一杯のビールを口に含むと、その香りや味わいの奥に、遠く離れた土地の空気や歴史がふっとよみがえることがあります。

麦やホップを育んだ大地、醸造を支えた水や気候、そして人々の暮らしや文化――。

今回は、そんなビールの“ふるさと”を世界地図に落とし込みながら、代表的なビアスタイルのルーツを旅してみましょう。あなたの好きなビアスタイルはどの国発祥なのか、ぜひビール片手にお楽しみください。


ビアスタイル別・世界地図ルーツガイド




【発祥地国名:ビアスタイル】
チェコ発祥ピルスナー
ドイツ発祥ヴァイツェンシュバルツラオホケルシュ
イギリス発祥ペールエールIPAリアルエールバーレイワイン
ベルギー発祥ベルジャンホワイトフルーツビールサワーエールゴールデンエール、ランビック
アメリカ発祥アンバーエール、アメリカンクラフトIPA、ヘイジーIPA
アイルランド発祥スタウト

地図上で眺めてみると、海を渡って広がったビアスタイルが、今や世界中のグラスの中で愛されていることがわかります。

あなたの好きなビアスタイルは、どの国が発祥でしたか?もしかしたら、あなたの好きなビアスタイルと国との共通点が、何か見つかるかも!


ビアスタイル誕生の背景

ビアスタイルが誕生した背景について、いくつかピックアップしてご紹介していきます。


1. チェコ発祥「ピルスナー」

チェコの良質な軟水によって誕生!

「ピルスナー」は、1842年にチェコのピルゼンで誕生したビアスタイルです。

もともとボヘミア地方は良質なホップの生産地。さらに、チェコ・ピルゼンの良質な軟水により誕生したのが、クリアな苦みと爽快な味わいのビールでした。

特徴のひとつがその液色。黄金色で、世界中で飲まれるビールの7割を占めているともいわれるビアスタイルです。日本の大手ビールメーカーもお手本としてきたスタイルで、日本の人たちには「ラガービール」が聞き慣れているかもしれません。

ちなみに、「ラガービール」は下面発酵させる製法でつくるビールの総称で、ピルスナーはラガービールの一種です。



擬人化するなら…
協調性があり、馴染みやすい、真面目で優等生で清純。でもどこかキラキラと輝いている、いないと寂しがられる存在。





2. ドイツ発祥「ケルシュ」

限られた醸造所だけが名乗ることを許されている


「ケルシュ」は、ドイツのケルン地方で伝統的に造られているビールです。

じつは「ケルシュ」という名前は、1986年にケルシュ協定に調印した醸造所でつくられたものだけが名乗ることができます(原産地統制呼称)。そのため、それ以外の場所でつくられたものは、「ケルシュ・スタイル」と言わなければなりません。

上面発酵酵母を使いながら低温熟成するので、上面発酵酵母のフルーティーな香りを持ちながらも、すっきりとした味わいを持ちます。

麦芽の上品な香りの中で、ほんのりとフルーティーな香りがある味わいが特徴。全体的に炭酸が弱く、喉ごしの良いビールです。本場・ケルン地方では“働き者のためのビール”として、仕事終わりの人々の喉を潤しています。





擬人化するなら…






3. イギリス発祥「IPA」
輸送のため大量にホップを投入し誕生


18世紀末、イギリスで誕生したのがIPA(アイピーエー:India Pale Aleの略)です。

当時、インドはイギリスの植民地でした。イギリスからインドに滞在するイギリス人へビールを送る際、船で傷ませないように輸送するため、防腐剤の役割を持つホップをペールエールに大量に投入したことが、IPA誕生のきっかけになりました。

ホップをたくさん使用しているため、ホップの香りに加え苦みも強いのが特徴です。



擬人化するなら…
ペールエールの妹。かなり個性が強く、ひねくれ者。でも面白く、気まぐれ。第一印象はガツンとした感じだが、一度仲良くなるとクセになる。






4. ベルギー発祥「ベルジャンホワイト」
一度消滅したがその後復活



ベルギーのヒューガルデン村で14世紀から醸造されていたビールが発祥。ピルスナーなどの台頭により一度消滅しましたが、1965年に復活しました。

小麦を使用したスタイルで、副原料としてオレンジピールとコリアンダーシードを使います。

豊かな泡立ちと副原料による柑橘系やスパイスの香りがあり、苦みが少なく柔らかな酸味でヨーグルトのような味わいが特徴です。



擬人化するなら…
色素が薄く、女子らしい。モテるがクセがあり、オシャレ度は高いが運動は苦手。





5. アイルランド発祥「スタウト」
あのギネスビール創業者が考案


18世紀、ロンドンのパブで考案されたポーターというビールの改良版が「スタウト」です。考案者はアイルランドのギネスビール創業者、アーサー・ギネス氏です。

香ばしいナッツやチョコレート、コーヒーのような香りが特徴の黒系のビール。スタウトは英語で「どっしりとした、頑強な」という意味があり、ポーターよりアルコールを強化してつくられたのが由来といわれています。

「スタウト」といえば、『ドラフトギネス』などに代表される、しっかりとした苦みとすっきりとした後味のドライスタウトが現在の主流ですが、アルコール度数の高い「インペリアルスタウト」、乳糖を加えた「ミルクスタウト」、牡蠣のエキスを加えた「オイスタースタウト」など、さまざまに派生しています。



擬人化するなら…




6. アメリカ発祥「Hazy IPA」

2000年代に誕生!日本でも大人気

ジューシーな味わいで苦みも控えめなHazy IPA(ヘイジーIPA)は、ニューイングランド地方のバーモント州にある「Alchemist(アルケミスト)」ブルワリーが2003年から製造している「Heady Topper(ヘディートッパー)IPA」が起源とされています。


「Hazy」という単語が示すとおり濁っていて、色味はオレンジ色や黄色の見た目をしています。

飲み口はフルーティーでとってもジューシー。Hazy IPAは通常のIPAよりも苦さが控えめなので、幅広いビール好きに好んで飲まれています。

Hazy IPAには、発祥地の名前にちなんで「ニューイングランドIPA」、これまでのトレンドであったウェストコーストIPAに対して「イーストコーストIPA」、味わいの特徴から「ジューシーIPA」など様々な別称があります。




ビールの歴史を遡ると、その起源は紀元前4000年にまで遡ると言われています。

メソポタミアやエジプトの時代から、麦を発酵させた飲み物は人々の生活とともにありました。

やがてヨーロッパやアメリカで多彩なビアスタイルが生まれ、それらは海を超えた日本にも伝わります。

2000年代に日本でも人気なHazy IPAが誕生したように、現代でも新しいビアスタイルは誕生しています。

そして今、日本のクラフトビール文化の広がりのなかから、世界の影響を受けつつも、日本ならではの個性豊かなビールが生まれ続けています。


あなたの好きなビールは、どこから?

今あなたが手にしているその一杯も、きっとどこか遠い土地の物語とつながっています。

次に飲むときは、産地やスタイルのルーツに思いを馳せながら味わってみてください。

きっと、これまで以上にそのビールが愛おしくなるはずです。





情報提供元: ビール女子
記事名:「 【図解】あのビールはどこの国の発祥?ビアスタイル別・世界地図ルーツガイド!