第二次世界大戦後に月の裏側に逃れ、秘密基地を建設していたナチスが人類侵略を開始するフィンランドのSFアクション映画『アイアン・スカイ』。その7年ぶりの続編『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』が7月12日(金)に封切られる。本作の舞台は、前作の30年後。人類は月面ナチスとの戦いに勝利したものの、核戦争のために地球は自滅・荒廃し、エネルギー枯渇のため絶滅の危機に瀕していた。主人公のオビは、地球深部の空洞にエネルギー源があることを知り、“ロスト・ワールド”へ旅立つ。しかし、そこに待っていたのは、復活したナチス総統ヒトラーと、彼と結託した秘密結社・ヴリル協会だった。


前作同様の月面ナチスにくわえ、『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』では、地球空洞説や地底人の登場なども描かれ、オカルト&トンデモ要素がパワーアップ。それでも、クラウドファンディングサイトIndiegogoで1.5億円を集めるなど、変わらぬ熱い支持を得続けている。メガホンをとったフィンランドのティモ・ヴオレンソラ監督は、なぜ陰謀論やオカルトを題材に映画を撮り続けるのか? 今回のインタビューでは、作品の意図から続編の構想まで、ざっくばらんに語ってくれた。  


興味があるのは「人間の知識が持つダークサイド」



――前作『アイアン・スカイ』の製作時から、続編のアイデアをお持ちだったのでしょうか?


実を言うと、地球空洞説であったり、恐竜が登場するような大まかなアウトラインは、1作目の製作中からイメージしていたものです。それと、ストーリーはまだ考えていなかったのですが、フックになるようなアイデアはいくつか思いついてはいました。そうこうしているうちに1作目が成功したので、具体的な脚本にとりかかった、という感じです。


――ヒトラーの復活やヴリル協会のような、陰謀論やオカルト的なモノにご興味がおありなのでしょうか?


特にオカルト的なモノが好きというわけではなくて、人間の知識が持つダークサイドに興味があるんです。そういったものは、我々に色んなことを考えさせてくれる。例えばぼくは、「普段見ているものは、真実の一部でしかない」ということは、確かだと思っています。とは言いつつも、地球空洞説であったり、ヴリル協会やレプタリアン(ヒト型爬虫類)、月面ナチスの存在については信じていませんが。申し訳ないんだけど(笑)。


――(笑)


ただ、そういった考えに至ったり、神秘的なモノにアプローチしようとする人々は面白いと思っています。彼らが信じる説がどんなにクレイジーであったとしても、その中に少しでも真実があれば、面白い。例えば、地球空洞説であれば、実際に“入口”を探すための調査隊を派遣したという事実もあるくらいです。そういったことを考えさせてくれるという意味で(オカルト的なモノが)好きなんです。



――ウド・キアさんは月面ナチス総統だけでなく、ヒトラー役も演じて、一人二役で大活躍されます。このアイデアは、どういう経緯で生まれたのでしょうか?


最初からあったアイデアではなくて、キャスティングなどを行っていくうちに生まれたものです。ウドさんには、もともと前作にも登場していた月面ナチス総統をそのまま演じてもらう予定でした。ヒトラーは、ウドさんをイメージしていたわけではなかったのですが、なかなか演じられる役者さんが見つからなかった。そんなときに、脚本を読んだウドさんから、「いい脚本だね!話したいことがあるから、(カリフォルニア州)パームスプリングスに来てくれない?」と呼ばれました。アメリカまで行ってウドさんに会ったら、「ぼくがヒトラーを演じたらいいんじゃないかな」と。最初は「いや、あなたもう別の役があるじゃないですか」と言ったんですが、ウドさんは「ぼくはヒトラー役上手いよ」とおっしゃって(笑)。でも、よく考えると二役を演じることはよくあることですし、ウドさんが演じることでよりユニークになるから、「最高じゃないか」と思いました。彼がヒトラーを演じることで、存在感が増すし、キャラクターをより高いレベルに引き上げることが出来る。実際に、ウドさんにチョビ髭を着けてもらったのを見て、「これだ!」と確信しました(笑)。


『処女の生血』海外版予告(レストアバージョン)Andy Warhol’s Dracula –restored trailer(YouTube)https://youtu.be/-mxhJzSKV08


――ウド・キアさんは、カルト作からメジャー映画まで、50年以上も活躍されている伝説的俳優です。ファンである監督自ら出演をオファーされたそうですね。彼の一番の魅力は何ですか?


ウドさんが俳優として素晴らしいのは言うまでもないことですが……彼は現場にいるだけで、周りの人々の気持ちを盛り上げてくれますし、また演技のレベルも引き上げてくれる、そういう稀有な俳優なんですよ。もちろん伝説的な方ですから、存在感も素晴らしい。それだけでなく、周りの人間すべてに対してリスペクトを持って接してくれるんです。例えば、水を持ってきてくれるスタッフ、照明、監督、そして共演者がどんな小さな役であったとしても、誰でも同じくリスペクトを持ってくださる。彼のおかげでみんながいい演技をしよう!と頑張れるし、セットまでもがレベルを引き上げられる。一緒に仕事をして、素晴らしい方だと思いました。


ノキアは次世代携帯に“コンパス機能”を入れるべき



――ヒトラー以外にも、歴史上の偉人や独裁者が登場します。どういう基準で選ばれたのでしょう?


