1. リアルエステート事業 (1) 東京の不動産市況 a) コロナ禍後も不動産市況は活況 新型コロナウイルス感染症拡大(以下、コロナ禍)によりホテルや商業施設の不動産市況は大きな影響を受けたが、住居(レジデンス)に関しては影響が軽微だったと言えるだろう。また、東京オリンピック・パラリンピック後は不動産市況が落ち込むと予想する意見も過去には見られたが、現在までのところ市況は堅調である。(一財)日本不動産研究所「第47回不動産投資家調査」(2022年10月現在)においては、不動産投資家に「今後1年間の不動産投資に対する考え方」を質問したところ、95%が「新規投資を積極的に行う」と回答し、前年調査と同様に高い値を維持した。一方で「既存所有物件を売却する」は20%、「当面、新規投資を控える」は5%と少数派だった。不動産投資家の積極的な投資姿勢が依然として継続していることがわかる。
b) 世界の大都市と比較した“TOKYO”不動産の優位性 世界の大都市のなかで東京の不動産価格はまだ割安である(割高ではない)と言われている。日本不動産研究所「第19回国際不動産価格賃料指数」(2022年10月現在)によると、東京のマンション/高級住宅の価格水準を100.0とした時に、香港(248.9)、ロンドン(186.1)、上海(157.5)、ニューヨーク(133.6)、シンガポール(125.6)などが上回っている。一方で、海外における世界大都市の魅力ランキングで東京は1位を獲得するケースが多く、魅力度は折り紙付きである。さらに、グローバルに投資を展開する大手の投資家(ファンドなどを含む)にとっては、日本の低金利政策も有利な条件となる。海外投資家が日本において不動産投資を行う場合には、SPC(特別目的会社)を組成し、自己資本のほかにノンリコースローンで資金を調達する場合がある。この場合には日本の低金利は有利であり、総合的に高い投資利回りにつながる。昨今の円安傾向は、さらに“TOKYO”の割安感を高めている。
(2) 東京都心部の不動産の開発・投資に特化して競争力を磨く a) 堅調な需要が見込める東京都心部 同社は創業以来、東京圏の単身者・DINKS向け都市型レジデンスを中心に不動産開発事業を展開している。人口減少期に入った日本でも、東京圏においては一世帯当たりの人数が減少しているものの、世帯数が増加中であり、さらには働き方やライフスタイルの変遷もあり、好立地にある都心マンションの需要は衰えていない。結果として、都心での用地の確保の難易度は上昇し、新築マンション供給戸数は頭打ち傾向が続き、マンション価格は上昇を続けている。同社の戦略は明確であり、23区のなかでも都心部を中心に投資をしている。同社取り組み物件(都市型レジデンス、収益不動産、開発プロジェクト)のうち96.4%は23区内に位置する。また、最寄り駅から5分以内の物件が59%、10分以内で97.6%となっており、利便性の高い物件への投資を徹底している。特に、飯田橋・神楽坂・市ヶ谷においては絶えず複数のプロジェクトが進行している。
b) 物件規模の大型化、多様化が進行 同社が取り扱う不動産の物件規模は、これまで5億円から10億円未満のプロジェクト規模が多かったが、2022年9月期は物件規模構成比に変化が見て取れる。1つ目の変化としては、10億円以上の物件が増加(17件)し、50億円を超えるマンションの売却案件なども含まれていることである。2つ目の変化としては、子会社化したアイディグループの守備範囲である1億円未満の物件が増加していることである。全体として同社グループの物件規模が多様化していると言えるだろう。
c) エリアに特化した用地取得と建築発注が強み このような環境下で、需要の堅調な東京圏、特に神楽坂・飯田橋・市ヶ谷をはじめとする「職・食・住」の利便性が良好なエリアに事業エリアを特化することで、販売面だけでなく、用地取得や建築発注においても優位性を確立している。情報の非対称性が依然大きい不動産業界では、有益な用地・物件情報であればあるほど、フェイス・トゥ・フェイスの商談が重要になってくる。同社はエリアを限定することにより、より効率的で密度の濃い仲介業者などとの業界人脈を構築できており、その情報取得力は高い。またエリアを限定することで継続的に工事発注できることから、ゼネコンなど建築業者とも良好な関係性を構築できており、品質の高い建築請負工事を実現している。