近年のビジネス環境は激変し、企業が生き残っていくためには、デジタル技術を積極的に導入することが不可欠となっています。

もはや現代ビジネスにおいては、DX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)を進めることは、避けては通れない喫緊の課題です。

しかし、予算やリソースが限られている中小企業の中には、「DXを実現することは難しい」と感じている企業も多いのではないでしょうか。

確かにビジネスモデルの変革を含めたDXによる新たな価値の創出という取り組みは、途方もない巨大なプロジェクトのように感じられることもあります。

しかし、DX推進とは何も一朝一夕で大きな変革を成し遂げなければならないわけではありません

今できる身近な部分から変化させるという小さなステップからでも、DXに取り組む意味は十分にあります。

例えば、今やビジネスマンであれば誰もが持っているであろうスマートフォンなどのモバイル端末とクラウドを組み合わせることだけでも、十分にDXの効果を実感できることもあるでしょう。

そこで今回は、前後編の2回に分けて、中小企業でも取り組みやすいモバイルとクラウドを有効活用した業務効率化について解説します。

前編では、モバイルとクラウドを組み合わせるメリットとそれによりDX推進を成功させる秘訣を、後編では具体的なアクションの参考になる既存ツールを使った導入案をご紹介します。

身近なところからDXを進めていきたいと考える中小企業の経営者様・担当者様は、ぜひ最後までご一読ください。

モバイルとクラウドがDXに必要な理由

かつてのビジネスシーンでは、デスクトップPCが当たり前でしたが、その後は必要に応じて持ち運びできるノートブックPCが主流となりました。

さらに今では、スマートフォンやタブレットをはじめとしたモバイル端末が、積極的に活用されるようになっています。

それと同時に、企業が使うシステムや情報の「置き場」も、自社内などに設置される「オンプレミスサーバー」から、どこからでもアクセス可能な「クラウドサーバー」へと移行してきました。

こうしたビジネス構造の変化を見てもわかる通り、現代のDX推進においてモバイルとクラウドを組み合わせて利用していくことは、もはや必須条件なのです。

モバイルとクラウドの組み合わせは、多くの中小企業がDXを進めていく中で直面するいくつかの課題の解決に役立ちます。

まずは、DX推進において中小企業が直面しやすい課題を確認しておきましょう。

DX推進において中小企業が直面する課題

中小企業がDXを進める際に直面する課題はいくつかありますが、ここでは、次の3つの課題に着目してご紹介します。

業務の効率化や自動化が進められない

1つには、「業務の効率化や自動化が進められないこと」があげられるでしょう。

これまで人が手作業で行っていた作業を、デジタルツールを利活用して自動化することが出来れば、業務効率化が図れるのは誰の目にも明らかです。

同様に、紙媒体でのやり取りを最小化して、オンラインで様々な申請や決済が可能になれば、物理的な距離に縛られずシームレスな連携が可能になります。

こうした明らかなメリットがあるにもかかわらず、多くの中小企業では従来の業務手順やシステムに縛られて効果的なツールの活用が妨げられてしまったり、慣れ親しんだやり方の変更に抵抗がある現場の反対などが障害となり、DXが進まないという現状があります。

さらには、新しいシステムやツールを導入してみたものの、上記のような現状を打破することができず、かえって人が行う作業量が増加してしまうというケースも少なくありません。

思ったように生産性が上がらず、競合他社との優位性を確保できない状況が続けば、DX推進の気運はたちまち削がれてしまうでしょう。

DX推進に取り組んでいるにもかかわらず、「業務効率化や自動化が進められない」という課題を乗り越えることが出来なければ、やがてDXプロジェクト事態が頓挫してしまうことすら考えられるのです。

DXに関する情報の共有やコミュニケーションが不足しやすい

社内でDXに関する情報の共有やコミュニケーションが不足しやすいことも、中小企業が抱える大きな課題の1つです。

この問題は組織規模にかかわらず起こりうることですが、特に中小企業において顕著にみられます。

実際に、DX推進に取り組む中小企業の中では、デジタル化によって一部の部門では業務のスピードが上がった反面、部門や拠点を越えた情報共有が追いつかず、情報漏洩やミスが発生するといった事象も多く報告されています。

また、社内での情報共有が十分に行われていないと、同じ仕事を複数の人が重複して行ってしまうなど非効率的な状況が起こる可能性もあるなど、場合によっては、余計な費用がかかり、せっかく行った効率化のための施策が無駄になってしまうでしょう。

