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液体とは、ざっくりいうと、容器に合わせて形を変えるもの。寒いところに置かれている硬い水あめは、一見固体のように見えても、長い時間観察していると液体のように流れ、容器に合わせて変形するので液体です。
物理学的に液体を論じると、流動学や流体力学、粘度などの難しい数式が加わるので、きっちりした定義となると大変ややこしくなるのですが、要は、容器に応じて形を変えるのが液体であるという定義ならば、「猫は液体ではないのか」という疑問が生じる、というわけです。
猫を飼っている人ならばよくご存知でしょうが、猫は箱や袋や器など、いろいろなものに入りたがります。そして、一見自分の体積より小さそうなものにも、体を丸めて、きれいに隙間なく挟まることができます。「なぜそんな小さいものに、わざわざ入り込むのか?」と思ってしまうような小さなスペースにも、きっちりとはまっています。
猫はもちろん固体ですが、容器に合わせて変幻自在に体の形を変えて納まるのなら、これは液体の定義と同じなのではないでしょうか?
レオロジー(流動学・rheology)という学問があります。力が加えられた状態で材料がどのように流動し変形するかを研究する分野です。いつもは硬いアスファルトですが、地面から雑草が生えてくると変形して盛り上がったりします。このように、一見硬い固体でも、ある力が加わると変形する、ということなどを研究する学問です。
この、レオロジーの定義をその通りに当てはめてみると、固体である猫は、四角い容器に入れると四角く、丸い容器に入れると丸く変形し、しかも隙間なくきっちりと納まるので、固体でもあるが液体でもある、ということになってしまいます。
今回、「猫は液体か?」と論じたのは、フランスの研究者マーク・アントワン・ファルダン氏。現在、レオロジーの分野で実際に研究されている問題点を証明するために、猫=液体説を取り上げ、見事、イグ・ノーベル物理学賞を受賞しました。
授賞式のスピーチで彼は、様々な容器にすっぽり納まる猫の写真を例に、「写真を見るかぎり、猫は液体の定義に一致しています」として、会場を沸かせました。
〈参考:ニューズウィーク日本版2017/9/22、AERA.dot2017/9/16〉
今年のイグ・ノーベル賞で生物学賞を受賞したのは、日本の研究者、吉澤和徳(北大准教授)氏らの研究チームです。日本中の住宅など、どこにでもいるチャタテムシの研究をしている吉澤氏は、トリカヘチャタテが交尾のときに、雌の生殖器が雄に挿入されることを発見しました。今回、このような生物の性差の常識がくつがえされる例を発表し、見事、生物学賞の受賞となりました。
今年のテーマの「不確実性」は時代を反映し、ちょっと笑える研究タイトルが並びました。そして、チャタテムシや猫を例に、男とは女とは、液体とは固体とはなど、今まで常識とされてきた既成概念が、実は不確実なものなのでは、といった疑問が生じるきっかけとなりました。
秋も深まり、北のほうでは紅葉が見ごろを迎えています。気温も低くなり、鍋物が恋しくなる季節となりました。秋の夜長に思索にふけりつつ、鍋物をつついてみたくなる季節です。