▲左から、丞威、谷垣健治監督

映画『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』が、2021年1月1日(金)から全国公開される。本作は、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』や『トリプルX:再起動』、ブルース・リーの唯一の師を主人公とした『イップ・マン』シリーズなどで知られるドニー・イェンが主演するアクションコメディだ。本作で描かれるのは、過激な追跡劇が原因でデスクワークに回され、婚約者との別れを経て激太りした敏腕熱血刑事・フクロンの奮闘劇。強盗事件の容疑者を日本へ連行することになったフクロンは、ヤクザの麻薬抗争に巻き込まれ、巨大な陰謀に立ち向かうことになる。

『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』本予告(YouTube)https://youtu.be/5Q5wC9PoT9Q

監督を務めた谷垣健治氏は、『るろうに剣心』シリーズや、多数のドニー主演作、2021年に公開を控える『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』など、世界各国でアクション監督として活躍してきた。本作では、1980年代から娯楽大作を生み出し続ける香港映画界の大御所プロデューサー=ウォン・ジンのもと、約15年ぶりに長編映画のメガホンをとっている。そして、本作のもうひとりのキーマンが、フクロンと激突するヤクザの若頭・島倉を演じた丞威だ。『HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY』、『孤狼の血』、ドラマ・舞台『KING OF DANCE』などで知られる丞威は、本作出演を契機に海外作品にも積極的に参加している。「宇宙最強」の異名を持つドニーが120キロの巨漢を演じることになった経緯、作品成立のきっかけや、アクションシーンの裏側まで、谷垣監督と丞威がインタビューで語ってくれた。

「太っても宇宙最強」なアクションコメディ 始まりと成立までの分岐点

 

――企画誕生のきっかけは、ドニーさん主演のCMだと聞ききました。

谷垣:そうです。マットレスのCM(香港の寝具メイカーSINOMAXのCM/2015年放映)が始まりですね。

ドニ・イェン主演SINOMAX CM「用愛.支持所愛」(YouTube)https://youtu.be/m_Ic-GcaSWg

SINOMAX CM「用愛.支持所愛」メイキング(YouTube)https://youtu.be/g-wHMDjJKWw

――それがなぜ映画に?

谷垣:単純に、“太ったドニー”がキャラとして良かったんです。「動きのキレるドラえもん」みたいな感じで(笑)。ドニーは『イップ・マン』のような厳粛な役だったり、すでに色んなことをやってきていたので、当時は役者のレンジとしてちょっと変わったものをやりたくなった時期だったんでしょうね。太ったキャラをみんなが「いい!」と言うから、ドニーはCMを監督したぼくに、「何かストーリーを作れ。太った奴が少林寺に行って悪い奴を倒すとか、太った奴が東京に行って悪い奴を倒すとか、何でもいいよ」と。結局、場所が変わってるだけで主語述語は同じなんですけど(笑)。じゃあ東京がいいかな、と。それで、「太ったドニーが」「東京へ行って」「悪い奴をやっつける」ストーリーをちょっと具体的にしてプロットを出したんです。そこから、2017年ぐらいになって、「じゃあ。やるか」と。

――いいタイミングで監督のお話が来て、よかったですね。

谷垣:そうですね。でも、まあ大変ですよ(笑)。ドニーがいて、ウォン・ジンがいるんですから。言ってみれば、ドニーは香港のアクションを代表する人で、ウォン・ジンは香港のコメディを代表する人です。彼らが思っていることを、ぼくが現場でどれだけ実務としてこなせるか、なので。

――丞威さんは、どこでジョインすることになったんですか?

谷垣:「東京へ行く」ということが決まったので、ドニーに対する敵キャラを作らなきゃいけない。従来のパターンだと、ちょっと年齢のいった風格のあるヤクザのボスになっていたと思うんですけど、今回は若くて活きのいい、キレのある、野心に満ちた、そんなキャラのほうがいいな、と。ドニーが太る役なので、そういう対照的にシャープなキャラのほうがいい。それで、パッと思いついたのが、丞威だったんです。

――大まかなシノプシスのような段階で、丞威さんを想定していたと。

谷垣:そうですね。

――オファーをしたのは、どういうタイミングで?

