天賦の才を授かっても、生かし切れずに終わった選手は数知れない。突出した才能と、それを支える環境にも恵まれたメッシ(アルゼンチン)はまれな存在と言えよう。 早くからあふれる才能が注目されたが、10歳で成長ホルモンの分泌不全による発育障害が発覚。所属していた母国の強豪ニューウェルズ・オールドボーイズも賄うことができない高額な治療費に苦心していた。そんな時、スペインから運命のオファーが届いた。 10歳前後の少年を国外から連れてくることは異例だった時代。名門バルセロナが家族そろっての移住と治療費の全額負担を約束してアルゼンチンから呼び寄せた。この「英断」がなければ、世界最高のサッカー選手が誕生したかは分からない。 何もかも異なる異国での生活。苦労することも多かったはずだが、ピッチに立てば最高の環境が整っていた。バルセロナの同世代にはピケ、セスクら後のスペイン代表もおり、下部組織時代から向かうところ敵なし。17歳でトップチームデビューを果たすと、ロナウジーニョらスター選手に愛され、伸び伸びとプレーした。 恩師グアルディオラ監督(現マンチェスター・シティー監督)に進化を促され、シャビ、イニエスタら名手に囲まれて魅惑のサッカーを謳歌(おうか)。アルゼンチン代表ではあと一歩タイトルに届かず悔し涙を流し続けてきたものの、昨年、南米選手権を制し、そしてカタールでの歓喜で報われた。 「神の子」と呼ばれるが、本人の努力はもちろんのこと、家族やクラブ、監督、チームメートらの支えがなければ、ここまでの成功を手にすることはできなかっただろう。メッシという唯一無二の伝説は、たくさんの人々の熱意の結晶でもある。 (ルサイル時事) 【時事通信社】 〔写真説明〕フランスとの決勝延長前半、ドリブルするアルゼンチンのメッシ=18日、ルサイル