ビジネスにおける情報共有やコミュニケーションの重要性は、今さら指摘するまでもないことですが、従業員ごとに意欲も理解度も異なるDXプロジェクトを進めていくには、これまで以上の注意と工夫が必要になるのです。

セキュリティに関するリスク

DX施策は、これまでにない利便性をもたらす一方で、これまで以上のセキュリティ対策を必要とする施策です。

例えば、自社内のオンプレミスサーバーに保存されたデータに、不正アクセスなどの攻撃を受けてしまえば、情報漏えいや貴重なデータの喪失など、重大なリスクを引き起こし、最悪の場合は、業務運営にも支障をきたす可能性があるのです。

潤沢な予算と経験豊富な人材を抱える大企業であっても頭を悩ませるセキュリティ対策。中小企業がDXに取り組むうえでは大きな課題の1つになることは、自明の理でしょう。

モバイルとクラウドを組み合わせるメリット

インターネット上に情報の置き場を作るクラウドと、どこにでも持ち運びができるモバイル端末。この2つの相性が抜群なことは直感的に理解しやすいでしょう。

一方で、これらを組み合わせることで、前述のようなDX推進において中小企業が直面する多くの課題を解決できると言われても、その理由がすぐに思いつく方は少ないと思われます。

続いては、モバイルとクラウドを組み合わせることで生まれるメリットについて詳しく解説します。

フレキシブルな働き方の実現

場所や時間の制約を受けにくく、いつでも必要な時に業務を行えるモバイルデバイスをビジネスに利用できるということは、モバイルとクラウドを組み合わせる最大のメリットです。

サーバーがある場所でしか作業ができなかったオンプレミス型とは異なり、クラウドにデータを保存しておけば、データへのアクセスも容易になり、インターネットに接続できる環境さえあれば、どこでもいつでも仕事ができる状況を整えることができます。

あらゆる業務を「いつでもどこからでも」行える体制とすることは、現代ビジネスに求められるフレキシブルで多様な働き方を実現するための重要なステップです。

こうした場所や時間にとらわれない働き方が可能になることで、不要な通勤時間や画一的な勤務時間に縛られることがなくなるため、ワークライフバランスの改善にも繋がるでしょう。

情報共有やコラボレーションが容易

クラウドの利点は単にアクセスが容易になるだけでなく、複数の人が同じデータに同時にアクセスして共同作業を行うことができる点にもあります。

この仕組みにモバイルが組み合わされば、事務所や現場など特定の場所にいない人も含めて複数人での情報共有も手軽になるのです。

離れた場所からでも、状況の正確な把握が可能になるため、例えば管理者が現場にいなくても遠隔から意思決定や指示出しを行うことができるなど、チーム内での連携がスムーズになります。

また、移動に伴う時間と費用の無駄を省くことにも繋がるでしょう。

情報共有が容易になるというメリットは、チーム内、社内の連携だけでなく、協業企業などとのコラボレーションの質とスピードを圧倒的に改善してくれます。

セキュリティの担保

クラウドにデータを保存することで、データのバックアップやセキュリティ対策が一元化され、情報漏えいやデータ紛失のリスクを低減することができます。

これらのセキュリティトラブルは、USBメモリの持ち運び時の紛失などのうっかりミスや、本来認められていない自社内データの持ち出しなど、ヒューマンエラーによって引き起こされるケースが少なくありません。

しかし、クラウド上に保存されたデータは物理的に持ち運ぶ必要はないため、移動時の紛失のリスクはなくなります。

また、モバイル接続時の二段認証などの対策をとっておくことで、故意・過失を問わず情報流出の危険性を最小限に留めることができるでしょう。

また、外部の攻撃対策としてもクラウドは有効です。

攻撃を想定して緊急事態に対応できるように定期的にバックアップを取ったり、常に最新のセキュリティ対策を取ることは重要ですが、中小企業の自社サーバーにおいては実質上難しいと言わざるを得ません。

この点も、セキュリティ機能が充実した大手のクラウドサーバーを利用することで多くの問題は解決できます。

コストの削減

これまで多くの企業が行ってきた紙ベースの資料や書類を利用する方法では、紙代や印刷費用、あるいは物理的な保管スペースの確保などに大きなコストがかかることが問題でした。

