20150806



教えて!「かくれ脱水」委員会



注意!職場の熱中症 運送業には、熱中症への危険がいっぱい

産業医 山田医師に予防と対策を聞きました



大量の汗を流しながら作業を行う労働の現場には、熱中症のリスクがあふれています。今回は、そうした作業現場の中でも、運送業の現場に注目。屋外と室内を行き来し、個人で作業管理をせざるをえないことが多い運送業にも、さまざまな熱中症・脱水症へのリスクがあります。教えて!「かくれ脱水」委員会では、産業医でもある山田琢之委員に、運送業における熱中症・脱水症の危険とその対処についてお聞きしました。



山田琢之(やまだ・たくじ)

愛知医科大学客員教授、なごや労働衛生コンサルタント事務所長 エスエル医療グループ栄内科院長



名古屋市職員健康管理センター所長、名古屋市役所産業医、愛知医科大学産業保健科学センター助教授などを歴任し、現在は愛知医科大学客員教授、なごや労働衛生コンサルタント事務所長、エスエル医療グループ栄内科院長を務める。医学博士、労働衛生コンサルタント(保健衛生・厚生労働省)、日本産業衛生学会指導医、日本医師会認定産業医。共著に平成25年4月発刊の「産業保健マニュアル」(南山堂:共著)などがある。



◆運送業は、熱中症・脱水症へのリスクに対する理解が行き届いていない!?



今年、厚労省から発表された「熱中症による死傷者数の業種別状況」を見ると、運送業に携わる方の死傷者数が、建設業、製造業に次いで、非常に多いことがわかります。運送業の場合は、熱中症による死者の数は、屋外作業が多い農業や警備業に比べると少ないのですが、熱中症が発症し、医療機関へ救急搬送される方が非常に多いことが特徴です。また、発表されたデータをよくみていくと、熱中症による炎天下の作業を強いられることの多い建設業や、熱暑の環境下での作業が続く製造業に従事する方達の、熱中症による死傷者数が減少傾向にあるのに比較し、運送業では近年になっても増加傾向にあるようです。これは、熱中症に関する予防や対処についての情報理解が、建設業・製造業に比べ、運送業では、作業現場が移動し一人での作業が多いために、管理者が常に作業現場を見ることができず、職業が持つ熱中症・脱水症へのリスクへの理解不足や、熱中症に至る脱水症の予防や対処についての情報が浸透しにくいことが考えられます。



◆代表的な職種の熱中症リスクとその対処について



建設業や製造業では、作業中は、管理者が作業者に異常がないかを頻繁に巡視することも普通に行われています。また、作業員の自覚に関わらず、水分と電解質の補給を推奨することも作業管理の中で行われています。運送業の場合は、個人での作業が多いこともあり、建設業や製造業のように、働く場所での対策をおこない、作業中も管理していくことができにくいのです。脱水症の自覚症状がなくとも定期的に水分と電解質を補給すべきですが、個人に任せた場合は、実行しにくいかもしれません。時間に追われる仕事ですから、休憩も計画的には取りにくいと思われます。また、一口に運送業といっても、その関係職種は、倉庫業から、宅配ドライバー、港での貨物移送作業など、作業環境も作業内容も多様です。ですから、一概に対策を決めにくいという点もあります。それが、熱中症・脱水症対策が遅れているように感じる要因かも知れません。ただし、職種によっては、熱中症や脱水症のリスクが非常に高いものもあります。下のような職種では、それぞれに熱中症リスクがあります。



【運送関係の冷蔵倉庫業】

マイナス数十度の冷蔵庫から摂氏30度以上の室外を行き来する。気温の寒暖差の激しい場所で仕事をしたりすると、カラダの体温調節の機能が低下し、汗をかきにくくなり、熱中症リスクが高まる。

<対策>自覚症状がない場合も、こまめな水分と塩分の摂取を。作業量や作業強度などを、個人の体調に合わせて調整。



【宅配業者】

大きなマンションなどでは、荷物を台車に積んで汗だくで走る姿が見受けられるが、熱を持ったカラダで、エアコンの効いた車内に戻り、また外へと、車内と外を頻繁に行き来するようでは脱水症になりやすい。

<対策>荷物を配達するドライバーは、温度差を避けるために、窓を開けて走るなど、温度差をつくらないような対策をみつけること。そして涼しい場所でのこまめな休息で、熱を持った筋肉を休めながら、水分と電解質を摂ることが必要。



【引っ越し業】

他の職種より脱水症から熱中症を起こしやすい。熱い屋外で重い荷物を運ぶ、激しく筋肉を使う職業。大量の汗をかく。筋肉は熱を持つし脱水しやすい仕事。にもかかわらず、お客様の手前、トイレを借りるわけにもいかず、水分摂取をガマンすることが多い。職業に従事する年齢層が若いですから、「なんとかなるだろう」と無理を重ねているというのが現状。

<対策>涼しい場所でのこまめな休息とトイレタイム。都度の水分と電解質の補給。



◆運送業の方が熱中症や脱水症予防のために、普段から出来ること



先にあげた職種の方々だけでなく、運送業のような激しい労働に従事をする人は、個人で熱中症や脱水症の知識を身に付け、それに対処することはもちろん、普段からの健康管理に気をつけておくべきです。



(1)睡眠不足、下痢・発熱などがある場合は、作業を控えること。

(2)若い人は、深夜までインターネットをしたりして良質な睡眠をとらない傾向が見える。

(3)勤務終了後、多量の発汗をともなう活動や脱水を招く過度の飲酒を避け、その日のうちに体温を下げる。

(4)朝食は必ず摂る。

(5)ドライバーの場合、午後3時前に15分から20分の仮眠と、その後の軽い体操。



出勤時には、体調の観察や脱水への注意喚起とともに、事務所に経口補水液などを常備して、さらに車内にクーラーボックスなどを備えることなどを勧めて欲しいと思います。また、夏場の労働の後は、基本的に軽い脱水状態=かくれ脱水になっていると考えていいものです。作業後に、作業開始より1.5%より体重が減少していた場合は要注意ですが、ノドが渇いたからといって電解質のない水分だけを飲むのは止めましょう。もちろん、ビールだけを飲んでのどを潤すことは危険です。帰宅後に脱水状態が進行し、熱痙攣を起こすこともあります。作業の後は、栄養分とともに塩分などの電解質と水分を摂ることが望ましいのですが、「まず水分を」という場合は、経口補水液をお勧めします。



『注意!職場の熱中症。運送業で働く人は、熱中症への危険がいっぱい。』は

教えて「かくれ脱水」委員会のウェブサイト「かくれ脱水 JOURNAL」にて公開しています。       http://www.kakuredassui.jp/column11



情報提供元: PRワイヤー
記事名:「 注意!職場の熱中症 運送業には、熱中症への危険がいっぱい 産業医 山田医師に予防と対策を聞きました