年々人気が高まりつつあるヨガインストラクターというお仕事。大勢のインストラクターがいる中で、どうしたら自分らしいスタイルを確立することができる? そんな悩めるヨガインストラクターたちのために、現在ハワイでマタニティヨガの第一人者として活躍するトレース初美さんにインタビュー。福岡からNY、ハワイへと移住し、ヨガインストラクターとしての道を探求し続けた彼女の軌跡とは?


ヨガの聖地、NYでガラリと変わったインストラクターライフ

ーTonoel編集部(以下 T)

現在、ハワイや日本でヨガインストラクターとしてはもちろん、マタニティヨガのインストラクターを育てる講師としても活躍している初美さんですが、今日に至まで福岡、NY、ハワイと移住されながら、様々なヨガを学んできたと伺いました。
インストラクター人生の始まりである、福岡ではホットヨガスタジオで3年間ヨガインストラクターをしながら店舗チーフも務められ、その後、移住したNYで飛躍的にヨガ人生が開けたそうですね。
ートレース初美(以下 初美)

はい。博多でのチーフもずっと続けたかったのですが、30歳の時、結婚を機に、主人の母国であるアメリカに移住しようという話になって急遽NYへ行く事になったんです。
NYは1年ちょっとしかいなかったのですが、ものすごく濃い1年でしたね。ヨガ三昧の毎日といっても過言ではないほど(笑)
まず、NYは日本よりもひと昔前にヨガブームがきていたので、当時の日本に比べてヨガの種類もスタジオも圧倒的に数が多かったんです。1ブロックに1つヨガスタジオがあるくらい。それはもう私にとってものすごくエキサイティングで。日本ではホットヨガを教えていたけれど、1日数本ホットヨガを教えるのは体力的に若いうちが向いているな、と感じていたので、ちょうど他のヨガに関しても興味津々な頃だったので。
とはいえ、まずは職探しということで、「NYジャピオン」というNYの情報誌をチェックしたところ、『日本語でヨガを教えられるインストラクター募集』という求人を見つけて。最初はまだ英語で教える自信がなかったので、これならできる!と早速面接に向かいました。
行ってみると、そのスタジオのオーナーは北海道出身の日本の方だったので、日本での経験も認められてすぐに採用が決定。ここから、NYでヨガを教える経験がスタートしました。
ー T

ご自身のNYでのヨガの学びはいかがでしたか?
ー 初美

仕事をこなしつつ、空いた時間で自分自身のレッスンとして、ヨガのクラスを毎日受けていました。NY全体のスタジオを巡れる、ヨガフリーパスという冊子(当時で70ドル位)があって、登録されているヨガスタジオのクラスのトライアルチケットのクーポンがたくさん付いているんですよ。それをほぼ使い切るぐらい、NY中のスタジオを巡りました。
自分が3クラス教えた後に、2クラス受けに行ったりして。若かったし、学びたい! 色んなスタジオのヨガを吸収したい! という気持ちが強く、すべてが新鮮で、それはそれはもうヨガ漬けの毎日でした(笑)。
ー T

NY流のヨガを体験して、どんな影響を受けましたか?
ー 初美

色んな先生のクラスを受けたのですが、同じ先生でも毎回内容、流れが全然違っていてオリジナリティがすごくあったところが刺激的でしたね。生徒さんのその日の様子に合わせて即興で流れが変わったり。まるでアートのようだなって思いました。日本でホットヨガを教えていたときは、わりとポーズが決まっていて、マニュアル化されていたところがあったので、これにはすごく影響を受けましたね。
それから、NYでは世界的に有名なヨガの先生のクラスを受けられるのも魅力でした。私は、アイザックペナという先生がすごく好きで、先生のクラスを受けると、体がどんどん柔らかくなっていって、今までできなかった未知のポーズが出来るようなったりして、ようやく出会えた! と思える先生で、彼のクラスに集中的に通っていました。
そうやって色々なスタジオを巡るうちに、やはりNYにいるからには日本人向けのヨガクラスだけでなく、英語で現地の人にも教えたいなと思うようになって、この頃に全米ヨガアライアンスのRYT200の資格も取得しました。

