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定年後しばらくたってから、両親が急に離婚すると聞き、驚いたのはひとり息子のタカハルさん(40歳)。高齢離婚の原因は何だったのだろうか。
■それなりに仲がいいと思っていた
「僕は18歳で家を出ていて、それ以来、両親はずっと共働きでふたり暮らし。母は社交的な人なので、友だちもたくさんいたけど、父は物静かな人でね。でも家でひとりで読書をしたり釣りをしたりと楽しみもあったようなので、両親の行く末を心配したことはありませんでした」
タカハルさんが、父親から「離婚した」と聞いたのは2年前。ふたりとも定年を過ぎ、それなりにうまくやっていると思っていたところだった。
「僕も家庭を持っていますし、実家に帰るのはせいぜい年に1,2回。それまで離婚の気配を感じたことなどありませんでした」
父親にどうして、と聞いてもいろいろあってとメッセージが来ただけ。父は今まで通り家にいるというので、タカハルさんはしばらくたってから実家を訪ねた。
「一軒家にひとりでいる父は、どこか憔悴して見えました。今後は家を売って、高齢者住宅みたいなところに入ろうかなと言っていました。いろいろ聞いたけど、離婚の原因はよくわからなかった。親といえどもしつこく聞くわけにもいきませんからね。夫婦のことは夫婦にしかわからないんだろうなと思って、外の居酒屋でふたりで静かに酒を飲みました」
■母に愛人がいた
その後、なかなか連絡がとれなかった母親とも連絡がとれた。そこでタカハルさんが聞かされたのは、なんと母親の不倫だった。
「母が会いに来たんですよ。待ち合わせた喫茶店で僕の顔を見るなり、『ごめんね、私ね、恋人ができちゃったのよ』って。やけに明るかったですね。父とは正反対。母の話によると、定年後、昔やっていたピアノをまたやりたいと習いにいったスクールで出会った人だそうです。一回り年下で、相手はバツイチだった。それで急速に恋に落ちて」
だからといって、40年以上連れ添った夫と離婚までしなくてもと息子の立場では思った。だが、意外にも離婚を言い出したのは父親のほうだった。
「もう結婚生活を卒業してもいいぞ、と父が母に言ったそうです。もともと母は父をおもしろくない人だと思っていて、そう思われていることを父もわかっていた。だから外でデートしてくる母がまぶしかったんでしょう。長年連れ添った妻が、最後に一緒にいたい人と一緒にいたほうがいい、そういう決断を下したそうです。母は、そんな父の思いをありがたく受け止め、彼の元へ行ったとか」
他人事だから、ある意味で「いい話」でもあるのだが、息子はそんなふうには思えないだろう。母親が身勝手だと確かに彼自身も思ったそうだ。
「だけど考えてみたら、いくつになっても、その人の人生はその人のものですよね。父がかわいそうだからと母を責めるわけにはいかない。母にも今まで以上に幸せになる権利はある」
あれから2年、母は再婚し、父は高齢者住宅に入居した。住宅内に友人もでき、釣り仲間もできたという。ひとりになってみたら、父もそれなりに社交性を発揮し始めたようだ。
「人生、どうなるかわからない。自分の両親からいろいろ学ばされた気がします」