『最高の体調』
(クロスメディア・パブリッシング)
「読者が選ぶビジネス書グランプリ2019」自己啓発部門に『最高の体調』がノミネートされました。投票期間は2019/1/9まで。ぜひご投票ください!
仕事がつまらない。働きたくない。できることなら毎日遊んで暮らしたいが、生きるためにはそうもいかない……。
そう思ったことがあるなら、朗報だ。年に5000本の科学論文を読み続けるサイエンスライターにして、7万部突破の話題書『最高の体調』の著者・鈴木祐氏は、「仕事を含む現代生活を『遊び化』し、楽しみながら成果も上げる方法がある」と言う。
一体どんな方法なのか、鈴木氏に解説してもらった。
文明の発達した現代にはたくさんの刺激がある一方、『漠然とした不安感』や『なんとなくつまらない、楽しくない』という感覚を抱えている方も増えています。このような現代人特有の悩みを『文明病』と呼びます。解決のためには、それに侵される以前の時代、狩猟採集民の環境が参考になります。
現代生活を『遊び化』する方法においても同様です。先進国と、狩猟採集民の環境を「遊び場」としてとらえなおし、私たちと狩猟採集民の遊びにどんな違いがあるかを見ていくのです。
まず違うのは、狩猟採集民の世界は「遊び」のルールがシンプルな点です。同じ時間に狩りへ出向き、獲物を仕留め、仲間たちと食料を分かち合い、あとはみんなと歌って踊る。彼らの生活ルールはこれだけで、つねに自分が行うタスクがはっきりしています。
ただし、これは狩猟採集民の遊びが簡単だという意味ではありません。自力で素材を集めて弓矢を作り、200〜300種類を超える野生動物の生活パターンを記憶し、砂や泥に残る痕跡をもとにターゲットの狙いをつける作業は、いずれも高度な認知機能が必要です。この点で狩猟採集民の遊びは、チェスや囲碁のようにシンプルながらも奥深い構造を持っています。
いっぽう現代の生活環境はどうでしょう?
長期にわたってローンの支払い計画を立てたり、初対面の人に商品を売り込まねばならなかったり、面識のない政治家に一票を投じさせられたりと、ヒトの脳にとって「新しすぎる」タスクを次々と要求されます。
しかも、そのルールは社会システムが変わるごとに変更され、キャッチアップしていくだけでも一苦労。ルールが整備されていない遊びほど、プレイヤーのやる気を削ぐものはありません。
さらに違うのが、フィードバックの即時性です。
良くデザインされたゲームは、プレイヤーにすぐ反応を返すように設計されています。シューティングゲームで敵を倒すたびに得点が入ったり、RPGで新しい武器を手に入れたキャラの攻撃力が上がったり、プレイヤーが失敗したらステージの最初からやり直しになったりと、目に見える形でなんらかの変化が起きないと、プレイヤーはゲームを先に進めるモチベーションが得られません。
この点で、狩猟採集民の暮らしは合格です。狩りに出れば獲物が手に入るかどうかはすぐにわかり、弓矢を作ればその場で性能を試すことができ、建材を組み上げれば半日で住居ができあがります。自分が立てた仮説の妥当性はすぐに検証され、プレイヤーのモチベーションも維持されるのです。
ところが、先進国ではそうもいきません。
自分の行動に即時のフィードバックがあることは少なく、たいていはひとつのプロジェクトが形になるまで数カ月を要し、社会で使えるスキルが身につくまでは数年かかり、それまでは達成感のない毎日が続きます。自分がどんなに良い手を指しても、相手がいっこうに次の駒を動かしてくれないチェスのようなものです。
その結果、あなたの満たされない欲望は、ネットニュースやSNSのように、即時のフィードバック性を持つ媒体に向かいやすくなります。ブラウザを立ち上げれば新しい情報が得られ、インスタグラムに写真をあげればすぐに「いいね!」を得られるからです。
が、これらの反応は脳の快楽システムを疲れさせるだけの超正常刺激にすぎません。刺激の質はファストフードやお菓子に近く、摂取しすぎれば、やがて反応の快楽だけを求めるフィードバックゾンビと化すことになります。
→NEXT:ポイントは「ルール設定」と「フィードバック化」
つまるところ、私たちの環境は「遊び場」としては粗悪品です。
ルールは人為的で理解が難しく、明確なゴールもなく、即時のフィードバックが少ないせいで未来への不安も増します。こんな状況では、おちおち安心して遊べないでしょう。
この問題に対して、「人生はゲームだ」や「仕事を遊びに」といったお題目を唱えても役には立ちません。
そもそも現代の環境から「遊び」が失われたのは、農耕の開始で生まれた遠い未来の出現に起因しています。これだけの変化に精神論で立ち向かうのは無理筋です。
私たちにできるのは、狩猟採集民から「遊び」の基本を学び、いまの暮らしに応用すること。そのためのキーワードは、「ルール設定」と「フィードバック化」の2つです。
ルール設定においてもっとも効果が高いのは、「イフゼン(if-then)プランニング」という技法です。 1980年代に社会心理学の世界で生まれたテクニックで、「実行意図」と呼ばれる心理現象をベースにしています。
やり方はとてもシンプルで、「自分が決めたプロジェクトについて、「もしXが起きたら、 Yをやる」といった形式で実行のタイミングをルール化しておくだけ」です。具体的には次のようになります。