丞威:狛江の体育館で、大内(貴仁)さん(※本作アクション監督)と谷垣監督がいて、サラっと説明されました(笑)。当時はまだ23歳だったので、「ぼくで大丈夫なのかな」と思いつつ、でもドニーさんと対決できるのは捨てがたいチャンスなので、「やります!」と。

――大まかな設定だけでも即決したと。

丞威:そうですね。本当に、具体的なことは決まってなかったですよね?

谷垣:あったんだけど、本当にたたき台という感じです。日本の脚本とは、ちょっと位置づけが違うので。あってないような脚本(笑)。

――香港映画では脚本がどんどん変わっていく、というのはよく聞きますね。作品から、1980年代の香港アクション映画のテイストを感じたのですが。

谷垣:香港の“アクションコメディ”ですよね。太ったドニーを位置づけとして考えたときに、シリアスなものをやってもしょうがない。というか、シリアスにはならないじゃないですか。アクションコメディだったら、『燃えよデブゴン』(78年)というのがシンボリックな存在としてはあるので。今、香港映画には、ああいうアクションコメディがないんですよ。ないからこそ、作る意味がちょっとはあるんじゃないかな、と。

――80年代の香港アクションコメディを今そのままやってしまうと、表現としてキツイところもあると思います。現代版にしようと意識されたのでは?

谷垣:意識したというか、意識せざるを得なかったところは、やっぱりあります。ぼくらが今これを作るということは、80年代の懐古主義ではないんです。「お客さんの8割くらいは観たことはないだろう」というスタンスで作っています。もちろん、観てもらって、「懐かしいな」と思える人は“縁がある”とは思います。でも、そうじゃないマジョリティにも訴えかけないといけない。そういう意味では、まったく新しいものを作る気持ちでやっています。ただ、香港の人とやる、それもアクションとコメディという形で作ったら、自然と“そうなっちゃう”ところがあるんですよね。しかも、相手はバリー・ウォン=ウォン・ジンですから。

――80年代のあの感覚の、ド真ん中で活躍していた方ですしね。

谷垣:現代的に変えるとしたら、“太ったドニー”を最終的にどうするかが問題になってくるわけです。ドニーはずーっと、「何で太るんだ? 何で太るんだ?」と言っていました。結論として、「最後は痩せる」というのが、選択肢としてはどうなんだ?と。例えば、ジョニー・トー監督の『ダイエット・ラブ』(01年)では、最後はアンディ・ラウが痩せて、「めでたしめでたし」でした。でも、プロデュースで入っているドニーの奥さん(シシーさん)が、「『痩せて、めでたしめでたし』というのは、今だと必ずしも正解にはならない。世界中の太った人を敵に回してしまう」とアドバイスしてくれました。だから太っていることを嘲笑するのではなく、「太っていて何が悪い」「太っているのがカッコいい」というコンセプトになり、それがアクションにも活かされています。もともとは、「ドニーが太ったらおもしろいじゃん」くらいに考えていたんですけど、そこが一つの大きな転換点になりました。

丞威:「Be water」(※水になれ:ブルース・リーの名言)ですね。

谷垣:そう、「Be water」。「なるがままに」ってことだよね。スタッフからも、「太ったら鈍くなるのが当たり前なんだから、動きづらそうにする描写をいっぱい入れたほうがいいんじゃない?」という意見はありました。痩せているときよりも動けないのが当たり前だから、と。でも、ドニーは「違うんだ。同じ人間がやっているんだから、太って、重量級ですばしっこいことに意味があるんだ」と言うんです。そこが、ちょっとだけチューンナップした部分かな。現場でも、ドニーは「重量級に対して、丞威はカミソリのように切れ味のあるアクションが見たい」と何回か言っていたと思います。

――丞威さんは、80年代にはまだ生まれていらっしゃらないですよね。当時の香港のアクションコメディの感覚って、わかります?

