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オリジナリティあふれる技術で新型車を開発し、ミラージュやギャランなどの乗用車、パジェロやシャリオといったRVをヒット作に昇華させていた1980年代終盤の三菱自動車工業。トヨタ自動車と日産自動車に続く国内第3位のメーカーとしての地位も見えてきた同社は、さらなるシェア拡大を狙って新世代の上級車の企画に注力する。具体的には、三菱ブランドらしい3ナンバー規格専用の4ドアサルーンと旗艦スポーツモデルの開発を鋭意推し進めた。
■三菱ブランドらしいスポーツカーの創出
開発期間とコストを考慮して一部コンポーネントを共用化した新しい上級車シリーズは、まず4ドアサルーンが「ディアマンテ」の車名を冠して1990年5月にデビュー。そして、5カ月ほどが経過した1990年10月には旗艦スポーツモデルとなる「GTO」を発売した。
スタリオンの実質的な後継車で、かつてのギャランGTO(イタリア語でGrande Tourismo Omologare、英語ではGrand Touring Homologateの意)から車名をとったGTO(Z16A型)は、キャッチフレーズに“スーパー4WDスポーツ”を掲げる。搭載エンジンはDOHC4バルブのヘッド機構や電子制御可変吸気システムのMIVEC、電子制御燃料噴射システム(ECI-MULTI)、ノックコントロール付き電子点火制御システム、セルフダイアグノシスシステム、オートラッシュアジャスターなどを組み込んだ6G72型2972cc・V型6気筒DOHC24Vユニットのツインインタークーラー付きツインターボ(280ps/42.5kg・m)と自然吸気(225ps/28.0kg・m)の2機種をラインアップ。ツインターボには排気ガスのマフラーへの流入経路を切り替えることでスポーティな音質が楽しめるアクティブエグゾーストシステムを装備する。組み合わせるトランスミッションには、ツインターボ仕様に独ゲトラグ社製の5速MT、自然吸気仕様に5速MTと4速AT(ELC-M)を採用した。
“オールホイールコントロール理念”のコンセプトを基に設計した駆動システムは前後輪トルク配分を45:55に設定したVCU式フルタイム4WDで、ドライブシャフトには国産車初の高張力鋼材を使用する。懸架機構は専用チューニングの前マクファーソンストラット/後ダブルウィッシュボーンで構成し、ショックアブソーバーの減衰力を電子制御するECSや中~高速域で後輪と前輪を同方向に操舵する4WSなどを設定。制動機構はフロントに対向4ポットを組み込んだ4輪ベンチレーテッドディスクで、タイヤには専用セッティングの225/55R16サイズを装着した。
エクステリアはリトラクタブルライトとエアバルジを組み込んだロングノーズやコークボトルの流麗なボディライン、アグレッシブな造形のエアインテークなどで存在感のあるファストバッククーペのフォルムを構築する。ツインターボ仕様には、高速走行時にフロントベンチュリーカバーとリアスポイラーが自動的に可動するアクティブエアロシステムを設定した。ボディサイズは全長4555×全幅1840×全高1285mm/ホイールベース2470mmと立派な体躯で、とくに国産スポーツカー随一の1840mmというボディ幅が注目を集める。一方で内包するインテリアは、2+2のキャビンレイアウトを基本に、中央部をドライバー側に向けたうえで3連サブメーターを設けたインパネデザインや上質なアレンジの樹脂パーツ、サイドのサポート性に優れたスポーツシートなどを組み込み、上級スポーツモデルらしいコクピット空間を演出した。
■重量級スポーツカーに賛否両論
「スポーツは、ライバルがいるから、面白い」という広告コピーを冠してデビューしたGTOは、そのライバルと比べられながらスポーツカー・ファンの賛否両論を巻き起こした。肯定派は42.5kg・mの強大トルクを活かした加速力や数々のハイテク機構、いかにも三菱車らしい目立つスタイリング、そしてツインターボで398万5000円という高性能に比してリーズナブルな価格設定などを評価。対して否定派は1700㎏(ツインターボ)という重量級ボディおよびフロントヘビーのディメンションやスポーツカー専用開発ではないシャシー、ダミーで孔がふさがれていたサイドのエアインテーク(後のマイナーチェンジで空気が抜ける孔に変更)などを指摘した。いずれにしても、大きな話題を集める注目モデルとなったGTO。一方で開発現場では、スポーツカーの命題である“進化”を着々と行っていった。
まず1992年1月には、アルミホイールおよびタイヤの17インチ化(タイヤサイズは225/50R17)やグラストップのオプション設定、電動格納式ドアミラーの採用などを実施。同年6月には充実装備のスペシャルバージョンの発売、10月にはブレーキ性能の強化やキーレスエントリーの採用などを行う。1993年8月になると大がかりなマイナーチェンジを敢行。ヘッドライトの4灯固定式プロジェクタータイプへの刷新やバンパーデザインの変更、ツインターボエンジンの改良(最大トルクは+1.0kg・mの43.5kg・m)およびMTの6速化、助手席エアバッグの設定などを実施した。
GTOの進化は、まだまだ続く。1994年8月には、車重1650kgという軽量モデルのツインターボMR(Z15A型)の追加やハイブリッドLSDおよびAPロッキード製6ポットブレーキのオプション設定などを実施。1995年8月には、自然吸気仕様のグレード名の刷新(GT0 SR)やヘッドライトレンズの材質変更(ガラス材→樹脂材)などを行う。1996年8月になると、バンパーおよびリアスポイラーのデザイン変更やツインターボモデルへの18インチクロムメッキホイール+245/40R18タイヤの装着、ブレーキキャリパーのレッドカラー化(ツインターボ)などを施し、さらに1997年8月にはSRグレードへの助手席エアバッグの追加やエアコン操作パネルの意匠変更、1998年8月にはヘッドライトおよびバンパーのデザイン変更や大型リアスポイラーの採用などを実施した。
■10年以上の長寿命モデルに発展
GTOは進化を図る一方で、高性能の証明を狙ってモータースポーツ、具体的には1991年からN1耐久選手権の最高峰であるクラス1に参戦する。最大のライバルであるスカイラインGT-Rに対して重量的にハンディのあるGTOだったが、予想以上に激しい戦いを演じ、参戦した期間では2位のベストリザルトを獲得した。
三菱自工らしさが詰まったスーパー4WDスポーツのGTOは、21世紀に向けて年々厳しさが増す衝突安全性や排出ガス規制に対処するのが難しくなり、結果的に2001年に販売を終了する。10年以上のロングセラー車に昇華したGTO。一方、会社自体のリコール隠し問題なども影響して直接の後継モデルは設定されず、一代限りで姿を消すこととなったのである。