ハロウィン特番のラジオドラマが、臨時ニュースを模した演出でニュージャージー州に「火星から飛来した隕石が落下した」と、なんとも物騒な知らせを告げたことから、聴取者から放送局や地元警察への問い合わせが相次いで回線がパンクするなど、ちょっとした騒動になった。日頃から特ダネを狙っていた新聞記者たちは騒動を面白おかしく脚色し、あたかも「ラジオの偽ニュースで街中が大パニック」となったように報じたばかりか、社説やコラムなどでも攻撃した。

 その後、大学教授が雑な推計で集団パニックが発生したと論じたことから、ブンヤの飛ばし記事は「宇宙戦争ラジオ放送事件」として都市伝説化し、様々な娯楽メディアで取り上げられたほか、新たな悲劇をも生み出してしまう。

 まず、騒動から19年後の1957年にはてん末を再現したテレビドラマがアメリカで放映され、それをきっかけに雑誌等でも関連記事が掲載されるようになったとされる。その後、最初のテレビドラマ化から18年後の1975年には再度ドラマ化されたが、こちらではパニック描写がかなり抑えられ、ウェルズがラジオドラマに取り入れた様々な新技術も描写するなど、事件の研究が進んで評価が変わりつつあったことを示していた。

 また、ラジオドラマそのものも折にふれて再放送あるいは再演されているが、その際に本当の集団パニックが発生し、悲劇に至った事例も存在する。

 南米のエクアドル、首都のキトでラジオキトが1949年に「臨時ニュース演出」を交えつつ放送した際、ドラマを現実と勘違いした人々が実際に避難を開始したため、放送を中断してつくり話であることを伝えた。ところが、逆に怒った群衆が放送局へ放火し(失火説あり)、逃げ遅れた局員ら数名(20名説あり)が死亡するという悲劇へ発展したのだ。

 アメリカではパニックに至らなかったドラマが、なぜエクアドルではパニックを引き起こしたのか?

 今のところ定説はないが、放送で「首都付近の空軍基地が壊滅した」と報じたこと、さらにエクアドルは1941年にペルーとの戦争で国境地帯を空爆されたり、パラシュート部隊の侵入を受けていたため、空からの攻撃というニュースへ過敏に反応したのではないかとも考えられている。ともあれ、火災で局舎は消失して機材も全滅、ラジオキトは1951年まで放送再開できなかった。

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【記事提供:リアルライブ】
情報提供元: リアルライブ