丞威:ぼくが観てきた香港のアクション映画は、『酔拳』(78年)だったり、『死亡遊戯』(78年)あたりなので、いわゆる80年代のアクションコメディは、そんなには通ってきていないです。ただ、ぼく自身は、「コメディ」というのを頭に入れて演じると、絶対に役がブレると思っていました。“コメディにする”のは、脚本だったり、そこに書かれたセリフだったり、そのタイミングだったり、編集じゃないですか。ぼくがあまり考え過ぎちゃうと、リアルなところがなくなって、ただの馬鹿みたいな感じになってしまう可能性がある。だから、現場ではあまり意識しなかったですね。もちろん、コメディだとわかってはいましたけど、シリアスな作品のつもりで居ました。

谷垣:おかしなことをするのは、数人のキャラクターだけでいいんですよね。これについては、ウォン・ジンが面白いことを言っていました。「まともな人がまともじゃないことをやる。または、まともじゃない人がまともなことをやる。それがコメディの基本なんだ」と。笑わせにいく必要はない。

――谷垣監督から丞威さんに、演技についてのリクエストはされたのでしょうか?

谷垣:コメディにも色々ありますけど、中国的なコメディにするつもりはまったくなかったんです。それは中国人にしか撮れないものだから、そこにあわせるつもりはまったくない。かといって、ウォン・ジンが得意としているような、ちょっと下品なコメディも今回は避けたい。だから、ウォン・ジンが何か言うたびに、ドニーは「そうじゃない。そうじゃないんだ」と全部却下してたんですけど(笑)。そういう意味では、ちょっとしたユーモアくらいに考えていました。シチュエーションがコメディを生むから、演技としてぼくがどうこう言うことはないかな、と。

丞威:そうでしたね。撮影が始まる前は、みんなでモニターの前で円になるんです。ドニー、ニキ(・チョウ)、谷垣さん、ぼくで集まって、「じゃあ、今日はどういうシーンにしようか?」みたいなところから始まる。「こういうことを言ったら、こうなるよね」みたいなことを言い合って。結構、現場はフリースタイルな感じでしたね。

谷垣:フリーでやってもらって、ちょっと方向や表現が違うと思ったら言う、くらいの感じでしたね。よく、「香港映画は撮影に時間がかかる」と言われますが、それは現場でのトライ&エラーに時間をかけてるからだろうな、と思うんです。日本だったら、あらかじめVコンや絵コンテがあるんですけど、それは“終わりに向けて走り出す”やり方ですよね。香港映画の場合は、どこに向かって走り出すかわからないけど、とりあえず撮ってみて、足し算していくんです。

丞威:ぼくが唯一ドニーに言われたのは、たしか東京での撮影かな? 序盤のほうだったと思うんですが、ドニーがぼくを見て、「丞威は若い。もっと説得力が欲しい。ちょっと優しすぎる」と言うんです。それで、「何だと?」と一気に火がついて(笑)。気合を入れなおして、最後のほうには喜んでもらえたんですけど。

谷垣:ドニーは相当、気に入ってましたよ。あそこで、急に刺青を入れている設定になったんだよね。

丞威:あれは大変でしたよ。一日かけて、どの刺青がいいか4パターンくらい貼ってもらって。剥がすのだって、簡単じゃないですから。お腹もすいてくるし、終わらないし、いざ決まったとなったら、今度はドニーがなかなか来てくれなくて(笑)。それが初対面でしたからね。

――なかなかの足し算ですね。丞威さんの演じたヤクザの島倉については、谷垣監督の中での最初の大まかなキャラクターは、“『ベテラン』でユ・アインが演じたような悪役”だったと聞いています。そのイメージは、丞威さんに伝えられたんですか?

谷垣:いいえ。「ユ・アイン」と言っちゃうと、そのものになってしまうので。

――ということは、具体的な島倉のキャラクターは、丞威さんが作り上げているということですか。

谷垣:そうですね。

――若くて軽いところもあるけど、ちょっと狂っていて、迫力もある。鮮やかに人を殺しておいて、ガッツポーズが出てしまうところとか、すごくよかったです。

丞威:ありがとうございます。

谷垣:あと、彼がサイを得物として使うのは、ウォン・ジンのアイデアですね。香港人は日本刀に次いで、サイが日本の代表的な武器というイメージがあるらしくて。しかも、最近はあまり映画の中でみたことがない、と。それこそ、『七福星』(85年)で倉田保昭先生がやっていたようなものを、ウォン・ジンが観たいと言い出したんです。日本刀だと、ちょっとクリシェというか、よくあるパターンになってしまうので。

