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――「なおがら展」の開催が目前に迫ってきました。ここではまず、本展の開催に至った背景からお伺いできればと思います。
佐藤:
なおがらさんに初めてお会いしたのは『さくらタイムズ』という浅草の情報誌で編集長をされている阿部さんからのご紹介がきっかけでした。
「写真展をやりたい人がいるから会ってみてよ」って頼まれたんです。浅草は芸能の街ゆえそういうお誘いは多いですから、普段は話をいただいた段階でお断りしていることが多いのですが、ほかでもない阿部さんからのお誘いだったので、一度お会いすることにしました。
――共通のお知り合いを介して生まれたご縁だったんですね。
なおがら:
僕は、普段から金龍の舞の撮影などでお世話になっている「浅草の縁結ぶ場 Chanbow」の青柳さんとの縁で阿部さんと知り合いました。
浅草を撮り始めて1年ほどが経った頃に「僕、ホテルみたいなところで個展やってみたいんですよね」って青柳さんにポロっと相談してみたら、たまたま隣にいた阿部さんに話が回って、阿部さんが「じゃあ…」って感じで話が進んでいきました。
――なるほど、「個展をやりたい」と口にしてみたところから、浅草の人と人がつながって実現に至ったということですね。佐藤さんは最初、なおがらさんにどんな印象を抱いたんですか?
佐藤:
そのような経緯だったので、本当はお断りするつもりで会ったんです。しかも会ってみたら名刺も持っていなかったので大丈夫かなって(笑)。
けれど、話してみて、彼の受け答えを聞いていると好感が持てて、それに以前からTikTokで彼のことは知っていたので、会ってから初めて「“写真展をやりたい人”って、なおがらさんのことだったの?」となって、一気に距離が縮まりましたね。
――なおがらさんは、会場である浅草ビューホテルを訪れてみて、どんな感想を持ちました?
なおがら:
浅草を拠点にしてこの街の人と観光客の人たちを撮り続けてきたので、最初の個展は絶対に浅草でやりたいと思っていました。
ただ、もし少しでも個展というものに予備知識があったら、この会場ではやらなかったと思います。なぜなら今回使わせていただく「ベルヴェデール」は、普段は結婚式の披露宴会場などに使われている場所ですからね。僕が想像していたより百倍くらい大きな会場になってしまった(笑)。
驚きはありましたが、今はここで個展ができることが本当に嬉しいです。
――“初めての個展”というのは人生に一度きりですからね。こんな大きな会場でできることは、きっとこの先の活動でも大きな自信になるでしょう。それでは次に、なおがらさんのパーソナルな部分を深掘りさせてください。
現在23歳のなおがらさんは岩手県のご出身とのことですが、どういうステップを踏んで写真家という道に至ったのですか?
なおがら:
岩手では4歳から18歳までプロ選手を目指してサッカー漬けの毎日でした。
高校も強豪校に入って全国大会にも出たのですが、結局プロにはなれず…。それで夢が終わったと思っていた時に、地元の先輩の中に消防士になった人がいて、彼に憧れて僕も消防士になりたいという思いが芽生えました。そこから高校卒業後に東京消防庁に入庁したのが、東京に来たきっかけです。上京後は麻布消防署に勤務していました。
――消防士だったとは驚きです。その時点ではまだ、写真とは出逢っていないんですね。
なおがら:
そうですね。ただ、僕らは学生の頃からTikTokなどで遊ぶのが普通だった世代なので、スマホで写真や映像を撮るという文化は身近にありました。
そんな中でスマホよりも綺麗に、7、80点くらいの写真が撮れたらいいなとはずっと思っていて、初任給をもらった時に初めてエントリー機の一眼レフカメラを買ったんです。
――だんだん、ストリートスナップカメラマンの道に近づいてきましたね。
なおがら:
カメラを持ち始めた頃は、こうしてカメラマンになるつもりなんて1ミリもなくて、旅行先で写真を撮る程度でした。そこからストリートスナップを志すようになって、最初は渋谷だったり表参道だったり、いろんな街に出て撮影していて、浅草はそのエリアのひとつという感じでした。
浅草に特別な意識を抱くようになったのは、浅草で撮影している時とそれ以外の街で撮影している自分の映像を見比べた時に、浅草で撮影している時の声色が他と全然違うと気付いたから。浅草で撮影している時の自分はとても自然体だったんです。その理由を自分なりに分析してみたら、浅草には自分の故郷と似た空気があって。岩手では田舎のおじいちゃんおばあちゃんが身近にいる環境の中で育ったので、浅草にそれと近い人情や文化が感じられたんです。それで「ここなら自分が輝ける」と感じて、この街にフラッグを立てることを決めました。
