ワイナリーでは、ぶどうはすべて手摘みで行います。また、ワインの醸造は機械で管理するのではなく、すべて醸造家の目で管理します。そのため、その年によってワインの味や特徴が微妙に変わりますが、それこそが奥尻ワインの味ともいえるでしょう。
2015年の日本ワインコンクールでは、「OKUSHIRI Pinot Gris 2014」という白ワインが、欧州系品種にて銀賞を受賞しました。このピノ・グリは、色は透明感のあるきれいな麦藁色。ほどよい酸味と、後味の苦味、ボリューム感のあるやや辛口で、蒸し栗のような余韻を感じる味わいです。また、シャルドネは淡い黄金色。キリッとした印象の辛口でスッキリとした味わいです。
一方、赤のメルローは、ベリー系の味わいの奥にミントの香りが潜んでいて、なめらかな味。また、同じく赤のセイベルは淡い赤紫色。柔らかな渋みと酸味が飲みやすく、若いワインでも熟成した味わいを感じることができます。
〈参考:奥尻島観光協会〉
〈参考:奥尻ワイナリー公式ホームページ〉
〈参考:建設グラフ、2011、「被災者を支援し雇用創出で建設業の新分野進出優良企業に」〉
〈参考:農村計画学会誌、2015、「奥尻島における産業振興への取組み」〉
ぶどうのおいしい季節がやってきました。ワイン用のぶどうは、8月はスパークリングワイン、9月は白ワイン、11月までは赤ワイン用と、それぞれ収穫の時期が異なっています。日本ではぶどう出荷量の約8割が生食用で、ワインやジュース用はわずか2割ほどですが、最近、日本のワイン製造の技術が高まり、国際コンクールにおいても多くの日本のワインが受賞しています。今年の10月からは、国産のぶどうだけでつくられたワインを「日本ワイン」と表示することが許されるといわれています。日本全体で国産ワインに注目が集まっている今、奥尻のワインからますます目が離せません。