まず第一に我々の歴史や世界に大きなインパクトを与えた人物、次に、見てすぐに誰であるかがわかりやすい人物ですね。わりと地球を破滅する方向に導いたと思われる人物が多いですが。ほかにも立ち位置が曖昧な人物を登場させようとも思いましたが、やはり観た方が短時間で認識しやすい、サッチャーやビンラディン、スターリンのような人を選んでいます。


――前作に続いて、サラ・ペイリンさんをモデルにした米大統領が登場しますが、現在知名度の高いトランプ大統領は姿を見せませんね。


脚本を書いていたのは2013年から2014年で、撮影は2015年からスタートしています。その頃には、トランプがアメリカの大統領になるなんて、夢にも思いませんでした。『アイアン・スカイ』のようなクレイジーな作品に携わるチームの想像力をもってしても、です。もちろん、設定を変えて彼を登場させることも出来ましたが、「本当に必要か?」と思い直しました。「トランプは派手だし、クレイジーな男だが、何も成し遂げていないじゃないか」と。トランプの環境問題、特に温暖化に対する姿勢や発言には、本作に登場するに値するインパクトだけはあるかもしれません。それでも、他の“何かしらを達成した人物”たちに比べると、トランプはまだ何も成していないと思います。その代わりと言ってはなんですが、予告編には彼を登場させています。


『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』特別映像(YouTube)https://youtu.be/UIVMHxgC2eU


――本作はSFではありますが、ディティールにこだわりすぎないところが魅力ではないかと思います。リアリズムとフィクションの線引きは、どう考えていますか?


ぼくがサイエンス・フィクションを撮るときは、「他の要素がリアルに根ざしていれば、不可能な要素を一つだけ入れても成立する」と考えています。例えば、光よりも速い移動速度で旅をするという不可能なことも、それ以外の細かな要素をリアルに描けば、映画の中では成立する。そこに“魔法”のような概念を加えてしまうと、これはSFとしては成立せず、ファンタジーになってしまうと思っています。『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』の場合は、地球空洞説が仮説として存在する一方で、ファンタジー的な要素として“ヴリルヤー”という超エネルギーを登場させています。これは、ぼくの中ではある程度の科学的根拠があるものですが、どちらかというと魔法的な要素ですね。なので、本作は『スター・ウォーズ』のような“主にSFで、少しファンタジー”な世界観の作品だと考えています。


――フィンランド産の携帯電話機“ノキア3310”が活躍するのも印象的でした。ただ、本作のノキア3310には、実際にはないはずのコンパス機能がついていますね。


そうなんです(笑)。ノキア社にコンタクトをとって、色々とお話も聞いたんですけど……撮影が終了したのが2015年後半で、ノキア3310が復刻されたのは2017年なので。


――ああ、その時点ではわからなかったわけですね。



製作チームの間では、「ロシア版ノキア3310には、コンパス機能があることにしよう」なんて冗談を言っていました。いや、本当にコンパスを入れるべきですよ!きっと、次世代のノキアには入っているはずです(笑)。


――ノキアにコンパス機能が復活することを祈っています(笑)。ちなみに、次回作『The Ark:An Iron Sky Story(原題)』はどんな映画になる予定なのでしょう?


秘密なのであまり話せないんですけど(笑)。


――そこをなんとか。


『The Ark』は中国とフィンランドの合作で、数年前からデベロップメント(企画開発)がスタートしました。ゆる~く『アイアン・スカイ』と関係していて、やはり陰謀論がベースになっています。ただ、これまでのシリーズとは大きく異なるタイプの映画になる予定です。公開時期は未定で、いまは編集中です。


――やっぱり陰謀論なんですね(笑)。アンディ・ガルシアさんが出演するというのは、本当ですか?


イエス!


『The Ark –An Iron Sky Story』プロモーションティーザー(YouTube)https://youtu.be/BfVIUPqVXv4


『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』は、7月12日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開。


取材・文=藤本 洋輔


映画『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』

(フィンランド・ドイツ・ベルギー/英語/カラー/デジタル/93分)

原題:Iron Sky : The Coming Race

監督:ティモ・ヴオレンソラ 

脚本:ダラン・マッソン、ティモ・ヴオレンソラ 

音楽:ライバッハ、トゥオマス・カンテリネン

出演:ララ・ロッシ、ウラジミル・ブラコフ、キット・デイル、トム・グリーン、ユリア・ディーツェ、ウド・キアほか

映倫指定:G

配給:ツイン 

宣伝:スキップ  

公式サイト:http://ironsky-gyakushu.jp/

(C)2019 Iron Sky Universe, 27 Fiims Production, Potemkino. All rights reserved.


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(執筆者: 藤本 洋輔) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


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情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 ナチス陰謀論を2度も映画化した理由とは?『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』ティモ・ヴオレンソラ監督インタビュー