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そんな中で今年は出だしから第92回アカデミー賞で韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が作品賞、監督賞、脚本賞、国際(長編)映画賞(去年までの外国語映画賞)を受賞と非常に大きな反響を呼ぶとともに、韓国映画がさらに世界的に大きな注目を浴びるきっかけになりました。
そしてそんなホットな韓国映画界の、次なる賞レースに上がるのはどんな作品?どの監督の作品?というのもすでに気になっている人もいるんじゃないですか?世間的にはコロナ・ウィルスの影響もありちょっと出遅れている感じの映画界、エンターテイメント業界でありますが、ここはひとつアッと驚く作品が登場するのを、事態の収束とともに期待して辛抱強く待とうではありませんか。そしてまずは「むむ、これは!?」という作品を一つご紹介します。本格サスペンス・ノワール映画『悪の偶像』であります。
『悪の偶像』は、選挙選出馬表明を控えた知事有力候補の市議会議員の一人息子が起こしてしまったひき逃げ事件をめぐり、市議会議員の男とひき逃げで死亡した男性の父親という二人の対照的な表情を通して、事件に隠された意外な真実と緊迫した展開を通して描いたサスペンス劇であります。
作品は知事候補というどちらかというと富裕層側の人間、対して雑貨店の店主という一般的な生活を営む人という二人の周辺が複雑に絡み合う物語となっています。胸をえぐられるような衝撃から「えっ、そんな?」と驚く肩透かしなど非常に起伏に富んだ展開が連続する中に、現代韓国に潜む格差社会問題を潜ませているなど、非常に見ごたえのある作品となっています。
市議会議員・ミョンフェ役を、大ヒット作品『シュリ』に出演したハン・ソッキュ、そして雑貨店を営むひき逃げ被害者の父ジュンシクを『オアシス』などに出演したソル・ギョングが熱演、韓国のドラマ、映画界ではすっかりおなじみの二大ベテラン俳優がバチバチと火花を散らし合う強力キャスティングとなっています。
なかなか韓国映画は見たことないので…という方にはピンとこないかもしれませんが、年齢的には50代初旬から中旬になりますので、例えば日本の俳優として唐沢寿明、佐藤浩市、阿部寛くらいの年齢層と知名度を持った俳優さんとイメージすると近いかもしれません。まさに現代韓国を代表する二人といっても過言ではないでしょう。
そして注目すべきは監督。作品を手掛けたのは、本作で商業長編作2作目というフレッシュな経歴のイ・スジン監督。長編デビュー作『ハン・ゴンジェ 17歳の涙』でいきなり第43回ロッテルダム国際映画祭タイガー・アワードを受賞、あの巨匠マーティン・スコセッシ監督から絶賛を受けたという気鋭の監督であり、まさにポン・ジュノ監督や大きな反響を得たスリラー映画『哭声/コクソン』(日本からは國村隼も出演)を手掛けたナ・ホンジン監督に続く新たな才能として大きな注目を浴びています。
そして本作はソッキュ、ギョングという二大スターに加え、スジン監督のデビュー作で主演を務めたチョン・ウヒ(『哭声/コクソン』にも出演)が出演。再びのタッグで作品を盛り上げています。役者陣としてはソッキュ、ギョングのベテランらしい、考え抜かれた存在感、演技と対照的にウヒの「怪演」という言葉がふさわしいダイナミックな演技が激突。三つの強力な個性を、次世代の韓国映画界を担う最有力候補・ホンジン監督が見事な采配を振るい、インパクト抜群の作品に仕上げました。
また先述の通り、興味深いのは物語の中で織り込まれた韓国の格差社会の一面を表す要素。『パラサイト 半地下の家族』がとある富裕層、貧民家庭それぞれの一般社会から隠れた一面で物語が展開していくのに対し、今回は逆にスキャンダル的な面、息子の不祥事を明るみに出してしまうという、公にせり出した一面から物語の展開が進んでいきます。さらに前作が貧民家庭目線で物語が進行することに対し、本作では両者が同率か、またはどちらかというと富裕層側の目線でストーリーが進みます。
時に血なまぐささも見え、かなり生々しいイメージもある韓国サスペンス。本作もそういったリアルな面もあり見どころも十分、そして名キャスト陣に実力派監督が監督、脚本を手掛けるとなると、やはり来年の賞レースでも大きく騒がれる一本になるのではないでしょうか。
実際、すでに本作は第69回ベルリン国際映画祭でパノラマ部門正式出品、2019年ファンタジア映画祭で作品賞と、ソッキュ&ギョングが男優賞をそれぞれ受賞、第28回釜日映画賞でソッキュが主演男優賞ノミネートとかなりの注目を浴びています。当然このほかにも秀作の韓国作品が続々と登場する2020年でありますが、『悪の偶像』、イ・スジン監督の名も覚えておいて間違いはないですぞ!
映画『悪の偶像』は2020年4月17日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかで公開予定。
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