【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。

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習近平は10月24日の中共中央政治局会議でブロックチェーンを国家戦略として取り込めと発言。中国人民銀行はデジタル人民元に意欲的だ。実現可能性を中国の本気度と内情から読み解く。

◆中共中央政治局学習会での習近平の驚くべき発言
10月24日、中国共産党中央委員会(中共中央)政治局第十八回集団学習(※2)という会議で、「ブロックチェーンを核心的技術の自主的なイノベーションの突破口と位置づけ、ブロックチェーン技術と産業イノベーション発展の推進を加速させよ」と述べた。

具体的に何を考えているかを知るために、少し詳細に発言の内容を掘り下げてみよう。

1. ブロックチェーン技術を他の技術 と結合させ応用することは、新しい技術革新と産業変革の中で重要な役割を果たす。

2. ブロックチェーン技術応用は既にデジタル金融、IoT(モノのインターネット)、スマート製造、サプライチェーン管理、デジタル資産取引など、多くの領域に及んでいる。

3. 目下、全世界の主要な国家はブロックチェーンの発展に手を付けており、我が国は特に非常に良好な基礎を築いているので、さらにブロックチェーンと産業および経済社会との融合を加速しなければならない。
(筆者注:ここで言う「良好な基礎」とは、既に民間でのブロックチェーン応用が進められており、また一部では司法や企業登記など、お役所の仕事にも試験的に取り入れられていることを指しているものと思われる。)

4. 我が国は、この新興領域で理論の最前線を行き、トップランナーとして世界の動向の主導権を握らなければならない。

5. そのためには、安全で、国家が完全にコントロールできる技術の掌握が肝要だ。国家によるブロックチェーンの標準化を強化させ、国際社会における発言権を高めていかなければならない。マーケットの優勢を発揮して「イノベーション・チェーン」と「応用チェーン」および「価値のチェーン」をつなげていくのだ!

6. ブロックチェーン産業エコロジーを構築し、ブロックチェーンとAI、ビッグデータ、IoTなどの最前線の情報技術を統合させ、それに貢献できる人材チームを養成せよ。

習近平は引き続き、「民生」との融合に関して「4つの指針」を出している。

一、「ブロックチェーン+民生領域」での応用を模索し、ブロックチェーン技術の教育、就労、養老、精確な貧困対策、医療健康、偽造防止、食品安全、公益における応用を積極的に推し進め、人民に対して、よりスマート化された快適で優秀な公共サービスを提供する。

二、ブロックチェーンの技術サービスと新型スマートシティの建設を結合し、情報基礎施設、スマート交通、エネルギー・電力などの応用を模索し、都市管理のスマート化・精密化のレベルを高める。

三、ブロックチェーン技術で都市間の情報・資金・人材・信用情報の更なる大規模流通を促進し、生産要素のエリア内での秩序のある高効率流通を保証する。

四、ブロックチェーンの情報共有モデルを模索し、政府業務データの部門間、区画間の共通維持保守と利用を実現し、業務の協同処理を促進し、「一度行けばいい」という改革を深化させ、人民に更に良い政府業務の体験を与える。

(筆者注:外部から見れば中国は一党支配体制の中央集権的国家なのだから、さぞかしピラミッド式に命令系統や業務系統がきれいに出来上がっているだろうと見えるかもしれない。しかし実際はその逆で、中国は広大過ぎて、政府にも様々な部局があり過ぎ、地方政府と中央政府、地方政府と地方政府、また各政府内における各部門の情報流通や意思疎通が非常に悪く、公務員の仕事の効率も凄まじく悪い。たとえば、ある手続きを遂行するために、某政府部門Aの窓口に行ったとしよう。すると窓口Aは、「あ、それなら窓口Bに行け」と回答する。窓口Bに行くと、「それはCがやっている。Cに行け」とすげなく断る。それをD窓口、E窓口、F……と延々と「たらい回し」にされて、互いに責任も取らない。これが中国の様々なレベルの行政の実態だ。

そのために、中央集権的なシステムを作るのは難しいという現実がある。おまけにその間に賄賂や汚職、あるいは不正決済など何でもありだ。そこで、先ずは「一度行けば、それで済む」という業務を遂行できるだけでも、ブロックチェーン応用には意義があるのである。)

◆本気度、その1——国家暗号法
国家主席・中共中央総書記・中央軍事委員会主席である習近平が言った言葉なので、中国の国家戦略としての本気度に間違いはないのだが、それを裏付けるものが、次から次へと発布された。まず国家暗号法からご説明しよう。

10月26日、第十三回全国人民代表大会(全人代)常務委員会第十四期会議が開催されて「中華人民共和国暗号法」を可決した(※3)。便宜のため、ここでは「暗号法」と略称することにしよう。

暗号法はブロックチェーンのシステム構築には欠かせないもので、その目的は暗号法第一章の「総則」に書いてある。それによれば、暗号法は国家の安全と公共の利益を守りながら、イノベーションなど暗号産業の発展を目的とし、中国共産党の指揮の下、中央政府によって管理運営される。

また暗号法では機密度の高さによって「核心暗号」、「一般暗号」および「商業用暗号」の3つのレベルに分けている。

• 核心暗号:国家が保護する最高レベルの機密性を持つ「絶密級=極秘レベル」
• 一般暗号:最高機密性レベルが「核心」の次の「機密級=機密レベル」
• 商業用暗号:公民、法人、その他の組織のネットワークと情報セキュリティを保護。

全部で44条もあるので詳細は省くが、第44条に「2020年1月1日から施行される」とある。本気だ。


※1:https://grici.or.jp/
※2:http://www.xinhuanet.com/2019-10/25/c_1125153665.htm
※3:http://www.npc.gov.cn/npc/c30834/201910/6f7be7dd5ae5459a8de8baf36296bc74.shtml

この評論は11月4日に執筆

(「習近平「ブロックチェーンとデジタル人民元」国家戦略の本気度(2)【中国問題グローバル研究所】」へ続く)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 習近平「ブロックチェーンとデジタル人民元」国家戦略の本気度(1)【中国問題グローバル研究所】