【甲子園】県岐阜商がV候補の横浜倒すジャイアントキリング!左手ハンディの横山が諦めない象徴
<全国高校野球選手権:県岐阜商8-7横浜>◇19日◇準々決勝◇甲子園
公立で唯一8強入りした県岐阜商が、ネバーギブアップでジャイアントキリングを果たした。センバツ王者の横浜に延長タイブレークの10回表に3点を勝ち越されたが、その裏追いつき、11回劇的サヨナラで8-7の大激闘を制した。生まれつき左手の指がない横山温大(はると)外野手(3年)が美技と甲子園4戦連続安打でチームを鼓舞。春夏連覇を目指したV候補筆頭を一丸で破り、16年ぶりの準決勝進出を決めた。
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サヨナラの打球が左前に抜けると、坂口路歩(ろあ)内野手(3年)は2度こぶしを突き上げた。7-7の延長11回裏2死一、三塁。「絶対に打ってやる気持ちでした」。県岐阜商の4番が2時間42分の激闘に終止符を打った。センバツ王者の横浜連覇の夢を打ち砕いたナインは、跳びはねながら整列へ向かった。アルプス席の部員も感極まってうれし涙をこぼし、青のメガホンが激しく揺れた。
4-0から追いつかれ、タイブレークの延長10回表は失策が絡み重い3失点。ここまでかと思われたが、ベンチは沈んでいなかったと小鎗(こやり)稜也捕手(3年)は言う。「延長まで横浜高校と試合をできるなんて夢にも思わなかった。開き直って最後まで楽しくやろうと」。直後の裏の攻撃の無死満塁で、小鎗の打球が左中間を割った。窮地から息を吹き返す走者一掃の3点二塁打。春の王者は顔色を失い、挑戦者は一気に勢いづいた。
チームの諦めない象徴は、生まれつき左手の指がないハンディをものともしない横山だ。初回2死二塁の右翼守備では、4番奥村頼の右翼線への痛烈な打球を背走キャッチ。先制点を与えなかった好プレーに甲子園は沸き返った。「とても気持ちのいい歓声で『野球をやっていて、よかった』と。ハンディがあっても、みんなと同じことができると示したい」。捕球してすぐ持ち変えるため、右手につけているグラブでボールを離さなかった。藤井潤作監督(53)は「ファインプレーで、みんながまた(スポーツ紙の)1面が横山だと(笑い)。でも今日は坂口が日替わりヒーローでうれしい」と声を弾ませた。
横山は初戦から全4試合連続安打もマークした。4回に横浜の好右腕・織田の初球を左前へ。「速球をシャープに打つ意識で逆方向に打てました」。2点目を奪うつなぎを果たした。
1、2年時は球拾いで日が暮れた。でも諦めなかった。「3年生になったら、ここに立つ」。必ず居残り練習を行い帰宅した。「このためにやってきた。あの時、努力していた自分に感謝したい」と胸を張った。
戦前に春夏の甲子園を4度制した古豪が、創部100年の節目に16年ぶりの4強入り。準決勝の日大三戦へ横山がナインの思いを代弁した。「横浜高校さんの分まで全国制覇したい」。まずは夏69年ぶり決勝切符をつかみ取る。【中島麗】
◆横山温大(よこやま・はると)2007年(平19)7月17日生まれ、岐阜県各務原市出身。小学3年から緑陽スポーツ少年団で野球を始め、投手と内野手。緑陽中では愛知江南ボーイズに所属。県岐阜商では3年春に背番号17でベンチ入り。生まれつき右手を欠損しながらメジャーで87勝を挙げたジム・アボット投手の動画を参考にする。170センチ、70キロ。右投げ左打ち。
県岐阜商 地方大会メンバー外だった2年生左腕も勝利の原動力だ。背番号20の先発渡辺大が「やってやろうという気持ちで」横浜の強力打線を5回1安打無失点。直球やカーブやフライやゴロで、アウトの山を築いた。藤井監督が「(神奈川)県大会からの試合を見て(横浜)が競っていたのは左投手だった」と分析。前夜18日に先発抜てきを伝えられた渡辺大も「この自信を今後につなげたい」と目を輝かせた。
◆タイブレーク 横浜-県岐阜商戦で今大会7度目。18年春のタイブレーク制採用後、1大会7度は23、24年夏の各6度を上回る最多。過去に先攻が3点以上リードしたケースは今大会の綾羽6-4高知中央まで先攻の8戦全勝だったが、初めて黒星となった。
◆78年夏の対戦 県岐阜商は横浜と78年夏3回戦で対戦し3-0で勝っている。野村隆司投手が初回先頭打者の安西健二に許した1安打だけで完封した。横浜は1年生エースの愛甲猛が8回5安打9奪三振(自責点2)の力投も打線の援護なく敗れた。
◆公立4強 県岐阜商が4強入りし、夏の公立校では07年佐賀北以来の優勝へあと2勝。佐賀北の後に公立校の4強以上は08年浦添商(4強)、09年県岐阜商(4強)、18年金足農(準V)、19年明石商(4強)が進出している。
◆東京キラー 県岐阜商は準決勝で日大三と対戦。過去の甲子園で岐阜県勢は東京の学校に6戦全勝(春2勝、夏4勝)。県岐阜商は56年夏に1年生の王貞治投手を擁した早実を8-1で破るなど3戦全勝。