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『ボーダーライン』シリーズや『最後の追跡』等、重厚で切れ味ある物語の脚本家として知られるテイラー・シェリダン。
その彼がアンジェリーナ・ジョリーを主演に迎えて監督した新作が現在公開中だ。
前作『ウィンド・リバー』の舞台は雪深いワイオミング州のネイティブ・アメリカン居住地だったが、今回の映画の舞台は広大な森が広がるモンタナ州。
度重なるスリルに満ちたアクションに加え、シェリダン監督が毎回こだわりを見せる地元民の意地や底力を感じさせる描写も健在で、アンジーは男勝りで有能な森林消防隊、ハンナを熱演する。
ハンナは、仕事中にある一人の挙動不審な少年と出会う。
その少年は、父親を殺し屋に殺害された現場から逃亡中の身だった。
ハンナ自身も深い心の傷を抱えている。
それは過去の山火事で幼い子供たちの命を助けられなかった自責の念とトラウマだ。
今なお過去を引きずり苦しむハンナの心と、愛する父親を失ったばかりの少年の心が共鳴し合うのにそれほど長い時間はかからない。
殺人の目撃者である少年に2人組の殺し屋の脅威が刻一刻と迫る中、ハンナや彼女が懇意にする警官ら夫妻は、自らの命を賭けて殺し屋に立ち向かうことになる。
この映画では子供にも全く情けをかけない二つの脅威が描かれている。
殺し屋と山火事だ。
人間と自然と言い換えてもいいかもしれない。
無慈悲に勢いを増して広がっていく山火事はまるで時限装置のタイマーのようだ。
この山火事が人間たちの争いにどのように絡んでくるのか。
そこはさすがのテイラー・シェリダン、少年を守ろうとするハンナたちと殺し屋との攻防にじわじわと山火事が影響してくる後半の流れは尋常でない緊迫感に溢れている。
先に少し触れたように、シェリダン作品の魅力の一つにその地域で暮らす人々の矜持のようなものの描写があるように思う。
父親を殺し次はその子供を追ってモンタナの森林に足を踏み入れた殺し屋たち。彼らはそこでは決して歓迎されないよそ者であり、そこは彼らにとってはアウェイの地だ。
その地に暮らすハンナや同朋たちは、危険なよそ者に対して決して妥協しない。
山火事の恐ろしさを誰よりも知り、日々これと戦っているハンナ。
そんな彼女たちが見せる、他者による不条理な暴力への服従を拒否する勇気や気概。
山という山を焼き尽くす炎の威力は人智を超える恐ろしさを見せつけてやまないが、その炎でさえも、ましてや人間の悪意では決して滅ぼすことのできない、土地に根ざした人間の真の力を垣間見たような気がした。
その意味において、この映画が、権力者からの不当な抑圧に対する民衆の勇敢かつ力強い抵抗を描いているように感じたのは自分だけだろうか。
その抵抗の意思と姿は、山火事ほどの大きさはないが、山火事にも負けない熱量と輝きを秘めている。
■監督・脚本:テイラー・シェリダン
■脚本:チャールズ・リービット
■出演:アンジェリーナ・ジョリー、ニコラス・ホルト、フィン・リトル 他
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