・6時になったら(X)掃除をする(Y)
・月曜になったら(X)会社の帰りにジムに行く(Y)
このように、達成したいプロジェクトに対して、「トリガー」になる条件を付けるのが 基本です。
その効果は多くの研究で確認されており、なかでもニューヨーク大学のピーター・ゴルウィツァー氏が行ったメタ分析が有名です。実行意図に関する94 件のデータを精査したところ、結論は次のようなものでした。
「イフゼン・プランニングにより日常の目標を達成する確率は格段に高まる。その効果量は0・65 だ」
0・65という効果量はかなり優秀で、これほどのスコアを出したテクニックは多くありません。禁煙、禁酒、ダイエットなど、なんらかのゴールを持っている人はまず試すべきだと言えるでしょう。
「イフゼン・プランニング」のメリットは、あらゆる状況への応用が効くところです。たとえば、次のような使い方も考えられます。
・状況 計画を予定どおりに進める自信がない
設定「15時までに原稿が終わっていなければ、ほかの作業を止めて最優先で取り組む」
・状況 嫌な顧客と話さねばならない
設定「顧客からクレームが入ったら、いったん深呼吸をする」
・状況 誰かの役に立ちたい
設定「仕事中に頼み事をされたら、5分だけ手伝ってあげる」
いずれも状況はバラバラですが、「もしXが起きたらYをやる」のフォーマットにさえ落とし込めれば実行意図は起動します。
つづいて、「フィードバック化」についてです。
2017年、シカゴ大学のクリストファー・ハシー博士は、実験によって「無意味な報酬に人間はどう反応するか」を調べました。被験者はパソコンを使った作業を指示されたのですが、画面上にはつねに「謎のスコア」が表示されています。作業を終えるたびにランダムで増加しますが、作業のパフォーマンスを評価しているわけでもなく、得点を稼いだからといって賞品がもらえるわけでもありません。あくまでただの数字であり、被験者の多くも途中からその事実に気づいていました。
しかし、被験者のパフォーマンスには大きな違いが出ます。「謎のスコア」が速く上がるほど被験者のモチベーションも上がり、スコアが増えないときには作業効率が下がってしまったのです。
ハシー博士は、このようにコメントしています。
「数字のフィードバックは、低コストで大きなインパクトを持つ。この現象は、エクササイズでもビデオゲームでも政策提言でも同じように使えるだろう」
無意味な「数字」ですら報酬になりうるのだから、人間はよほどフィードバックに飢えているのでしょう。ただし、このことは同時に、私たちがいかに簡単にフィードバックを得られる生き物であるかも示しています。
学校のラジオ体操でもらった出席シール、TODOリストのチェックマーク、釈放までの日数を独房の壁に刻む囚人……。ゴールまでの進行度と平行して数量が増えていくものであれば、人間の脳はなんでも快楽を得られるようにできています。
その意味でもっとも手軽なフィードバックは、「カレンダーを使った作業のトラッキング」でしょう。
方法は簡単で、その日のプロジェクトを達成したら、カレンダーに◯印を付けるだけです。原始的な方法ながらフィードバックの効果は高く、同じ原理を使ったスマホ用のアプリも公開されています。
ただし、どちらかと言えば、スマホよりアナログの手帳やカレンダーを使ったほうが効果は高くなるので注意してください。ハシー教授の実験によれば、モニタのスコアを消した瞬間に、被験者のモチベーションも下がる傾向があったからです。フィードバックはいつでも確認できる状態にしておきましょう。
この記事では、「仕事」を「遊び化」する2つのテクニックを取り上げました。ポイントは「ルールを設定し、自分にフィードバックを与える」ことです。このポイントを見失わなければ、仕事以外のことも含むどんな状況にも対応できるでしょう。
『最高の体調』
(クロスメディア・パブリッシング)
「読者が選ぶビジネス書グランプリ2019」自己啓発部門に『最高の体調』がノミネートされました。投票期間は2019/1/9まで。ぜひご投票ください!
鬱病・疲労・肥満・不眠・不安・病気・老化——。
通常、これらの問題は別々に取り扱われます。
やる気がない人には「自己啓発本」、仕事の効率が悪ければ「ビジネス書」、感情のコントロールができない人には「心理学書」、体の不調には「家庭の医学書」といった具合です。
これはこれで効率的なアプローチですが、いっぽうでデメリットも存在します。それぞれの問題が、あたかも別々の現象であるかのように見えてしまうため、どうしてもその場しのぎの解決策になりがちなのです。
しかし一見バラバラのように見える問題も、根っこまで下りてみれば実は同じもの。すべては一本の線でつながっています。そこで、本書では、より総合的なアプローチを取ります。
まずは現代人が抱える問題の「共通項」をあぶりだし、そのうえで、すべてを柔軟に解決する汎用的なフレームワークを提供するのが最終的なゴールです。詳しいことは、科学的根拠のもと、実践的に解説していきます。ぜひ本書を読んで、文明病から脱却し、本来の自分を取り戻していただけたら幸いです。
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