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史上初の永世七冠を達成し、国民栄誉賞も受賞した「羽生善治竜王」や、最年少で七段に昇段した「藤井聡太七段」の活躍など、近年大きな盛り上がりを見せている将棋界。漫画や小説、映画化も活発で、今や将棋ファンだけでなく一般層の間でもブームを起こしています。
そんな中、またひとり将棋界のレジェンドが起こした奇跡の実話が映画化、今秋公開となることをご存じでしょうか? そのレジェンドとは、将棋界史上初・アマチュアからプロへと転向を果たした、瀬川晶司五段。彼の同名自伝的小説を原作に作られた映画『泣き虫しょったんの奇跡』は、夢を追う人または夢破れた人など、あらゆる人々に勇気を与える新たな感動実話映画となっています。
瀬川五段がレジェンドとされているのは、かつて将棋界への道を断たれるも、将棋への情熱と周囲の厚い支持により、プロ編入を果たしたことにあります。
そもそも将棋の世界でプロとして活動するためには、日本将棋連盟のプロ将棋棋士養成機関「新進棋士奨励会」、通称「奨励会」への入会が必要。試験は年に一回しかなく、これだけでも狭き門だが、大変なのは入会後。原則、満21歳までに初段、満26歳までに四段へ昇段しなければならず、これが果たせなければ強制的に退会、つまりプロ棋士になることはできないのだ! 年齢制限というタイムリミットに追われながら、限られた対局数を勝ち抜いていく。そのプレッシャーは、常人には計り知れないものがあります。瀬川五段も「羽生善治さんや藤井聡太くんのような天才は奨励会をすぐ抜けましたが、普通は5~10年かけてやっとプロになるかなれないか」と語るほど、プロ棋士になるのは大変なことなのです。
26歳までに四段昇段が叶わなかった瀬川氏は、「将棋以外何もできないのに、これから先の人生どうしようと絶望しました。人生終わったという気持ちでした」と語るほど、お先真っ暗に…。しかし新たな道を模索し始めた彼は、27歳で大学に入学。さらにプロとは関係ないアマチュア将棋を始め、プレッシャーのない面白さ、楽しさにあらためてのめり込んでいきます。やがてアマチュア名人戦の全国大会まで上り詰め見事優勝、「アマ名人」の称号を手にすることに。
その後も、企業に就職しシステムエンジニアとして働きながら、数々のアマ大会を制覇。プロ相手の公式戦でも、勝率7割以上と驚異的な強さを見せつけ、そんな瀬川氏の大躍進を目の当たりにした周囲は、前代未聞のプロ編入試験の話を持ち掛けます。奨励会から脱落した者はプロになれないのが、将棋界の鉄の掟。しかし、将棋への情熱を取り戻した瀬川氏は、大好きな将棋の世界にもう一度挑戦したいと再奮起。日本将棋連盟にプロ入り希望の嘆願書を提出し、周囲の協力もあってプロ編入試験を実現。見事勝利条件を満たし、ついに35歳サラリーマンにして史上初・奨励会を退会したアマからのプロ棋士誕生という偉業を達成したのです!
プロ入り後、瀬川五段は自らの半生を自伝的小説『泣き虫しょったんの奇跡』として発表し話題を集め、ついには映画化までされることに。メガホンを取ったのは、なんと自身もかつて奨励会に在籍していた経験を持つ豊田利晃監督。そして瀬川五段の役を演じるのは、今年、ちょうど彼がプロ棋士に編入した35歳を迎える、個性派俳優・松田龍平さん! なんとも運命めいたものを感じさせる製作陣が揃う形に。
かねてより松田さっmの映画は何本も見ていたという瀬川五段は、自身の役を松田が演じると聞いたとき「かっこよ過ぎるんじゃないかと思いましたね(笑)」と照れ笑い。最終的には、松田さんをはじめ野田洋次郎さん、永山絢斗さん、染谷将太さん、新井浩文さん、妻夫木聡さんといった豪華すぎる俳優陣について、「夢物語で話していたキャストのさらに上をいくキャスティングになったので、これもある意味奇跡だな」とコメントを残しています。
さらに瀬川五段は、映画の原作者というだけではなく、撮影にあたりキャスト陣への将棋指導も担当。撮影現場に何度も足を運び、将棋の駒の並べ方やしまい方を含め、プロと同じような作法を俳優たちへもレクチャーしたそう。「ルールは大体の方がご存じでしたが、演じるからにはすべての意味を分かっていた方が演じやすいと思ったので、プロと同じような作法で将棋自体を勉強してもらいました」と語る瀬川五段。指導によって著しく上達したキャストも多く、特に松田さんは最初とは段違いに強くなったのだとか。将棋を指す姿がとってもサマになっている松田さんの熱演は、ぜひスクリーンで確認を!
ちなみに、実は瀬川五段、映画本編にもこっそり(?)出演! 松田さんが喫茶店を訪れるシーンで、マスター役としてワンシーン登場しているので、映画公開時にはあわせてチェックしてみてくださいね。
アマからのプロ編入という歴史に残る偉業を達成した瀬川五段ですが、その特例っぷりについては誰よりも理解し、また周囲への深い感謝を忘れません。
「一般の方はよく知らない世界なので、強ければアマチュアからプロになってもいんじゃないの?って思われるかもしれませんが、これまでの将棋界ではあり得ないことでした。伝統を重んじる将棋連盟が理解を示してくださったのは、周りの方たちの応援あってこそ」
さらに瀬川五段は、夢を追い続けることの大切さについてこう語っています。
「原作を書いていた時から“諦めなければ夢は叶う”というのはひとつのテーマでした。一人で生きているつもりでも、実際はたくさんの人に支えられて生きている。それが僕のプロ入りにも繋がったと思うので、この映画を観て自分の周りにいる人を思い出すきっかけになれば嬉しく思います」
将棋界に本当に起きた感動のサクセスストーリーにして、夢に向かうすべての人の背中を押してくれる『泣き虫しょったんの奇跡』は9月7日全国公開。
(C)2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 (C)瀬川晶司/講談社