――なおがらさんの目指す世界観と下町の情緒が共鳴した、みたいなところもあるんでしょうか。
なおがら:
そうかもしれませんね。例えば、渋谷だと自分が初めて会うような人たちばかりで、こちらも緊張しながらスナップに臨むので、撮る方も撮られる方も“戦い”みたいなところがあるんです。話しかけても誰も振り向いてくれなくて、3時間ぐらい何も撮れないこともあったり…。それに対して浅草は昭和っぽい雰囲気があって、観光の人たちでも話しかければ一度は立ち止まってくれる。そういう街の空気が自分のやりたいことに重なったというのはあると思います。
――それから1年以上この街を撮り続けて、今、なおがらさんが思う浅草の魅力はどんなところでしょう?
なおがら:
やっぱり街の人の人情につきます。スナップに出ると、普段からお世話になっている方々に「今日も本当に暑いですね~」みたいなノリで話しかけながら街なかを歩くんです。そうすると「今日もがんばってるね」と言ってジュースをくださったり、「新しい商品作ってみたから試しに食べてみてよ」と少し分けてくださったり・・・両手にパンパンの袋を持って帰ることもあるんですよ(笑)。
そういう江戸っ子の気質をそのままを表したような人の温かさが、浅草という街の一番の魅力だと思っています。
――撮りたいと思う人の見つけ方や撮影の取り組み方で、ご自身の中で大切にしていることはありますか?
なおがら:
すれ違う人の中でいいなって思う人を見つけると直感的に声をかけていますが、目の色を見ているというのはあるかもしれません。観光で来た人の中でも、本当に浅草に来ることを楽しみにしてきた人とそうではない人とでは目の輝きがまったく違いますし、街なかで働いている人も、いま目の前にある仕事を全力で楽しんでいる人は、やっぱり目が輝いてますよね。
一方で、撮影で大切にしていることは、人の話を笑顔でうなずいて聞くということです。それだけで今、撮影できてますって言いきれるくらい。あと、スナップに出る日は、撮影前に浅草神社にお詣りするのがルーティンです。今日も素敵なご縁がありますようにと三社様にお願いすると、自分のリズムで、息を吸うかのように撮影できる感じがします。
――佐藤さんが感じる、なおがらさんのすごさってどんなところでしょう。
佐藤:
なおがらさんがやっている、人の笑顔を引き出すという活動は、日々お客様と向き合う私たちのおもてなしの仕事と通じるところがあると思います。
その上で、今回は当館のスタッフを撮っていただいた写真も作品として展示するのですが、その撮影に立ち会わせていただく過程で、一人ひとりから普段我々が知らないような表情も引き出してもらって、それを自然にできてしまうのが、なおがらさんの強い魅力なのだと改めて感じさせられました。
――8月10日から始まる「なおがら展」のコンセプトをご本人の言葉で改めて教えていただけますか。
なおがら:
初の「なおがら展」は「してん」がテーマです。ひらがなの単語の中にいろいろな意味を持たせられるのが日本語のいいところで、この言葉には、私点、至点、支点、視点、死点、指点、四点、始点という、今の自分を表す8つの「してん」を意味に込めています。会場は、それぞれの「してん」にあたる8つのブースがランダムに並ぶような構成にしていて、今まで23年間の人生で出会ったすべての人たちへのありがとうの気持ちを込めた、おもてなしの空間にしたいと思っています。
――普段、SNSでなおがらさんの作品に親しんでいる方には、どんな魅力が届けられそうですか。
なおがら:
街の人を撮影させてもらった時は、お礼に写真をパネルにしてプレゼントしていて、今回はそれと同じ形で写真を展示するところが、スマホで画像として見るのとは違った味わいのポイントになると思います。
来場者の方々も自分がパネルを受け取った気分になってもらえたら嬉しいですね。また、メインとなる縦2.1メートル、横2.7メートルの大きな作品は、僕が撮った400点の写真とともに、来場してくださった方々の写真も貼れる仕組みにしているので、たくさんの方々の笑顔と一緒にひとつの作品を作り上げたいです。
――先ほど佐藤さんのお話の中に、浅草ビューホテルのスタッフの方々のお写真も展示されるという話がありました。こうした取り組みの影響は御館の中にも良い効果をいますか?