丞威:ステレオタイプですよね。

谷垣:そう。ドニーが使うヌンチャクは、硬い武器と柔らかい武器の中間に属するタイプなので、動きの方向が途中で変化するじゃないですか。サイは、そこにガシガシと刺しにいく感じになるので、ちょうど合うんじゃないかな、と。

――丞威さんは、サイを使ってみてどうでした? 日本のアクション映画でも、なかなか使わない武器ですよね。

丞威:使わないですよね。だから、正直大変でしたよ。それこそ、倉田さんの映像を観て、どうやって回しているのか考えてみたり。

谷垣:現場では、大変そうには見えなかったけど。

丞威:現場では色んなことが大変だったから、サイにまで頭が回らなかったんです(笑)。

谷垣:そっか(笑)。

――(笑)

ドニー・イェンと丞威の“演技としてのアクション”

――それぞれのキャラクターの、アクションのコンセプトについてもうかがいたいのですが。ドニーさんは、「キレのある動き」だけではなく、ところどころ特徴的なムーブを見せますよね。

谷垣:『燃えよデブゴン』のオマージュと言いますけど、それはひいて言えばブルース・リーリスペクトなんですよね。だから、ドニーはブルース・リーっぽくやっている。ただ、太ったドニーがやることで、普段のドニーがやるのとは違う新しさが生まれるわけです。やっていることは非常にシンプルで、ブルース・リーっぽい要素、あるいはブルース・リーがやったことをそのまま再現するんですけど、ドニーの場合はブルース・リーのファンとして年季が入っているんで、水を飲むのと同じくらいの感覚で“ブルース・リー感”を出せるんです。その自然さが良かったですね。それと、歌舞伎町や東京タワーのセットも作ったので、そこではちょっとジャッキーっぽい、簡単に言うと空間を活かした立体的な動きもやっています。ブルース・リーっぽい動きをしてサイドキックを放ったら、向こうからヤクザが来る。ドニーは、「おおっ!」とリアクションをとるんですが、この表情がもうジャッキーですよね。そこから、ガードレールを飛び越えて逃げる。別の方向からもヤクザが来るので、ピョンピョン飛んで、電信柱に登る。ブルース・リーは、電信柱に登らないじゃないですか(笑)。

――確かに。

谷垣:最後にヌンチャクを持ったら、待ってましたとばかりに、「ドラゴンへの道」へのテーマで、サイを使う日本人と戦う。アドレナリンが出る場面ですが、ここでもドニーからは覚えたての匂いがしないんですよね。当たり前ですけど。しみついた形でアクションとして出せる。例えば、ブルース・リーっぽいポーズだけなら、誰でも出来るわけです。でも、全く知らない人がやると、“違う”ことが一瞬でわかるじゃないですか。ドニーにはドニーにしか出せない味がある。それは例えばダンスだって技術だけじゃなくて、“味”の部分があるわけで。同じように、シンプルなものほどその人の個性や生きざまが表れるので、それが出せるようになったら、アクション俳優としては強いし、長生きできると思いますね。

――なるほど。コンセプトを考えたというより、役を演じているドニーさんから自然と生まれたものなんですね。

谷垣:そうですね。それはあります。

――丞威さんについては、これまで求められてきたようなアクロバティックな動きではなくて、どちらかと言えば正統派の空手っぽいアクションが印象的でした。

丞威:役柄的に、いつものトリッキング的な、アクロバティックな技はなかったんですが、ぼくはもともとそれをやりたかったんです。というのも、アクロバットが多いと、どうしても動きが単発になってしまうので。

谷垣:そうだね。

丞威:自分しかやらない動きだから、芝居としてはどんどん楽しくなくなっていくんです。だから、今回のように駆け引きがあって、お互いにキャッチボールが出来るアクションは、「待ってました」という感じでした。今回のドニーは、シュガー・レイ・レナードやモハメド・アリのように、腕を振ってみたり、ちょっとボクシング要素のある動きも入れてきたので、それと対になる日本人で、ヤクザで、素手で戦うなら、空手じゃないかな、と。もちろん、「空手だ」と言われたわけではないですし、自分でもそう決めたわけではないんですけど、ちょっとしたローキックの出し方だとか、アフレコで入れる気合の声をフルコンっぽくしようとか、そういうところは要素として入れました。

