平成時代を当時の新語・流行語で振り返るコラムをお届けします。今回は「1998年(平成10年)」編です。この年、長野で冬季五輪が開催され、日本選手団は金メダル5個を獲得する活躍を見せました(これは現在までの最高記録。平昌は金メダル4個)。スキージャンプの原田雅彦選手が個人ラージヒルで銅メダルを獲得した時の実況「立て!立て!立て!立ってくれ!立った!」(NHK・工藤三郎アナ)は語り草になっています。



 



 



【サヨナラ平成】新語・流行語で振り返る30年「1998年編」

~命を金に換える「平成の毒婦たち」~



 



みなさんは『ボキャブラ天国』というバラエティ番組を覚えていらっしゃるでしょうか。放映開始は1992年。96年の路線変更で、若手芸人がダジャレネタを披露するスタイルを導入し、これが人気となりました。その出演芸人(番組では「キャブラー」と呼ばれた)の中には、爆笑問題、海砂利水魚(現くりぃむしちゅー)、ネプチューン、土田晃之、アンジャッシュなど、後に絶大な人気を誇るようになる芸人も多かったのです。そこでこの芸人世代を「ボキャブラ世代」と呼ぶこともあります。



 



 



■【だっちゅーの】ここから「一発屋のジンクス」が始まった



 



キャブラーの中でも特に異色の存在だったのが、グラビアアイドルとお笑い芸人を混ぜたような女性コンビ「パイレーツ」(浅田好未、西本はるか)。胸元の大きく空いた衣装で芝居っ気のないネタを披露して、オチの部分で「○○だっちゅーの」と言いながら、両腕で胸をはさみ谷間を強調するのがお約束でした。



 



この決め台詞は、98年の新語・流行語大賞で年間大賞を受賞しています。受賞理由を記した文章には「老人から子供まで、日本国中を席巻した久々の流行語」とありました。筆者の私見では、同賞に関して「一発屋ジンクス」(受賞芸人は一発屋になる)が囁かれるようになるのは、これ以降のことです。



 



 



■【和歌山毒入りカレー事件】“毒”がもたらした社会への暗い影



 



1998年7月25日、和歌山市内の自治会の夏祭りでカレーが提供され、それを食べた人のうち4人が死亡、63人が急性ヒ素中毒になる事件がありました。カレーにヒ素を混入した容疑により、検察は元保険外交員で主婦の林真須美を起訴。2009年には死刑が確定しました(ただし現在も冤罪可能性を指摘する声がある)。



 



事件後の夏から秋にかけては、残念なことに多くの模倣犯も登場してしまいました。ポット、缶瓶飲料、紅茶パック、調味料容器など、あらゆるものに毒物を混入させる事件が相次いだのです。一連の事件で頻出した薬物がアジ化ナトリウム。毒性が強いわりに知名度が低く、入手も容易であったため、事件が多発した側面もありました。このため厚生省(当時)は、99年に同物質を毒劇法に基づく毒物に指定。一連の事件は、法律の運用にまで影響を与えたことになります。



 



ところで当時のメディアは、当時容疑者であった林真須美を「平成の毒婦」などと呼んでいました。毒婦とは「人を害する腹黒い女性」のことで、少なくとも江戸時代の後期には登場していた言葉でした。以後、凶悪な女性犯罪者をこのように呼ぶ習慣が続いています。 「平成の毒婦」と呼ばれた人だけでも、林真須美のほか、筧千佐子、木嶋佳苗、角田美代子といった人物がいました。



 



※ほかにもこんな新語が……



新語・流行語:ボキャ貧(小渕恵三首相が自身の語彙力を評した語)、ハマの大魔神(佐々木主浩投手)、美白(鈴木その子の人気)、ノーパンしゃぶしゃぶ(銀行による大蔵省職員への接待で)



商品・サービス・コンテンツ:老人力(赤瀬川純平の著書)、ショムニ(ドラマ)、ドリームキャスト(ゲーム機)、iMac(パソコン)



 



 



■【まとめ】あらゆるものが“毒”に侵された年



 



毎年漢字の日(12月12日)に、京都・清水寺において、貫主(かんす=寺の最高責任者)が大きく筆書きして発表することで知られる「今年の漢字」。日本漢字能力検定協会が1995年から実施している企画です。その1998年の発表分で選ばれた漢字が、なんと「毒」でした。この年は毒入りカレー事件や、その模倣事件だけではなく、内分泌かく乱物質(俗にいう環境ホルモン)の問題など、様々な有害化学物質が注目された年だったのです。ちなみに『今年の漢字』は、一般投票で最多投票数を獲得した漢字を選ぶ仕組み。事件に対する世間の関心がどれだけ高かったのかが、分かるのではないでしょうか。 


情報提供元: citrus
記事名:「 林真須美、筧千佐子、木嶋佳苗、角田美代子…すべては「和歌山毒入りカレー事件」がはじまりだった