佐藤:
コロナ禍の影響で従業員の数が減った後、そこから従来のサービスに戻していくには以前よりも多くの労力が必要で、昨今はほとんどの従業員が自分の仕事だけに追われるという状況が当たり前になっていました。
そんな中で表に出るスタッフだけでなく、調理人や経理担当、ボイラー室の管理人など裏方のようなスタッフまで一人ひとりを撮影してもらい、全員の刺激になっているのを感じます。みんな本展が始まってから初めて自分の写真を見ることになるのですが、館内がひとつにまとまるという点でも非常に意義深い企画になりました。
――普通に仕事をしていたら同僚の顔をまっすぐ見ることはあまりないでしょうから、本展を通じて他部門の仕事に理解を深めたり、コミュニケーションのきっかけが生まれるようなことも起こりそうですね。
そうですね。すでに部内でも部門間でも、どういう写真が撮れているかということが話題になっていて、総支配人とも「面白いことがおきてるね」って話しています。
――本展を行うにあたって、なおがらさんから浅草ビューホテルさんにリクエストしたことはありますか?
なおがら:
「香り」と「音」ですね。今回の展覧会の名前を「なおがら写真展」ではなく「なおがら展」としているのは、堅苦しい写真展ではなくて、五感すべてで写真を楽しんでもらえる写真展にしたいという思いがあったからで、香りや音を使った演出をさせてほしいとお願いしました。
佐藤:
香りはホテル的には難しいところもあるので、いろいろな方法を検討しましたね。
――ホテルだとご宿泊されているお客様への配慮もありますからね。ご検討の末、具体的にどんな演出になりそうですか。
なおがら:
会場内を二分割して、半分の空間には浅草らしさを象徴する浅草寺のお香の香りを、もう半分の空間には僕の作品の世界観に通じる優しい香りを流します。
音の方は、場内8か所に僕がスナップしている時の音声をそのまま流して、撮影時のストーリーが伝わるような仕掛けをしています。
佐藤:
音については、台東区に本社があるシーイヤーさんの音響技術があってこそ実現できたことですよね。
なおがら: そうですね。香りにしても音にしてもですが、僕はアイデアはあっても、それをこういう風に形にはできないので、佐藤さんからいろいろなアドバイスをいただいたり、本展で光アートを手がけられている照明デザイナーの服部さんも力を貸してくださるなど、浅草に愛のある人たちの力が集まってここまでたどり着けたことが、この展覧会の何よりの強みになったと感じています。
――2,000点近い作品の中で、なおがらさんが特に思い入れのある作品を3点教えてください。
なおがら:
どの作品にも思い入れがあるので3点に絞るのが本当に難しいですが、1点目は「屋久島の猿」のスナップです。
――え、浅草じゃなくて屋久島ですか?
