若手人気俳優が顔を揃える恒例の「新春浅草歌舞伎」が浅草公会堂で上演中です。今年は、尾上松也、坂東巳之助をはじめとした次世代を担う花形歌舞伎俳優らが、フレッシュなお芝居を華やかに力強く演じています。

なかでも注目なのが、キリリとした二枚目役者の四代目 中村歌昇(なかむらかしょう)さん。今年の「新春浅草歌舞伎」では5演目中4つに出演する活躍ぶりで、『絵本太功記~尼ヶ崎閑居の場』では大役である光秀を演じています。

今回、編集部では新春らしく、これからますますの活躍が期待される若手歌舞伎俳優の歌昇さんの楽屋にお邪魔し、公演中の「新春浅草歌舞伎」について、また、30代男性として今後の目標などを伺いました。

新春浅草歌舞伎は若手役者の登竜門

―― 歌昇さんが出演されている「新春浅草歌舞伎」とはどのような歴史と特徴がある公演なのでしょうか?

歌昇:1980年に「初春花形歌舞伎」として浅草での歌舞伎興行が復活して以来、浅草公会堂にて毎年行われている初芝居「新春浅草歌舞伎」は、若手の登竜門のような公演でして、今年は、尾上松也兄さんを中心に若手役者の勢いのある芝居をご覧いただいています。

浅草公会堂で一月行う公演は一年を通してこれだけ。通常の公演よりも時間が短く、第1部は14時半、第2部は18時台に終わる設定になっています。これは、お芝居と一緒に浅草の街も楽しんでいただくためで、「新春浅草歌舞伎」は浅草の街の人と共に作り上げてきた公演でもあります。

企画のなかには新春らしく、お客様にお着物でご来場いただく「着物で歌舞伎」という日もあり、その日は舞台からは着物姿のお客様が見えて壮観で、江戸時代の歌舞伎はきっとこんなだったのだろうと想像してしまいます。

―― お正月に歌舞伎見物がてら着物で浅草の街を楽しむとか贅沢!ちなみに歌昇さんおすすめの浅草グルメはありますか?

歌昇:たくさんあって挙げたらきりがないのですが、浅草公会堂の近くにある鰻屋の「小柳(こやなぎ)」さんは、公演期間中に時間があれば必ず食べに伺います。歌舞伎の公演は期間が長いので、公演中にメンバーやスタッフさんたちと、お蕎麦屋さんを見つけたりラーメン屋さんを巡ったりと浅草の美味しいグルメを探すのも楽しみのひとつです。

浅草といっても広くて一度では回りきれませんから、お客様には1部、2部で違う日に足をお運びいただき、浅草寺にお参りしたり甘味やグルメを味わったりと、浅草ならではの華やかなお正月を堪能していただきたいですね。

―― 今回は5演目中4つに登場される忙しさですが、なかでも『絵本太功記~尼ヶ崎閑居の場』の光秀は大きな役と伺っています。

歌昇:今回の演目は、中村橋之助さんの華やかな踊り『花の蘭平』からはじまり、さまざまな表現のお芝居をお届けします。僕は、『菅原伝授手習鑑~寺子屋』『茶壺』『絵本太功記~尼ヶ崎閑居の場』『仮名手本忠臣蔵~祇園一力茶屋の場』に出演しており、『絵本太功記~尼ヶ崎閑居の場』では、師匠である吉右衛門のおじさま(二代目 中村吉右衛門)の当たり役でもある“光秀”に挑戦させていただいていております。

このお役をやるにあたり、吉右衛門のおじさまには「公演の座頭がやるような大きなお役であると考えてやりなさい」と言われました。実際に演じていて、すごく難しいお役だなと感じています。

初役でさせていただく場合、教えていただいたことをどれだけできるかが大切。観ていただいた方に少しでも「吉右衛門さんに似ているところがある」と思っていただければ嬉しいのですが、そう簡単なことではないです。

―― 『絵本太功記』に登場する光秀とはどのような人物なのでしょうか?

歌昇:この『絵本太功記 尼ヶ崎閑居の場』は、光秀の母、妻、息子とその許嫁が登場する本能寺の変後の光秀一家のドラマです。登場人物一人ひとりにスポットが当たり、光秀の見せ場は後半から。ずっと動かずに目をつむって息子(十次郎)の話を聞いているシーンがあり、なにもしない“無の芝居”は光秀の感情の揺れを表現する大切な場面のひとつです。

光秀が民の心の拠り所である神社や仏閣を焼きはらう信長を討ち、自らの正義を貫いてしまったことで、母や息子の命までもが儚く散っていってしまう。自分の家族の死を目の当たりにして、どのように心が揺さぶられるのか細やかさだけでなく、大胆なところも含めてお客様に伝わればいいなと思っています。

―― 光秀といえば、今年の大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)の主役。過去にも大勢の俳優さんが演じていますが、歌昇さんは光秀についてどのような印象をお持ちですか?

