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「令和元事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」によると、令和元事務年度の所得税の調査件数は43万923件と、前事務年度の61万655件の70.6%に留まっています。
「事務年度」とは7月から翌年6月までの1年とするサイクルで、税務署は事務年度単位で活動しています。
令和元事務年度の上半期は令和元年7月から12月までなので、令和元事務年度で新型コロナウィルスの影響を受けたのは下半期のみでした。
それでも1年間の調査件数が30%も減少していますので、令和2年1月から6月までの期間、調査はほとんど行わなかったと考えられます。
本記事執筆時は令和3事務年度になりますが、調査件数は新型コロナウィルスが発生する以前まで回復しているとは考えにくいです。
税務調査件数が減少している理由は2点あり、1点目は感染リスクに配慮した結果です。
調査担当者が納税者の自宅や事務所に訪れ、聴き取りや申告書を作成した資料を調べる「実地調査」は、通常1日かけて行います。
調査担当者は1名から3名と少人数ですが、同じ空間に長時間滞在するのは感染リスクが高くなりますので、従来よりも申告漏れがより見込まれる納税者に絞って、税務調査を実施していることが予測されます。
もう一つ税務調査件数が減少する理由として考えられるのは、申告期限の延長です。
所得税の申告期限は通常翌年2月16日から3月15日の1か月間ですが、直近2年分(令和元年分と令和2年分)の申告期限は、4月中旬まで1か月延長されました。
納税者の立場としては1か月の延長は助かりますが、税務署職員の立場からすると申告期限延長の対応のために人員を割かなければいけません。
また延長した1か月間は税務調査を実施できませんので、申告期間延長は調査期間の短縮を意味します。
この2点の理由から、調査件数は現在もコロナ禍以前まで回復していないと思われます。
「令和元事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」の資料では、税務調査件数が減少していましたが、1件当たりの申告漏れ所得金額は183万円と、前事務年度の148万円よりも123.6%増加しています。
1件当たりの追徴税額(本税+加算税)についても26万円と、前年比130.0%です。
また全体の調査件数は30%減少したにもかかわらず、全体の申告漏れ所得金額は前年比87.2%、追徴税額は前年比94.7%に留まっています。
このことから税務署はコロナ禍であっても、脱税や申告漏れ金額が大きい納税者に対しては税務調査を実施していることがわかります。
税務調査には、直接会って行う「実地調査」以外に、電話や手紙で申告誤りを指摘する「実地調査以外の調査」も存在します。
机上の上で確認できる申告誤りについては、以前から「実地調査以外の調査」により調査が行われており、今後は対面しない方法での調査が増加することが考えられます。
またコロナ禍では株価や仮想通貨の値が上昇し、利益を上げた人も多くいると思いますが、一部を除き、株価や仮想通貨の利益は申告が必要です。
現金商売と違い、インターネット取引は証拠がネット上に残りますし、税務署は情報を把握する手段をいくつも有しています。
「自分だけは大丈夫」の理論は税務署に通じませんので、今年利益が出た人は確定申告手続きすることを忘れずに覚えておきましょう。(執筆者:元税務署職員 平井 拓)
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