松村雄基(2025年8月撮影)

俳優松村雄基(61)が、26~31日に東京・日本橋の三越劇場で舞台「祖国への挽歌~日系人マフィア モンタナジョーの生涯」に主演する。実在した日系アメリカマフィア、モンタナ・ジョーを演じる。日系2世としてカリフォルニアに生まれ、第2次世界大戦中は強制収容所に入れられ、日系人の442部隊に所属してヨーロッパ戦線で活躍した。19年、23年に続き2年ぶり3度目の上演に臨む、松村に聞いた。【小谷野俊哉】

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芸能界には、全く興味のない子供時代を過ごしていた。中学2年の冬に同級生の女子からかかって来た電話が運命を変えた。

「同級生なんだけど、全く知らない女の子から突然電話がかかって来て『芸能界とか入りたくない』って言われたんです。僕は生徒会長をやっていたので、向こうは僕のことを知っていたんです。彼女のお母さんの知り合いが、その後に僕のことをスカウトしてくれる事務所の社長で『あんたの娘の中学校に誰かタレントになりたいのいないかね』って。彼女は、僕に白羽の矢を立てて電話をして来たんです。でも僕は、芸能界には興味がなかった」

本人にその気がなくても、人前に立つ素養はあった。

「僕の祖母が詩吟を教えていて、それに合わせる剣舞というのをやっていました。それを知った担任の先生が、中学1年の時の文化祭で『剣舞をやりなさい』と言って来たんですよ。で、剣舞をやったりして、なんかこう人前に立つようなことをしたので、ちょっと目立ってたんです。でも、かっこいいとかもないし、勉強ができたこともない。運動神経も良くなくて、僕は泳げなかったんです。中1の時、運動会の持久走の選手を選考する日に風邪で休んでたら、知らないうちに持久走の選手になってたんですよ。学校行ったら、もう持久走の選手だと(笑い)。みんな、一番やりたがらないのにと思いながら練習したら、学年で1位になりました。そんな感じで、運動神経も良くなく、勉強もそんなにできなくて、ただちょっと目立ってたりしてただけで、生徒会長になったりしていました」

生まれは東京の大塚。

「東京と言っても下町の感じですね。みそ、しょうゆが足りないからと、隣の家に借りに行った時代です。映画の『ALWAYS三丁目の夕日』の世界ですよね。銭湯にも行ってました。血のつながらない親戚みたいな、おばちゃんが近所にいて『今日、どうだった』と声をかけて来るような。子供にとっては面倒くさいですよね(笑い)。今より貧しい時代でしたが、人のつながりがあった。それがなくなったから、ちょっと大変な世の中になってきたなと。核家族化が進んだ結果がそうなったんだと思いますね」

全く興味がなかった芸能界だったが、結果的に1歩を踏み出すことになる。

「僕はやりたくなかったんですが、一緒に住んでいた祖母から、むげに断るのもと『会うだけ会って来なさい』って言われたんです。それで事務所の社長と会ったんですけども、話が平行線で終わった。その翌日、僕はもうないものだと思って、学校に行ったんです。その間に社長が祖母を訪ねて来て『預からせてください』と言ったんです。それが中学2年の冬です。僕にとっては、祖母が絶対でしたから、祖母からの言いつけで『はい、やります』と。それまで詩吟と剣舞で小学4年から舞台には立ってたんですけど、お芝居なんか全くやってなかったんです。自分から率先して人前に立ちたいとも思いませんでしたし、芝居にも歌にも全く興味がありませんでした」

そこから2年間、じっくりと演技の勉強を積んだ。

「中学3年と高校1年の2年間、新劇系の劇団俳小に演技の基礎を勉強しに行ったんです。社長命令だったんですけど、後から聞いたら『箔(はく)を付けるためだ』と。実力なんていうものは現場でつけるものだから、箔を付けるために行かせたんだって言ってました。でも、僕は楽しかったです。周りは大人ばっかりで、15歳でしたからね。大人はエチュード(即興劇)をやったり、岸田國士とかチェーホフとかスタニスラフスキーとかの理論とか。なんでも教えられて、夜中に大声出したり、歌ったり踊ったりするんですよ。同世代はいなくて、僕は聴講生だったから、みんなにちやほやされるしね。学校では聞いたことない大人の会話をいっぱい聞けるし、楽しかったです。でも、芝居が好きというのとは別だったんですけどね」

1980年(昭55)9月、テレビ朝日系の連続ドラマ「生徒諸君!」で俳優デビューした。

「劇団俳小で勉強しているうちに高校2年になっていて、その間に事務所の社長があちこちに営業に行ってくれたんです。ある日、社長から電話が来て『仕事が決まったぞ、レギュラーだ。ドラマだ、やれ』って言われて、台本が来たんです。それがデビュー作になたドラマの『生徒諸君!』でした。同い年、17歳の上田美恵さんが、主人公のナッキーこと北城尚子を演じました」

(続く)【小谷野俊哉】

◆松村雄基(まつむら・ゆうき)1963年(昭38)11月17日、東京都生まれ。80年テレビ朝日「生徒諸君!」で俳優デビュー。84~85年TBS「スクール☆ウォーズ」。88年映画「恋子の毎日」。94年(平6)NHK連続テレビ小説「ぴあの」。99年舞台「ミュージカル 南太平洋」。18年映画「聖域 組長の最も長い一日」主演。178センチ。B型。

情報提供元: 日刊スポーツ_芸能
記事名:「 松村雄基、舞台「祖国への挽歌」主演 同級生女子から電話「芝居にも歌にも全く興味なし」/連載5