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一家は4人(+1羽!)で暮らしています。ムードメーカーな15歳の長男・みっちゃんと、読書とパズルが大好きな「今どき小6女子」長女・こっちゃん、オアシスのように家族を見守るパパさん、子ども心を忘れないママさん、そしてセキセイインコのキオちゃん。YouTubeでは、みっちゃんが持つ障がいのことやこっちゃんとパパさんの偏食の話題を中心に、家族の動画が投稿されています。
自閉症を持って生まれたみっちゃんには、小さいころから独特な「こだわり」がたくさんあったといいます。
「最初は赤ちゃんの時、哺乳瓶の後に使うスパウト(傾けて飲めるマグの飲み口)からストローに移行することがなかなかできませんでした。3歳頃までスパウトを手放せず、ストローを差し出すと投げ飛ばしてしまうということが続きました。その後、結局ストローを使うことはなく、スプーンで飲ませたり、コップを口にあてて飲ませたりという形になりました」
他にもみっちゃんは、好きな音楽を爆音で耳に押し当てて聴いたり、1か月ほどチョコの菓子パンやチョコのお菓子しか食べないことがあったりと、周囲には理解しがたいこだわりを連発していきました。
「まるで違う星で生きているような感覚です。違和感だらけの異空間を過ごしているような日々でした」
健康に支障が出るのではと心配で仕方がなかったママさんを救ったのは、保健センターに電話相談した時にもらった言葉でした。「チョコだけで心配かもしれないけど、何も食べないよりはマシ!いつか他のものも食べるようになりますよ」と言われ、気持ちが楽になったといいます。
他の子と同じおもちゃにも全く興味がなく、お玉やリモコンをフリフリして遊んでいたというみっちゃん。ママさんは、一緒に長い時間を過ごしてたくさんの行動を見ているうちに、それらはみっちゃんなりの「遊び」であり、「自分だけの文化」であると思えるようになったのだそうです。
「自分で経験して良かった事(物)をずっと続けて自分の中でルーティーンを作り出しているんですよね。そしてそれが一番『安心』するんです。いつもと違う事にはとても慎重で不安になります。でも成長していく中で色々な経験をして、見通しが持てるようになると、新しい事にも挑戦できる時があります。とにかく沢山の事を経験して世界を広げていく事が大切だなと思いました」
みっちゃんが小学5年生の時、たまたまYouTube上で自閉症に関する動画を見つけ、ママさんは衝撃を受けました。「こうやって発信する事ができるんだとビビッと心に刺さりました」。それをきっかけに、YouTubeへの投稿を開始。
ママさんは、YouTubeに動画を投稿することで、自閉症や偏食についてまずは「知ってもらう」ことを目標にしているそうです。
「理解なんていうのは家族である私ですら……特に偏食に関してはまだまだぶつかることもありますから、それを当事者と関わる機会のない方たちに求めるのは簡単ではないと思います。超偏食家族&重度知的障害+自閉症の息子がいる日常を、時にはシビアに、時には楽しく配信していくことで、『偏食&自閉症』について少しでも一人でも、興味を持ってくれたらいいなと思っています」
どんなことにも必ず理由がある
みっちゃんが生まれる前は、「『障がい』について無知だった」と語るママさん。外出先で障がい者の方を見かけると、「怖いなと思ったりして近づかないようにしていたことがあります」と打ち明けてくれました。それでも、みっちゃんが生まれてからは、障がいに対する知識や考え方、見方がガラリと変わったのだといいます。「こんなに心がきれいで穢れのない存在があるのかと心に刺さるものがありました」。
そんなポジティブな気持ちとは裏腹に、ママさんはみっちゃんに障がいがあることよりも、社会がみっちゃんを受け入れてくれないという現実に不安を感じ、押し潰されそうになっていました。
それでも、一つわかったことがあるといいます。
それは、「全ての行動には理由がある」ということ。みっちゃんは言葉での意思疎通が難しく、突然パニックになったり、大きな声が出たり、急に泣く、怒り出すなど、周りが驚くような行動を取ることがあります。
でもそれはただパニックになったり泣いたりしているわけではなく、すべてそうなる理由やきっかけがあるのです。どうすればいいかわからないからパニック状態になり、悲しいことや辛いことがあれば泣く。これはすべての人に共通することですよね。
少し異なる点があるとすれば、自閉症の方は、聴覚や視覚などの刺激に敏感な「感覚過敏」という症状があるなど、健常者に比べて日々多くの刺激を感じ取っているということです。みっちゃんの場合は換気扇の音が頭に刺さるように聞こえるようで、とても嫌がるのだそうです。
そういった、周囲からはわかりにくい「理由」が、パニックを巻き起こしたり、感情があふれ出したりすることに繋がる場合もあるため、他人からすると「突然パニックになった」ように見えるのです。
その人が持っている障がいやその時の環境によって、この「理由」は様々に変化します。ママさんはそのことに気づいてから、外で見かける障がい者の方を怖いと思わなくなったそうです。
「きっと本人の中で何かあったんだなとわかるからです。知ればなんてことなくなるんですよね」
動画では、みっちゃんがパニックを起こしている様子が時折公開されています。感情的にならず、落ち着いて対応しつつも、一人になると涙が溢れてしまう、そんなママさんにも注目です。
「甘えている」と捉えられがちな偏食にも、実は様々な理由があります。筆者が驚いたのは、動画の中で紹介されていたパパさんの「食べること自体が苦手なことであって、生命維持のために食べている」という言葉。食べること自体に抵抗があるから、本当に大好きなもの以外は食べる気にならない、という人もいるのです。
筆者と同じように、そういった理由を知らない方はやはり多いようで、ママさんが投稿するYouTubeのコメント欄でも、特に偏食に対しては当初厳しいコメントが多かったといいます。
「どうしても『わがまま』として捉えられてしまうことが多かったのですが、本人視点での気持ちを伝えてみたり、母の正直な気持ちを伝えたりを続けていくうちに、だんだんコメント欄が温かくなってきたのを実感します。これからも自分なりに伝えていきたいなと思っています」
初めてのイヤイヤ期が嬉しかった!