谷垣:結果として、すごい良かったよね。レストランのシーンでは、序盤にちょっとトリッキングっぽい要素を入れていたら、ドニーは「ちょっと違う」と。もっと空手っぽいというか、突き・蹴りを多くしたほうがいい、と。

丞威:重心を下げる、ということですよね。

谷垣:彼(丞威)がいいのは、蹴りひとつとっても、知らない人が見ても、「こいつはできるな」とわかるところなんです。最近の映画では、軍隊格闘技とか、手を中心にしたアクションが流行ってますよね。なんでそうなるのかと考えたら、それはみんながやり易い動きだからだと思うんです。ちょっと練習したらそれなりに見えるというか。ところが急に蹴りをやれと言われて、テコンドーや空手のような蹴りの動きはできないですから。しかも、ドニーに蹴りを出して、また振り向いて……という、連続した動きの蹴りを立ち回りの中でやるのは、さらに難しいことです。彼がアクションが出来ることについては、すぐに誰も疑いを持たなくなるから、後はお芝居やキャラを十分に楽しんでもらえればいい。そこにもってくることができたのは、とてもよかったです。それと、彼はリアクションも上手いんです。ちゃんとした受けがないと、アクションは“おちゃらかほい”をやっているようになっちゃう。冗長な感じにならないのは、攻撃だけじゃなくて、受けも出来るからなんです。

――振付をこなすんじゃなくて、芝居としてのアクションが出来ているということですか。

谷垣:そう。「芝居としてのアクション」って、みんな簡単に言うんですけど、なかなかできないですから。

――ロケーションについても聞かせてください。なぜ、築地や歌舞伎町が舞台になったのでしょうか?

谷垣:単純に、香港人が好きな場所だからです(笑)。築地というか、魚市場にはわりとみんな行きたいし、魚も好きだし。東京タワーや歌舞伎町もそうですね。当初のエンディングは、テレビ局の中を考えてたんですけど、それはそれで大変だし、ちょっと企画モノっぽい匂いがしたと思うので、東京タワーでよかったと思います。

――たしかに、セットもよかったですね。歌舞伎町は、町の一区画を丸ごと作ったんですよね?

谷垣:実際の歌舞伎町でムリやり撮って“色んな人”に追いかけまわされるより、潔く作っちゃったほうがいいと思ったんで(笑)。

丞威:簡単に言いますけど、すごいことですよね。

――あのセットだけで、日本円で1億円超くらいの費用がかかってますよね?

谷垣:それくらいかかってますね。向こう(中国)の美術部は、ちゃんと「アクション用のセット」として、いちから作ってくれるんです。今回の美術部の人は、『モンスター・ハント2』(邦題『モンスター・ハント 王の末裔』)を一緒にやった人です。その前にも何本かやってるんですけど、『モンスター・ハント2』では、北京のスタジオで、撮影所の道を全部潰して作ってもらいました。セットというか、もはやテーマパークですよね。彼だったら、東京のいいところを切りとって、アクションしやすいセットを作ってくれるだろう、と。ちょっと“なんちゃって”な雰囲気も取り入れていて、例えばウォン・ジン(※編注:プロデューサーとしてだけでなく、キャストとしても参加している)の住んでいる歌舞伎町の家の中に日本式の鳥居があったりするんですが、そういうものは現実にはないじゃないですか。そういうところも含めて、いいものを作ってくれたと思います。向こうの美術部のセットワークは、木工がめっちゃ早くて上手いんですよ。知らないうちにバーッと作っちゃう。あの技術はなかなかのものですよ。

▲左から、ドニー・イェン、ウォン・ジン

――「リアルすぎないように」というのは、意識したところなんですか?

