何度も修羅場をくぐり抜けてきた照ノ富士の心がぶれることはなかった。勝てば優勝が決まる結び。「この一番に、できる準備をしてきたことを全部出すという気持ち」。御嶽海を問題にせず寄り切り。横綱の責任を果たし、充実感があふれた。 途中休場した3月の春場所はテレビで観戦。「見ていて楽しかった」と振り返ったが、3年ぶりに観客が入った大阪の土俵の中心から去った悔しさは、横綱を狂わせたようだ。今場所に向け、「体調面で飛ばし過ぎた」。立ち合いの違和感が拭えず、8日目までに3敗。押し相撲の相手に苦しんだ。 できる限りの準備を重ね、ようやくかみ合ったと実感したのは11日目の阿炎戦だという。連日続く三役以上との終盤戦で隙を見せることなく白星を重ねる。「立ち合いの感覚が変わったからよかった」。珍しく自分を褒めた。 膝の痛みは今もある。稽古も思い切り積むことはできない。それでも「自信がないと、土俵に上がるのは失礼。自信を持ってやっている」。番付の権威さえ問われかねない大混戦となった15日間。心を込めて土俵を務め、横綱の存在の大きさを改めて示した。 (了) 【時事通信社】 〔写真説明〕照ノ富士(左)は御嶽海を寄り切りで下して優勝を決める=22日、東京・両国国技館