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ここでは、最も注目度が高い追加関税政策に焦点を当てたいと思います。トランプ政権が市場で想定されている以上の追加関税策を示唆する場合、米国の株式市場においては、株高の動きになる可能性が高いと考えられます。追加関税が目指すのは米国経済における輸入浸透度の引き下げであり、これまで国外から輸入していた財が国内で供給されることです。これにより、米国内の生産拠点の競争力が増し、米国内を事業活動の中心とするメーカーやそれらの企業への供給を担う企業の業績見通しの改善を通じて、株価の上昇が想定されます。米国の中小型株は、大型株に比べて米国国内での事業活動の割合が高いとみられ、その意味で、中小型株には恩恵が及びやすいとみられます。ただし、輸入品に関税をかけることで米国のインフレ率には押し上げ圧力がかかることから、長期金利に上昇圧力がかかり、今後のFRB(米連邦準備理事会)の利下げへの期待が低下する可能性が高まるため、その面では、不動産や公益セクターなど金利上昇の悪影響を受けやすい銘柄にはマイナス面も出てくるでしょう。また、追加関税の対象国で製造拠点を有するメーカーの株価も下落しやすいとみられます。
一方、米国の債券市場では、インフレ懸念が強まることで、長期金利が上昇する可能性が高いと考えられます。このため、為替市場では、主要通貨に対してドル高になりやすいとみられます。追加関税によって米国の貿易収支が改善するという期待が強まることも、ドル高の動きを後押しすると考えられます。
他方、追加関税の対象となる国の市場では、追加関税措置が株安材料になりやすいと見込まれます。これは、米国向けの輸出の採算の悪化や輸出数量の減少という事態が予想され、これは景気の悪化につながるためです。
米国や追加関税の対象国以外の第三国市場については、米国の長期金利が上昇することによって、通貨安につながる公算が大きいとみられます。株式市場へのインパクトは追加関税措置がもたらす企業業績への影響次第になると見込まれます。増産や生産拠点の新設によって追加関税対象国からの対米輸出シェアを奪うような立ち位置にある場合には株高につながるとみられるものの、対象国向けに部材等を輸出する国である場合は、輸出先の需要の低下が株安につながると見込まれます。
追加関税措置についての分析にあたっては、対象国が米国向けに報復関税措置を採る可能性が高いことも考える必要があります。米国の輸出品に対する対象国の追加関税措置は、その分野の米企業業績に悪影響を及ぼすとみられ、株安材料となります(追加関税以外のトランプ政権の新政策による市場インパクトについては、図表1をご覧ください)。
トランプ政権の追加関税策については、ホワイトハウスが「アメリカファースト貿易政策」についての覚え書で示した貿易政策の枠組みに則って実施されていくとみられます。この覚え書では、①米国の経済や安全保障を損ねる継続的な貿易赤字を調査し、改善するように政府各部門に指示する、➁諸外国による不公正な貿易慣行や為替操作に対応する、➂USMCA(米加墨の貿易協定)を含む貿易協定を米国の労働者・農民・ビジネスを優先するものにする―という原則が掲げられました。トランプ大統領は、すでに、メキシコやカナダへの追加関税率を25%、中国については10%、とする考え方を表明していますが、これらについてはトランプ氏自身が明言しているように、第一弾として2月1日に実施方針が公表される見通しです。
ところで、中国向けの、10%の追加関税率はフェンタニル問題についての考慮だけが念頭にあるものであるとみられます。私は、今後の中国との貿易赤字や中国による不公正な貿易慣行、第1期トランプ政権の時に中国との間で結ばれた米中フェーズ1合意の履行状況をふまえて、さらに追加関税率が引き上げられる可能性が高いと考えています。
一方、トランプ氏は1月21日の段階で、EU(欧州連合)に追加関税をかけることを明言しています。追加関税について実務を担当するのは商務省となりますが、商務長官に指名されたハワード・ラトニック氏が上院の承認を得るとともに、各国・地域に対する米国の方針が固まってから、メキシコ・カナダ以外の国・地域への追加関税率や追加関税の対象品目などが順次公表されていくとみられます。グローバル金融市場は、図表1で示した方向性に沿った形で今後のニュースに反応していくとみられ、引き続き注意をしていく必要があります。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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