谷垣:深センにセットを作る時点で、あまりリアルを求めすぎないほうがいいかな、と。この映画の話自体が少しリアルから離れたところにあるから、というのも理由としてありました。ドニーの特殊メイクの質感とか、現実の人間とはちょっと違うから、全部リアルなトーンに持っていくとそこだけ浮いてしまうんじゃないか?ということは、ドニーと何度も話しました。だから、ファンタジーではないんですけど、ちょっとだけはずしたところに持っていっています。ただ、これも途中で何回もひっくり返してますけどね(笑)。

丞威:面白いのが、間近で見るとありそうでないお店の名前があったりするところですね。現実そのままじゃなくて、ちょっともじったりしている。セブン〇レブン(のようなコンビニ)も出てくるし、遠目で見ると歌舞伎町だけど、近くで見ると絶対にないような感じなんです。上手い具合に出来ていて、作るのは大変そうですけど、面白いと思いました。

――早くから香港、中国、ドイツ、アメリカ……と様々な国で制作の現場に参加してきた谷垣監督だからこそできたことなんだろうな、と思います。丞威さんも、昨年から海外での活動に力を入れていくことを発表して、本作がその第一歩という形になったわけですが。“その道”の先輩とも言うべき谷垣さんの生き様については、どうご覧になっていらっしゃるのでしょうか?

丞威:知っている人からすると谷垣さんが中国語が喋れることが当たり前のように思うけど、本当に凄いことなんです。もはやもう中国人です(笑)。現場(『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』)で広東語と標準語(北京語)をどっちもネイティブレベルでスタッフとコミュニケーションをとっていて、『燃えよデブゴン』の監督にふさわしい人は谷垣さん以外いないです。毎日膨大なエネルギーを撮影に注ぎ、迅速な判断で頭は常にフル回転。撮影中いつも士気を上げてくれる優しい方です、心から尊敬してます。次はハリウッドでご一緒したいです!!

――谷垣監督は、海外作品に積極的に出演しようとしている丞威さんのスタンスについて、どう思われているのでしょうか?

谷垣:当然やるべきだし、日本だとか海外だとか意識せずにどんどんやっていけばいいんじゃないですかね。「映画の作り方」なんてそもそも一つじゃないので、いろんな国のいろんな現場のあり方を楽しんだ方が得する人生だと思います。

――そんなお二方から日本の観客へ、注目すると面白いと思うところがあれば、教えてください。

谷垣:例えばぼくが子どものころ、『五福星』(83年)や『悪漢探偵』(82年)を観た時に、たとえ主役が初めて見る俳優でも、それはそれで、単純に楽しめたんです。やっぱり、それがアクションコメディの強みだと思います。どこの国の人が観ても万国共通で理解して楽しめる。ぼくは先日、ジャン・ポール・ベルモンドの特集上映(『ジャン=ポール・ベルモンド傑作選』)を観に行ったんですけど、ベルモンドをそんなに知らなくても、単純にアクションを観ているだけで面白かった。そういう楽しみ方でいいんじゃないかと思いますね。

丞威:日本の作品を観ると、だいたい同じ人が出ているじゃないですか。ぼくにとっては、そのイメージが強くて。この作品でも、もちろん出演者を知っている方もいらっしゃると思います。でも、正直に言えば、日本ではドニーを知らない人も多いと思うんですね。

谷垣:ドニーを知っていても、今回は「誰?」ってなるかもしれないしね(笑)。

丞威:そうですね(笑)。だから、逆にそういうところがいいのかな、と思います。谷垣監督がおっしゃったように、「この人が出ているから観に行こう」じゃなくて、純粋に映画として楽しんでもらえる作品なんじゃないかな、と。お正月ですし、おめでたい雰囲気で、「コロナを吹っ飛ばせ!」という思いもあるので、お身体に気を付けていただきながらも、是非観ていただきたいですね。

『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』は2021年1月1日(金)よりTOHO 日比谷ほか全国公開。

インタビュー・文=藤本 洋輔 撮影=オサダ コウジ

映画『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』
(2020年/中国/カラー/スコープサイズ/広東語・日本語/96分)

原題:肥龍過江
監督:谷垣健治 脚本:ウォン・ジン 製作:ドニー・イェン、ウォン・ジン、コニー・ウォン
出演:ドニー・イェン、テレサ・モウ、ウォン・ジン、ニキ・チョウ、竹中直人、丞威、渡辺哲、バービーほか
配給:ツイン 宣伝:スキップ
公式サイト:https://debugon-tokyo.jp/
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(執筆者: 藤本 洋輔)

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情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』谷垣健治監督×丞威インタビュー 「太っても宇宙最強なドニー・イェン」を現代アクションコメディとして成立させる意義