ヨガをすることがポピュラーなことになった今、その教えを日常に取り入れたいと考えている方も多いでしょう。専門書を手に取るのもいいですが、書店に並ぶ本の中にもヨガのエッセンスが詰まったものがあります。そこでヨガスクールの講師としてインストラクターを養成している筆者が、ヨガの教えをより身近に感じてもらえる1冊をご紹介します。第3回は「自分らしく生きる」をテーマにしたノンフィクションです。
「だれもが外側の尺度に合わせて無理するのをやめて『自分自身』に戻って『自分の仕事』をしたなら、世界は最高に幸せな場所になるはずとかなり本気で思っています。」
出典:服部みれい 文筆家
ヨガインストラクターとなったルーツ
現在僕は、ヨガを人々に伝えることを仕事にしています。もしかしたら人々には変わった職業に就いていると思われるかもしれません。僕の家族も変わった職業で、代々ドッグトレーナーの家系なのです。一人っ子の僕は、常に犬と一緒に過ごし育ってきたので、小さい頃は獣医になりたいと思っていました。その後10代の多感な時代に、衣食住への関心と体への強い興味から、体に一番近いものである服の構造を学ぶため、文化服装学院でファッションデザインを専攻していました。現在はヨガを通じて筋肉や骨格からなる体の構造や仕組みについて学びを深めているルーツが、僕の場合は服だったのです。
多くの20代の若者がそうであるように、若い頃の僕も生意気で血気盛んでした。テキスタイルデザイナーとして、またセレクトショップなどでファッションの仕事をしていましたが、既存のファッションの世界では「生きることの本質」を見出せず、また常に仕事を通じて自分自身に失望をしてきました。
そんな悶々としている20代後半にヨガと出会いました。興味があったけどなかなか踏み込めずに数年が経っていましたが、ちょうどその頃の日本ではヨガがブームとなっていたので、スポーツジムで手軽に良いクラスを受けることができました。僕は体と心を同時に満たすことができるヨガにすっかり魅了されてしまい、ヨガを続けることを自分のライフスタイルにしたいという思いから、それまでの仕事や住まいを清算して、ヨガを生活の中心に据えるようになったのです。
好きを仕事に
服部みれいさんの『わたしらしく働く!』という書籍を、2年前の自分の誕生日に読んでいました。彼女は新しい時代の生き方をさまざまな角度から提案し、自らも実践をされている文筆家です。新しい時代を生き抜くための知恵として提案するものの中には、自然療法を中心にアーユルヴェーダや瞑想なども多く取り上げられています。『わたしらしく働く!』では、そんな著者が駆け出しの雑誌編集者となり、後に自身のメディアとして雑誌を創刊、出版社を設立、編集長として、文筆家として、また一人の女性として奮闘する様子がみずみずしく描かれています。
この本を読みながら、僕の仕事の転換期から現在のヨガ講師に至るまでの道のりを思い出しました。多くの人が「好きなことを仕事にしたい」と思い描いています。そのような人々にみれいさんは、「誰でも何でもすぐに『好きなこと』を仕事にできるほど世の中は甘くないかなとは思います」と述べ、さらに以下のようにアドバイスを送っています。
「わくわくすること」
「やめないこと、あきらめないこと」
「小さな成功体験を積み重ねること」
「自分自身への感謝やご褒美を忘れないこと」
「どうしてもうまくいかない時は、時と場所を変えてみること」
「高飛びせずにじわじわと進むこと」
「部分的にでも今現在の仕事を先に好きになること」
「自分が幸福になることを許可すること」
僕も端から見れば『好きなこと』を仕事にし、自分らしく自由に働いているように見えるかもしれません。そして最初から今のような立ち位置にいるように思われるかもしれませんが、もちろんそのようなことは不可能ですし、ありえません。
10数年前に、僕が初めてのヨガインストラクター育成スクールを修了した当時は、ヨガスクールの数もヨガスタジオの数も今よりずっと少なくて、特に指導経験のない男性がヨガの指導者として実践を積めるような機会はなかなかありませんでした。やっとのこと、小さな場所でヨガのクラスを担当するチャンスを与えられ、その後諦めずにコツコツと担当するクラスを増やしていきました。
そこに至るまでの数年は休みを取らず、必死に働いていました。当時は「何でそんなに働くことができるのか?」と周りの友人から聞かれましたが、やはりヨガが好きという気持ちが強くあったのと、僕の家族がドックトレーナーでしたので、生き物を扱う以上は、実質的な休みというものがない状態で日々働いていたのを目の当たりにしていたからだと思います。家族の背中を見てきたことで、好きなことを仕事にするには努力が必要だと思っていましたし、辛いという気持ちはなくむしろ楽しんでいました。
自分の使命とは?
僕は、この世に生を受けて今この場所にいる意味とは、与えられた体と心を上手に扱いながらどのように世界と関わっていくのか、そしてその質を高めることにあるとヨガの実践を通じて感じています。
ヨガの教えでは、ダルマといわれる自分の使命を全うすることが、自分と世界との調和であるとされています。世界とつながり、自分の使命に忠実に生きていくならば、魂と自分が深い絆で結ばれます。それが好きな仕事で自分らしく働くことを通じてなされるのならば、常に情熱的に生き、内からの生命力(オージャス)で満たされそうです。「私らしく働く」ということは、自我(アハンカーラー)を中心に据えた考え方などではなく、自分の使命に従った結果授かったものであると感じています。そして、ヨガ的な自己実現とは物質的、金銭的な成功とは異なるということを常に心に留めておきたいです。
なりたい自分になる
僕は「なりたい自分になる」ということをテーマにヨガをベースとした活動をしていますが、僕のプロフィールにあるヨガ講師という職業、スクールやスタジオのディレクターであるという肩書きは、僕自身の本質ではないということをはっきりと認識しています。僕の現在の職種は、僕の使命を全うするのに今のところ最適であるに過ぎないと思っていますし、肩書きは、僕がイメージしたことを具現化しやすくするための通行証のようなものだと思っています。
僕の興味はヨガの伝統やテクニックを伝えるのみならず、その根底にある本質的な幸せを求めることを通じて自分のあり方を確立し、人の生き方に良い影響を与えることに尽きます。
もしかしたらその大きなテーマをメッセージとして人々に伝えるには、ヨガ講師という立場では限りがあるかなと感じています。そのことを裏付けるかのように、僕が信頼を寄せている占星術の先生たちからは、今後僕の本質にある創造と破壊の力が大きく働き、また新たな挑戦を続けていくだろうと教えていただきました。そして今その始まりを確かに感じています。
人が情熱を持って自分の仕事(使命)に取り組むことは、「今を生きる」ことにほかなりません。今生きているという実感を確かに感じ続けることができるように、目の前にあることに焦点を絞り、集中力を絶やさずに先に進んでいきたいです。
情報提供元: Tonoel