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国民的作品の『アンパンマン』では、悪事を働くばいきんまんを懲らしめるため、アンパンマンがよく「アンパンチ」を使います。これを食らったばいきんまんは地平線の彼方へとふっとばされるのがお約束。
でも冷静に考えると、それって相当な威力ですよね。いったい、アンパンチのエネルギーってどれくらいあるんでしょうか?
そこで、『アリエナイ理科』プロジェクトを推進する「薬理凶室」メンバーの月詠氏に、現実の物理法則ならばどうなるかという考察を依頼。アンパンチの威力を算出してもらいました!
まずは状況を整理しましょう。ばいきんまんがバイキンUFOに乗った状態で、アンパンマンに地平線の果てまでふっとばされるものとすると、上の図1のような条件になります。最低限のエネルギーを求めるということで、以降、空気抵抗などのロスは無視して進めます。
バイキンUFOは形状記憶合金でできており、その素材は謎。そこで仮に500kg(小型ヘリの1/2程度)としました。計算を簡易にするため、ばいきんまんの重量も込みとします。
地球上の平坦な地形と仮定し、かつ視線の高さを160cmとして計算。地平線までの距離は約16.6kmになります。
空中で闘う場合、広葉樹(20mくらい)より上に位置しているように見えるので、地上からの高さを30mとします。
アンパンチでばいきんまんがばいきんUFOごと水平に殴られたとして、その瞬間から浮遊する力を失い、自由落下したとします。
上記の式に当てはめると、30mの高さから地上に激突するまで約2.47秒。それまでに地平線に到達していればよいということになります。
これらの数字を使って、アンパンチを食らった際の初速を求めます。
で導き出すと、出ました!
秒速6,710mです。
つまり時速24,155kmで、マッハ19.7となります。
これはスペースシャトルが大気圏に再突入する際の速度(マッハ20)に匹敵します。スペースシャトルは大気密度の薄いところから滑空するように大気中へと戻ってくるので燃え尽きたりしませんが、ばいきんまんは 1気圧の大気中をいきなりこの速度で吹き飛ばされるわけですから、たまったものではありません。アニメでは、アンパンチがヒットした瞬間にキラキラとしたエフェクトが発生し、煙が発生します。おそらくこれは断熱圧縮でプラズマ化した大気と、その瞬間に爆炎のように現れるプラズマ雲を表現しているものと考えられます。
また、もしこのまま地面に激突した場合は、自由落下の速度も加えて24,155.16km/sとなります。大地が赤熱化し、クレーターができるレベルです。
いよいよ、アンパンチの威力を導き出しましょう。アンパンチがばいきんまんとバイキンUFOに100%伝達されていると仮定します。その運動エネルギーKは、
で計算します。その結果……、112億5,529万2,716ジュールと出ました! カロリーであらわすと2,690万80kcal。
とにかく猛烈なエネルギーであり、アメリカ軍のバンカーバスター(地中貫通爆弾)「GBU-28」9発分の威力と見なせそうです。(バンカーバスターの映像はこちら)
これだけのエネルギーを現実の世界で生物が受けた場合、細胞の一片も残さずに消し飛んでしまうでしょう。アンパンマンさん、マジ容赦ねぇ……。そしてアンパンチをくらっても形状を保ち続け、しかも捨て台詞を吐くばいきんまんの頑丈さ、マジですげぇ……。
というわけで、最後にまとめておきますと、
となります。アンパンマンの世界は一見ほのぼのとしていますが、けっこうすごいことが起きているんですね。機会があったら、また別の切り口でも計算してみたいと思います。
……アンパンマンさんと呼べ!
※本論考はあくまでも思考実験です。そのため、設定を単純化したり、細かいパラメータの省略を行ったりしております。作中の状況を忠実に数字にのせた場合、さらにとんでもない結果になる可能性があります。あと、こういうネタをきっかけに数学とか物理とかに興味を持ってもらえたらうれしいです。