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足元での中国の景気を見る上で波及効果などの点から特に注目されるのが、不動産投資のさらなる減少です。インベスコが独自に季節調整した不動産投資額(名目ベース)は、1~2月に一時的に上向いたものの、その後減少し続けており、5月の水準は2017~2018年並みに落ち込みました(図表2)。中国の不動産投資は、居住用、商業用、オフィス用という主要3分野の全てで低迷していますが、不動産投資全体の約4分の3を占める居住用不動産の動きが特に重要です。居住用不動産の着工面積の動きをみると、今年5月の水準は、コロナ前の2019年の平均水準よりも61.9%低い水準にまで落ち込んでいました(図表3)。同期間における居住用不動産投資の落ち込み幅が16.6%であったことと、居住用不動産の着工から完工までに1年半程度を要することを踏まえると、少なくとも年内いっぱいは不動産投資の低迷が続く可能性が高いとみられます。
景気が足踏み状態に陥ってきたことが明確になる中、中国当局は政策対応を徐々に積極化させてきました。6月15日に中国人民銀行が市中銀行向けに資金供給をする際の中期貸出ファシリティー(MLF)1年物金利を以前の2.75%から2.65%へと引き下げられ、これに続いて、6月20日には、1年物ローンプライム金利、5年物ローンプライム金利が共に0.1%引き下げられました。こうして実施された利下げ策は景気に対する一定の刺激効果を有するとみられるものの、現在の中国景気が直面している問題を大きく改善させるほどの効果は期待できません。政策に対する金融市場の反応もこれまでのところは限定的であり、CSI300指数でみた株価は4月中旬以降、軟調に推移しています。
一方、中国政府は、6月16日に開催された国務院常務会議において、有効需要の拡大や実体経済の強化に注力する方針を打ち出すとともに、「科学技術型企業の資金調達支援強化行動プラン」と「プライベート投資ファンド監督管理条例」を審議、採択しました。不動産分野で対策が打ち出されていない点は重要です。これは、過去に不動産業が不振に陥った際のように大規模な不動産刺激政策を打ち出す場合、不動産価格が大きく上昇し、現政権が政策目標として注力する「共同富裕」の考え方と辻褄が合わなくなる恐れがあるためとみられます。今後、不動産市場がさらに低迷すれば本格的な不動産刺激策が実施される可能性はあるものの、現時点ではその可能性は低いと考えられます。
1-3月期の経済成長が大きく上振れたことで、中国当局が掲げている「5%程度」という成長率目標の達成に向けてのハードルは大きく下がりました。昨年まで大規模な財政政策面での対応を続けた中国当局は、政府債務の増加に対してこれまでよりも警戒感を強めているとみられます。現時点では、大規模な追加的財政刺激策が実施される可能性は低いとみられます。ただ、今年の実質GDP成長率が5%を割るような可能性が強まる場合には、比較的大きな対策が打ち出される可能性があります。7月17日には、6月の主要統計とともに4-6月期のGDP統計が公表される予定です。4-6月期の実質GDP成長率が前期比でマイナス圏に陥る場合には、中国当局が政策対応のギアを上げてくるとみられることから、注目したいと思います。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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MC2023-093
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