重度の知的障害も抱えているみっちゃん。中学3年生の現在でも、精神的な発達の程度は2歳半と同じくらいだと言われています。小さい頃はおもちゃを妹に取られてもにこにこしていて、物欲もなかったそうで、
「何をしたら怒るのか、喜ぶのかがわかりませんでした。この子は何を考えているの?といつも思っていました」
それは今思えば、されるがままで自分の意思というものが全くない状態だったと振り返るママさん。そんなみっちゃんにも、小学5年生で初めて「イヤイヤ期」が訪れます。
「ちょうどYouTubeを始めた頃から少しずつ『否定』をするようになってきました。それはにこにこしながら『やだ』『食べない』などです。私は初めてみっちゃんの嫌がるものを知れて本当に嬉しかったです」
今ではプチ反抗期が到来しているようで、嫌じゃない物に対しても「やだ」と言うことがあるのだとか。また、言葉で伝えられない感情の波を、自分で対処しようとする行動も増えているそうです。
「最近では、泣いている時は「来ないで」と言わんばかりに私の手を振り払い一人で落ち着こうとしたりします。また、トイレにこもるなど、自分なりに落ち着く方法を見出しているようにも見えます。そういう時は、私も離れて様子を見ることにしています」
きょうだい児(障がいや病気のある兄弟姉妹を持つ子どものこと)であるこっちゃんも、根っこの優しいところは変わらずに、すくすくと成長しています。学校行事では低学年の子に囲まれるほど大人気なのだとか。
そんなこっちゃんにも、「末っ子らしさ」はあるようで、毎晩寝る前にはママさんとこっちゃん二人だけの時間があるのだそうです。
「YouTubeでは、一見みっちゃんを中心に生活が回っているかのように見えると思いますが、実は休日はこっちゃんの行きたい場所優先で過ごす事がほとんどです。うちには車が一台しかないので、その間みっちゃんは家でパパと留守番です。二人が帰って来てからみっちゃんが出かけるということが実は多いんです」
みっちゃんがショートステイに行っている間は、パパとママをひとり占めできる「一人っ子時間」も作っているそうで、動画ではその様子も公開されています。
宝探しをしているよう
YouTubeに投稿を始めてから変わったことを尋ねると、素敵な言葉が返ってきました。
「2~3日かけて一本の動画を編集するので、自分たちの子供に対する関わり方を見直すことができ、とても勉強になります。自分たちの生活を客観的に見る機会なんてなかなかありませんが、動画を見返すと、『この時みっちゃんはこう思っていたのか!』と、その場では気づけなかったような発見があります。みっちゃん・こっちゃんのいいところや、普段見逃しがちな小さな成長も発見できるので、嬉しくて宝探しをしているような気持ちで編集しています」
動画の編集は、「もっとこうしてあげよう」「こうしたら良かったのか!」と気が付くヒントにもなっているそうで、その後同じようなシチュエーションに対応する際にも役立っているそうです。
2023年8月には書籍が発売されるなど、活動の幅を広げているママさんですが、今後さらにやってみたいことがあるそうです。それは障がい児を育てる親・家族同士の交流会。
「障がい児を育てる親は、普段からいかに周りに迷惑をかけないか気を遣いながら生活していることが多いと思います。同じような悩みを持つ方たちと、どこか広い場所を借りて何も気にする事なく、家族同士でわいわい食事やお話をする時間があったら素敵だなと思います」
ママさんの言葉を聞いて筆者は、交流会などのイベント時以外でも、障がいのある人やその家族が安心して過ごせる社会について考えました。パニックを起こしている人がいても怖がらず「何か理由があるんだな」と受け止め、理解はできなくとも、「その人にはその人の背景がある」と想像するだけで、社会は変わるのかもしれません。
これからも「Hikari KizunaTV」のチャンネルは更新されていきます。みっちゃんたちの成長を見守りながら、自分の知らない世界を知るきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
取材協力・写真提供/みっちゃんママさん