最近、アメリカの債務問題からのドル危機や関税問題などが話題となり、経済危機を気にする方が増えていると思います。今回は、様々な経済危機を乗り越えて投資をするための先人の知恵である「分散投資」と過去の経済危機を振り返りたいと思います。

経済危機と一口に言ってもいろんなタイプの経済危機がある

投資をしている人であれば「経済危機=株価下落」というイメージがあるかもしれませんが、一口で「経済危機」といっても、さまざまな状況があります。

たとえば、インフレで不況という「スタグフレーション」と呼ばれる状況もあれば、単純に物価が上がるインフレの状況もあります。また、インフレによる保有資産の実質価値が減少することもあれば、デフレという状況もあります。

つまり、予測困難な状況から資産を防衛することが重要であり、そのためにはさまざまな資産に分散投資しておくことが求められます。

「株式の死」と呼ばれた1970年を振り返ってみよう

では、1970年代のアメリカ、いわゆる高インフレ期において、どのような資産が良い結果をもたらし、どのような資産が悪い結果だったのでしょうか。

1970年代は、非常に困難な時代であり、1974年にはインフレ率は12.3%に達しました。そして、1970年代後半にはスタグフレーション(インフレで景気停滞)となりました。出来事としては、1971年にニクソンショックがあり、1973年には第一次オイルショックによる原油価格の急騰が挙げられます。

当時はインフレが問題視されていたものの、政治圧力からFRBは利上げを徹底できず、インフレは長引き、1979年にボルカーFRB議長が就任し、1981年に政策金利を20%まで上げ、完全にインフレを退治しました。そして、1982年から2020年頃まで金利が低下基調にある中で、インフレが抑制されたまま株式が好調だった最高の40年間となりました。

同じことがまた起きるかわかりませんが、「歴史は繰り返さないが韻を踏む」という言葉があるとおり、1970年代を振り返ることは、今後を考える上で参考になります。

まず、「株式」という資産がどのような結果だったのかと言えば、1970年代は「株式投資の死」と呼ばれる時代でした。この言葉が何を表しているかというと、株式を長期保有しても実質リターンがマイナスであり、インフレに勝てなかった時期だったということです。

具体的には、1966年から1981年の15年間の米国株式の複利換算リターンは−0.1%でした。つまり、15年間毎年0.1%ずつ資産価値が失われていたということです。

一般的な感覚で言えば、株式に投資することはリスクを取っているわけですから、そのプレミアムとしてのリターンが発生するはずですが、1970年代のアメリカではそれがなかったため、「株式投資は死んだ」という表現が使われたのです。

つまり、現在のように「株式投資ですべてが解決する」という考え方が通用しなかった時代と言えます。その後も続けて何十年も投資していた場合は、株式に投資した人は報われていますので株式投資を否定するわけではありません。しかし、株式がすべての時期において万能な資産であるというわけではないと理解しておくべきです。

1970年代にもっとも輝いた資産はゴールド

では、1970年代において最も良い資産は何だったのでしょうか。それは「ゴールド」です。1971年に「ニクソンショック」が起きました。これはゴールド1オンスを35ドルで交換するという約束を反故にしたため、ゴールドの価値が非常に高まった(ドルの価値が下がった)という背景もあり、ゴールドは実質リターンがプラスでした。

1966−1981年のゴールドの実質リターンは複利換算リターン8.8%ですから、株式と比較すると信じられない差です。

反対に1970年代に実質ベース(本当の価値)で実績が最も悪かったのは現金預金と国債でした。一般的に、インフレ期には実物資産に投資するのが良いとされていますが、これは現金預金や国債投資のリターンと比較すると相対的にリターンが良いという意味です。インフレとは現金などしか持たない人ほど厳しくなる不公平な状況です。

このような状況からも身を守る必要があり、また現状ではインフレ予想をする人が大半かもしれませんが、未来は不確実ですからデフレ不況が来ることも考えられます。だからこそ、さまざまな資産に投資しておくことが資産を経済危機から守ることにつながります。

どんなときでもリターンを高くする?「オールウェザーポートフォリオ」とは

では、どのようなポートフォリオを組むと良いでしょうか?

例えば、有名なヘッジファンドの創設者であるレイ・ダリオは、どのような経済状況においても資産を増やすことができるとして、「オールウェザーポートフォリオ」というポートフォリオを紹介しました。

このポートフォリオは、ゴールドが7.5%、コモディティーが7.5%、株式が30%、中期米国債が15%、長期米国債が40%の組み合わせで成り立っています。

このポートフォリオでは、「経済成長」「経済減速」「インフレ」「デフレ」どのような状況(天候)でもリターンが生まれるように考えられています。実際、これまでの経済状況において非常に良いリターンを生み出しています。

例えば、このポートフォリオの場合、1970年代の10年間の平均利回りは9.68%だったとされています。さらに2008年のリーマンショックの際でも、このポートフォリオではマイナス3.93%でした。(同年のS&P 500の損失はマイナス37%)

今後、オールウェザーポートフォリオが良いリターンを生み出すかどうかは、しっかりと考えておく必要があります。実際に、ここ数年の株価リターンと比較すればあまり良い結果ではないことも事実です。

また過去40年間は債券価格が上昇し続けたという背景があるので、オールウェザーポートフォリオのように債券が多く含まれたポートフォリオが今後も良いリターンを生み出すかどうかは分かりません。

それでもさまざまな資産に分散投資をしておくことが、どのような経済状況であっても自分の身を守ることができる、先人が作り上げた知恵であるということは学ぶことができると思います。

※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。
※本稿は著者の見解に基づくものであり、Wealth Roadの運営会社の見解を示すものではありません。


著者:井上ヨウスケ
役者から転身した異色のファイナンシャルプランナー。演劇で培った「伝える力」を活かし、「誰よりもわかりやすく」をモットーにお金の知識を発信。27歳でFP資格を取得し、独立系FPとして講演や相談業務を展開。動画講座やYouTubeでも活動し、「どこでも働ける」を実現。投資や保険の知識に加え、価値観を軸にした柔軟なお金の使い方も提案する。現在は高知県在住。

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情報提供元: Wealth Road
記事名:「 経済危機から資産防衛するための「大切な先人の知恵」とは?