マタニティヨガとの出会いと、予期せぬ試練

ー T

今後の初美さんの軸となる、マタニティヨガを教え始めたきっかけというのは?
ー 初美

教えているヨガスタジオでちょうどマタニティヨガの需要があって、オーナーからトレーニングを受けて教えられるようになって欲しいと要望があったんです。
2人の先生からトレーニングを受けたのですが、最初の先生は子供2人がいらっしゃる先生で、先生自身が出産したばかりだったので、すごく分かりやすくて説得力がありました。ただ、先生が言うことは頭では分かるけれど、私自身はその頃まだ新婚で、妊娠も出産もしたことがなかったので、リアルに実感できないところがあって。
お腹の中に赤ちゃんがいるので、やはり恐る恐る教えていたところがありましたね。本当に妊婦さんはこれで気持ちいいのかな? とか100%自信を持って教えることができなくて、どこか不安があった。
それでも場数を踏む事によって慣れてはきたのですが、あるとき私のマタニティヨガクラスを受けていた生徒さんが、出産後にまたいらして、帝王切開だった、と報告を受けたんです。今までの生徒さんはほとんど安産だったので、とてもショックでしたね。自分を責めてしまい、自信をなくしてしまったんです。
そんな時に、ちょうどカナダからジャニスという先生がNYに来て。当時彼女は子供がいないのに、世界的にマタニティヨガの先生として有名だったんです。なぜ子供がいないのに、自信を持ってマタニティヨガを教えられるのか、すごく知りたくて、すぐに先生のレッスンを受けに行きました。
クラスで自己紹介する際に、思い切って先生に「私は子供を産んだことがないから、正直マタニティヨガを教える自信がないんです。生徒さんに帝王切開になってしまった方もいて、自信をなくしてしまいました」と相談してみたんです。
そしたら先生が「それはあなたの責任ではないし、自信がないのはただの勉強不足。産婦人科の先生だって、出産経験のない男性の先生がたくさんいるでしょう? 彼らが自信をもって赤ちゃんを取り上げられるのは、それだけたくさん努力して勉強しているからよ」と。なるほど! と思うのと同時に、“勉強不足”という言葉にグサッときましたね。
それからは、医学書や妊娠出産の本を読みあさって、クラスでも妊婦さんにしょっちゅう「このポーズは本当にここに効いてる?」とか、いちいち確認しながらメモをとっていって。毎日毎日そういうことを積み重ねていくことで、ジャニス先生がおっしゃっていたように、本当に自信を持って教えられるようになりました。

移住したハワイで、自分のビジネスをスタート

photo:トレース初美


— T

NYでマタニティヨガを教えるようになった後、キッズヨガやチェアヨガの資格も取得され、NYでのインストラクターライフも充実されていたようですが、1年ちょっとで今度はハワイへ移住することになったとか。NYとハワイでは、またライフスタイルもヨガ事情も全然違うと思いますが、いかがでしたか?
ー 初美

主人の仕事の都合でハワイへ移住したのですが、まず驚いたのが、ハワイのヨガスタジオの数。NYに比べてものすごく少ないんですよ。気候もいいし、ストレスを抱えている人が少ないんでしょうね(笑)。
でも、逆に考えるとまだ余地がたくさんあるから、ある意味チャンスかな、と。日本やNYでは、雇われインストラクターだったので、これを機会に自分のビジネスとして始めてみようと思ったんです。NYにいるころからリサーチして、自分でホームページを作ったりもして。
最初は何もコネクションもないし、宣伝も個人のブログ程度だったので、集まる生徒さんは数人。週に1〜2回、ちょこちょことビーチヨガや自宅でマタニティヨガのレッスンをしながら、マッサージサロンの受付の仕事などもしていました。
そのうち、妊婦さんの口コミでだんだんと生徒さんが増えていって。というのも、NYできちんとライセンスを取得して、日本語でマタニティ専門のヨガを教えている先生がそのときハワイにいなかったんです。
— T

