矢井田瞳 25周年、次のドアを開ける 何度もくじけかけたけど新しいサウンドに挑戦
「ヤイコ」の愛称で親しまれるシンガー・ソングライター矢井田瞳(47)がデビュー25周年を迎えた。今月20日には、約3年ぶりとなる13枚目のオリジナルアルバム「DOORS」をリリースする。同作に込めたい思いやこだわりを明かしつつ、25年を振り返った。そこには、ファンを含め自身に関わった全ての人への感謝があった。【川田和博】
★全曲ギターソロなし
約3年ぶりとなるアルバムは、バラエティーに富んだ10曲をラインアップ。アルバム全体としては、良い意味で“聞き流せる”落ち着いた雰囲気ながらも、各曲それぞれが個性を輝かせている。
「アルバムのコンセプトを先に設定せず、その時その時の自分のベストや形にしたものを作っていったら、この『DOORS』というまとまりになったという感じなんです」
その根底には、アーティストとして、常に新しいことへ挑戦し続ける姿勢があった。
「振り返ってみんなが求める矢井田瞳を作ろうではなく、踏襲しつつも新しいサウンドを作りたいという感じでした。これまで通りの書き方じゃなくて、少しずつ1曲1曲にワンチャレンジがあります」
表題曲「嘘」も含め、アルバム全体を通してヤイコの挑戦が詰まっている。
「あえて、ちょっと斜め上の角度からのアレンジを追求してみました。実はこのアルバム、全曲通してギターソロがないんです。これも意図してですが、そんなことも含めて、これまでとちょっと違う点がちりばめられています」
これまで培ってきた“流れ”にあえて抵抗した。
「今までだったら『こういうサウンドになっていただろう』という流れに甘えるんじゃなくて、『もっと違う方法はないかな』と1曲1曲探していった感じ」
曲順にもこだわった。“静と動”がアルバムを通して感じられる。
「プレートを作って、ああでもない、こうでもないと並び替えて、聞いて作りました。この曲順が、各楽曲がその場所で一番輝ける。そういう曲順だなと思っています」
3曲目の「sigh sigh sigh」が異彩を放っている。
「最後に作った曲なんです。出そろっている曲たちを眺めて、足りていないのは何だろうと思った時に、ちょっとヒリヒリしていて、暗くて狭い世界観のものが1曲欲しいなと思った」
タイトルに込めた思いを説明した。
「このアルバムを聞いた人が、それぞれの扉を開けるきっかけになってくれたらいいなと思います。おのおのの心に、ぴったりくる曲があればうれしいし、いろんな人の心に寄り添えるアルバムになってくれればと思います」
★感謝から生まれた曲
デビュー25周年を迎え、曲作りで変わった点があるという。
「個人を掘り下げる曲が増えたなと思っています。昔だったら、かっこつけて書かなかったようなことも、今だったら掘り下げたほうが届くんじゃないかというイメージがあります」
意識してではなく、自然に変わっていった。
「年を重ねたのも大きな1つの理由だと思いますが、これまでたくさんの曲を書いて、ライブをしてきて、その都度100点はやっぱりないんです。『次は』の繰り返しで、今の自分になった」
“肩書”へのこだわりも変わった。
「昔はシンガー・ソングライターや音楽家にこだわったりもしていました。でも、今は本当に線がなくなってきたというか、自分がどうありたいかを決めるのは自分で、周りから見て違うと思っても、『別にいいか』って(笑い)」
そこには、アーティストとしての思いがある。
「肩書がすごく自分の可能性を狭めている気がしたし、周りにどう見られるかに時間を割くよりも、自分がどうしたいかに時間を割くべきだなって」
25年間では、心が折れそうになったこともある。
「このまま活動していたらポキッと折れちゃう気がして、08年くらいから2年間ぐらいお休みをいただきました。休みたい時に休ませてもらえて幸せだったなと(笑い)」
この経験は、後の楽曲制作面に変化をもたらした。
「私の新曲を待っていてくれて、ライブに行くのを楽しみにしてくれる人がいてくれるからこそ、一緒に歌えたらいいねみたいな曲が自然と書けるようになった。今回で言うと『Singing all day』です。歌うことで、社会やファンの方とつながれているという意識があるから、頑張って生きられる。感謝できたからこそ生まれた曲なんです」
★続けることが何より大事
今後、どんな方向に進むのだろうか? 未来図を聞くと、笑みをこぼした。
「どんな方向かは誰も分からないです(笑い)。でも、とにかく続けることが何よりも大事で大変というのを、続ければ続けるほど身にしみています。だから10年後ではなく、1歩ずつ良い曲を書いて、ライブをして、それがまた次につながるようにやるしかないと思っています」
最後はファンにメッセージを送った。
「本当に何回もくじけそうになったけど、もう1回頑張ってみようと思えたのは、ファンの『新曲を聞きたい』『ライブに行ってみたい』という言葉です。そんな言葉が、前に進めてくれた25年間でした。感謝とともに、大切な25周年にオリジナルアルバムが出せることをとてもうれしく思っているので、ぜひ聞いていただきたいです」
▼松本径マネジャー(45)
ヤイコさんのアーティストとして素晴らしいところは自分の可能性を決めずに、チャレンジングな音楽人生を送っているところです。ギター1本での弾き語りからバンド、オーケストラまで、その中で自分を見失わずに、芯がぶれないのがすごいと思います。今年25周年ですが、30周年、40周年とマネジャーとしてご一緒できるのが楽しみです。
◆矢井田瞳(やいだ・ひとみ)
1978年(昭53)7月28日、大阪府生まれ。19歳でギターと出会い曲作りを始める。00年5月「Howling」でインディーズデビュー後、同年7月「B’coz I Love You」でメジャーデビュー。プライベートでは07年7月、音楽関係者の一般男性と結婚、09年10月に第1子となる長女を出産。血液型A。