歌昇:光秀はミステリアスな人ですよね。『絵本太功記』の光秀は正義感が強いわりに、額に傷がありダークな顔つきをしているのですが、ものによっては“かぶき者”で風変りな人物だったと書かれるなど、どれが正しいのかは実証できませんが、凄く頭の切れる人だったとは思うんです。

南光坊天海になったという説もあって、そのあたりが光秀というキャラクターの奥深さだと思います。後世の人が色々と想像を巡らせて物語を描きたくなるほどドラマティカルで不思議な魅力のある人物ですよね。

この『絵本太功記~尼ヶ崎閑居の場』は江戸時代に書かれた物語で、史実をもとに当時の世相を反映させたフィクションです。光秀の母親が隠居する家に秀吉が変装して泊まりに来るなど、大胆なストーリーになっていますが、後世の人々が光秀や秀吉にどのような想いを寄せていたか分かる気がしますよね。

仲の良いのは同世代の巳之助さん

―― 光秀の他に『茶壺』の麻胡六も初挑戦と伺っています。

歌昇:盗人(すっぱ)の熊鷹はやらせていただいていますが、田舎者の麻胡六は初めてです。踊る箇所も多くて音を外せない緊張感がありますが、こういったお役は自分が楽しみながら踊らないと面白さが伝わりません。ユーモアたっぷりな作品なので、お客様には笑って楽しんで帰っていただけたらと思います。

一緒に踊っている巳之助さん(二代目 坂東巳之助)とは、小さい頃からずっと一緒に過ごしてきたこともあってプライベートでも仲が良いです。僕の次男と巳之助さんの長男がちょうど同じ学年になるのでパパトークもしますよ(笑)。

僕は、育児というほどでもないですが、ごく稀に息子の幼稚園のお弁当を作ってあげることもあります。サッカーボールのカタチに海苔をちょきちょきと切ったりしてね。あとは、息子が踏切越しに見る電車が好きなので、散歩がてら連れて行ったり(笑)。父(三代目 中村又五郎)が、仕事のことは家に持ち帰らない人だったので、その影響もあるのか、なるべく歌舞伎の話はせず一緒に過ごしたいと思っています。

―― ご長男が昨年の9月に初お目見得されましたが、やはり将来は歌舞伎俳優にと期待されますか?

歌昇:将来は必ずしも歌舞伎俳優にならなければいけないということはなく、息子には自分のやりたいこと、興味があること、夢中になれることがあればその才能を伸ばしてほしいです。

僕自身は自然なカタチで歌舞伎というものを好きになり、その魅力に惹かれましたから。同世代の役者さんと一緒に過ごせば興味も湧いてくるもので、いよいよ歌舞伎の道を目指すとなれば、自分ができることはしてあげたいです。

今のところ、どうやら長男は歌舞伎が好きなようで、家で歌舞伎の映像を繰り返し見るほどなのですが、僕はさんざんお芝居をして家に帰っても歌舞伎の映像が流れているので…ちょっと疲れます(笑)。

30代。これから目指したいこと

―― 昨年12月に『有吉ゼミ』(NTV)で激辛レッドシチューに挑戦される歌昇さんを拝見しました。ファンの方は歌舞伎以外で活躍する歌昇さんも楽しみにされていると思います。

歌昇:あれは本当に辛かったんですよ! 死ぬかと思いましたが、負けず嫌いなのでぜんぶ食べてしまいました(笑)。

僕のベースはあくまでも歌舞伎ですが、バラエティでもドラマでも、どんなことでも挑戦して、新しい引き出しを増やしていきたいと思っています。30代といっても歌舞伎の世界では若手中の若手、まだまだ目指すべき先輩方がたくさんいらっしゃいます。さまざまなものに挑戦し刺激を受けながら、基本をしっかり守り演じて、歌舞伎の伝統を受けついでいきたいと思っています。

最近は、自分なりに歌舞伎の面白さをお伝えしたくて、歌舞伎の化粧動画をinstagramにあげたりしています。今の時代、僕自身の言葉や視点で面白さをお伝えするのが大事かなと思うので。

歌舞伎は伝統文化という堅いイメージもあるかも知れませんが、実はとても柔軟で、自由に発想することで無限の可能性があります。僕も出演させていただいた新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』をはじめ、先輩のお兄さん方が漫画やアニメを題材にした、新しい切り口の歌舞伎に挑戦しています。

そういった新しい演目をきっかけに、若い世代の方にも足を運んでいただき、さらには古典にも興味をもっていただけたのなら嬉しいですよね。やはり古典があってこその歌舞伎ですから。現在公演中の「新春浅草歌舞伎」は演舞や古典をしっかりと楽しめます。毎月行っている通常の歌舞伎座の公演よりもお値段がお手頃なので、興味はあるけれど歌舞伎未体験の方など、ぜひ気軽に足を運んでいただきたいです。

新春浅草歌舞伎 

期間:2020年1月2日(木)~1月26日(日)

時間:第1部 午前11時~ / 第2部 午後3時~ ※19日(日)第2部は「着物で歌舞伎」

詳細 http://www.asakusakabuki.com/

演劇界
Fujisan.co.jpより
情報提供元: マガジンサミット
記事名:「 新春特別企画。「新春浅草歌舞伎」で光秀を演じる注目の若手花形!中村歌昇にインタビュー