まさに、そこにビジネスチャンスがあったんですね。そこからどのように、活動の場を広げていったのですか?
ー 初美

地道に活動を続けるうちに、しばらくして知り合いが日本航空の仕事を紹介してくれるようになったんです。日本航空でハワイに来た人が無料で受けられるプログラムの中に、「公園で受けるヨガクラス」というのがあって。そういった出張ヨガも徐々に始めていきました。
それから、ワイキキに日本人のオーナーがヨガスタジオをオープンするという情報もキャッチして、もしよかったらお手伝いさせてください! とすぐに挨拶に行って。じゃあぜひ!と二つ返事でOKをもらい、英語と日本語でのマタニティのクラスも作ってくださいました(笑)。
自分でも日本語でのマタニティヨガクラスを主催していましたが、やはりハワイローカルの人にもオープンなスタジオで英語で教えたいという気持ちがありました。
— T

初美さんの素早い行動力がそのままチャンスにどんどんつながっていますね!
ー 初美

ハワイには、住んでいる日本人の方も多いですし、旅行で来る方も多いので、日本語が話せるヨガインストラクターの需要があったのですが、当時ハワイ自体がまだヨガインストラクター、ましてやマタニティヨガを教えているインストラクターが少なかったのもラッキーだったのかもしれません。
また、最近では、日本のヨガスクール「FIRSTSHIP」で年に一度、マタニティヨガの専任講師を短期で務めたり、日本のインターナショナル幼稚園に、英語のキッズヨガクラスを教えに行ったりと、出張帰国することも増えてきました。
— T

2013年には、ご自身でも妊娠・出産を経験され、ハワイのヨガスクール2校でRYT200のマタニティヨガ専任講師を務めたり、2015年には、全米ヨガアライアンス認定マテ二ティヨガスクール(RPYS)「HAPPY HATSUMI YOGA ACADEMY」を設立、2016年からはマタニティヨガの資格であるRPYT取得コースも開催したりと、最近はインストラクターを育てる活動にも力を注いでいるようですね。
ー 初美

はい。というのも、私が妊娠したときに、三ヵ月間産休を取ったのですが、その間に、マタニティヨガを受けたくても受けられない生徒さんがやはり出てきてしまって。当時、私の代わりに安心して任せられるマタニティヨガインストラクターもいなかったので、これはマズイぞ、と(笑)。
生徒さんの中でも、マタニティヨガのインストラクターに興味を持ってくれる方も結構いらっしゃったので、ハワイでもっと女性が活躍できる場所を提供したいという思いもあり、今は、ヨガインストラクターを育てる講師の仕事に力を入れていますね。

私がマタニティヨガに惚れ込んだ理由

— T

現在、初美さんのヨガインストラクター(講師)人生として軸となっているのは、マタニティヨガだと思いますが、様々な種類のヨガを経験された後でそこに辿り着いた理由は何でしょうか?
ー 初美

マタニティヨガに通ってくれていた生徒さんは、産後ヨガに必ず赤ちゃんを連れて戻ってきてくれるんですよ。先生、元気に産まれました!見てください!って。その赤ちゃんを見たときに、ああこの子がお腹の中にいたんだ、って本当に嬉しくて。こんなやりがいのある仕事はないなと、やはり感じられるからですね。
それから、出産時に「呼吸に意識を向けることができました」、「ヨガの呼吸法がすごく役に立ちました」という話を聞いたりして。出産は女性の一大イベントでとても大変な作業ですから、そんなときに少しでもヨガが役に立てたと感じられると本当に感慨深いです。
今は、私自身も妊娠・出産を経験したので、より分かりやすく指導もできるようになりましたし、NYで学んだキッズヨガやチェアヨガも、妊婦さんや産後のママ、その子供達へのレッスンに役立っています。最終的な私のテーマは「女性が幸せになるためのヨガ」なんですよ。
女性の妊娠・出産、産後、子育て、もちろん妊活をされている方を含めて、女性の人生に深く関わってくるイベントをヨガで少しでも豊かにしていくことができたらなと。これが、今後の私の目標ですね。
***海外で培った様々なヨガ経験の後、極めたマタニティヨガで自分のスタイルを確立した初美さん。「ヨガでこんなサポートがしたい」「ヨガでこんな風に幸せになってもらいたい」そんなフィーリングを真摯に辿っていくことが、人とは一線を画すインストラクターへとつながるのかもしれません。

情報提供元: Tonoel
記事名:「 ヨガインストラクターの道の先には、“女性が幸せになるためのヨガ”があった