なおがら:
初めてストリートスナップをしたのが屋久島だったんです。
僕が写真を始めた頃には、ストリートスナップって既にめちゃくちゃ流行っているジャンルだったので、何か尖ったことをしないとバズらないと思い、安直な考えでたどり着いたのが猿でした。
結果は見事にダダ滑りだったんですけど、もともと僕は目立ちたがりではなく、当時はSNSに投稿することすら恥ずかしいと思っていたタイプなので、勇気を出して一発目の動画を上げられたことに失敗よりも大きな感動がありました。
――それは、なおがらさんの原点が見られる貴重な展示ですね。
なおがら:
2点目は、写真をパネルにしてプレゼントするスタイルを始めるターニングポイントになった、「お食事処 まえ田」というおでん屋さんの一枚です。
最初の頃は写真を撮ってデータを贈って終わりだったんですけど、やっていくうちに、おじいちゃんおばあちゃんなどスマホを持っていない方に写真をプレゼントできないという問題に気付きまして…。そういう方にもどうしたら喜んでもらえるだろうかと考えて思いついたのが今のスタイルなんです。
パネルの裏にメッセージを書いてプレゼントすると、そういうコストを一円もかけていないところにも喜んでもらえたりする。お金をかけなくてもプラスアルファの幸せを届けられるということを気付かせてくれた作品です。
――確かに。お金をかけた安易な贈り物よりも、人のぬくもりある手作りのプレゼントの方が嬉しいと感じることはありますよね。
なおがら:
もう一点は、昨年の夏に閉店した「インドカレー夢屋」さんの最終日に撮った一枚です。もともと知り合いではなかったのですが、お店を閉められると聞いて日常の風景を記録に残したいと思い撮らせてもらいました。
そしたら最初に撮った動画を常連の方々が見てくれて、その中にいたイラストレーターさんや漫画家さんが絵を描いてくださったり、花屋さんも協力してくださったりと、夢屋さんのために何か恩返しをしたいという人たちの気持ちがひとつに繋がった感覚になりました。
店主ご夫婦と常連さんを撮った写真は、自分のやっていることをきっかけにいろいろな人が繋がり、みんなでひとつのことを一緒にやったという忘れがたい思い出の一枚です。
――ありがとうございます。それではそろそろ締めに入っていきたいと思います。お二人は「なおがら展」を目前に控えた今だからこそ、お互いに聞いてみたいことはありますか?
佐藤:
うーん、聞きたいことですか(しばし熟考)。そうですね、人を笑顔にさせる姿を見て当館に就職してほしいと思いました。ウチで働いてくれませんか?
なおがら:
副業でもOKでしたら働かせてください…それは冗談として(笑)。
僕からお伝えしたいのは、今回の「なおがら展」は浅草に愛のある人が集まって作り上げてきた企画展になったので、終わった後もこのチームの絆を保ち続けて、また浅草ビューホテルで何か面白い化学反応を起こしましょうという提案です。
――頭から終わりまでお二人の仲の良さが伝わるインタビューになりました。
それでは最後に、本展に興味を持つ方々にメッセージをお願いします。
佐藤:
当館最上階の会場で行う写真展にぜひ多くの方にお越しいただいて、自慢の景色を楽しみながら、写真を通じて浅草の魅力を感じるとともに、何か気付きを得てもらえたら嬉しいです。
なおがら:
僕自身、目の前の人に感謝を持つことを大切にしながらここまで生きてきたので、本展に来てくださった方々にも身近な人に「ありがとう」と伝えたくなるような時間をお届けしたいと思っています。
ぜひ大切な方と一緒にお越しください。
――「なおがら展」の開幕を楽しみにしています。本日はありがとうございました!
【展覧会情報】
「なおがら展」
■開催日時:2024年8月10日(土)~12日(祝月) 11:00~21:00
■会場:浅草ビューホテル(東京都西浅草3-17-1)28階トップバンケット「ベルヴェデール」
■料金:入場無料
■なおがら展 特設ページ:https://www.viewhotels.co.jp/asakusa/news/2024/006236.html
【なおがらプロフィール】
なおがら/Naogara
ストリートスナップカメラマン/動画クリエーター
2000年岩手県盛岡市出身
フォロワー数20万人を超える、下町浅草を中心に活動するストリートスナップカメラマン。
趣味で始めた一眼レフで風景撮影。旅先で人物を撮影した際のファインダーに映る自然な笑顔の美しさや素晴らしさへの感動をきっかけにスナップ写真の世界に進む。
カメラ、コミュニケーション力、笑顔、行動力の自身の強みを活かし、人々の笑顔の素晴らしさをSNSで発信することで、多くの人々と「喜び」を共有したいという思いから、ストリートスナップの世界への挑戦を決意。プロカメラマン「なおがら」を目指す。
現在は「喜ばれる人になる」というテーマのもと、Instagram、TikTok、YouTubeにて、下町浅草の魅力的な人々を伝えるストリートスナップ動画を発信。
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