この問題も、モバイルとクラウドを利用することで改善できます。

さらに、物理的に保管していたファイルをデジタル化してインターネット(クラウド)上に保管することにより、古いデータにもすぐにアクセスできるようになるため、業務の質や効率の向上にも繋がるでしょう。

つまり、紙を管理する上でかかる物質的なコストに加えて、ファイルの保管・管理に伴う人的コストや、古いデータを探しだすために時間的コストなどが同時に削減できるのです。

モバイルとクラウドを活用したDX推進の注意点とリスク

中小企業がDXを推進するためには、モバイルとクラウドの活用が欠かせませんが、ただ闇雲に「導入」するだけでは、十分な成果をあげることはできません。

適切な活用方法を知り、求める成果に合わせた導入をすることが成功の鍵となります。

特に、モバイルとクラウドを組み合わせてDXを成功させるには、当然のごとく注意点やリスクについても知っておく必要があるでしょう。

セキュリティリスク

モバイルとクラウドを組み合わせることにより、セキュリティリスクを軽減できることは事実ですが、それでもリスクが全くないわけではない点には注意が必要です。

そのため、最低限DX推進チームのメンバーは、クラウドとの連携に必要なプログラミング技術やセキュリティ対策について、十分に理解していなければなりません。

その上で、セキュリティ問題に詳しくない人も含めて、データを取り扱う全ての従業員やステークホルダーに対して、セキュリティポリシーを徹底させるなどの対策が重要になります。

クラウドの負荷

クラウドサーバーを利用する際の通信速度やネットワークの安定性はモバイル端末の状況によって左右されてしまうという点も押さえておくべきです。

この点の対策が十分でないと、いざ使用したい時に通信が遅く使用できなかったり、そこまでいかなくともストレスがかかることが起こりえます。

これらの問題を解決するためには、モバイルアプリケーションの設計や開発において、通信量を最小限に抑える工夫が必要となるでしょう。

一方、モバイルアプリケーションとクラウドを組み合わせることで、クラウド側の負荷が増加する可能性もあります。

クラウドに負荷がかかりすぎると、サーバーの動作が遅くなったり、クラウド側のシステム障害が発生したりという可能性が常に付きまとうため、クラウドの機能については事前に十分に検討しておかなければなりません。

費用対効果の見積もり

加えて、モバイルアプリケーションのアップデートやバージョンアップの際も、クラウド側のシステムに影響を与える可能性があるため、クラウド側のシステムも適宜対応する必要があるでしょう。

中長期的な視点では、必要に応じてクラウドサービスのバージョンを上げたり、容量や機能のプランをアップグレードしたりといった対応が必要となる場合もあります。

こうした変数も含めて、初期費用だけでなくランニングコストの費用対効果を事前に見積もっておくことも重要です。

また、社員のトレーニングやシステムのカスタマイズなど、追加的なコストも発生する可能性があるため、余裕を持った予算計画は中小企業のモバイル×クラウド戦略では必須でしょう。

DX推進プロジェクトでは、こうした問題に対して、事前にしっかりと検討し十分な対策を講じることで、円滑な導入と運用を実現することができるのです。

まとめ~中小企業のDXはモバイルとクラウドの活用で勝つ!

中小企業がDXを推進するにあたり、モバイルとクラウドの活用は非常に有効です。

モバイルとクラウドを組み合わせることで、時間と場所の制約から解き放たれ、フレキシブルな働き方を実現することができます。

さらには、情報共有やコラボレーションも容易になり、セキュリティの担保やコストの削減にも繋がるでしょう。

ただし、当然のごとく導入には注意点やリスクもあり、セキュリティ問題やコスト問題を含め、ユーザーのトレーニングやシステムの安定性などに十分な配慮が必要です。

しかし、そうしたリスクを差し引いてもモバイルとクラウドの有効活用は、DXを進めていくための重要なスモールステップとなる施策であり、前向きに検討すべきでしょう。

実際に、国内の中小企業でもモバイルとクラウドを活用したDX成功事例はたくさんあります。

DXの成功のために大きな「絵」を描くことは重要ですが、最初から大きなプロジェクトだけにこだわっていては、思うように進まないこともあるはずです。

まずは誰もが手にしているモバイル端末の有効活用から、一歩一歩DX成功への階段を登ってみてください。

次回は、より具体的なアクションプランを描くことを後押しする、実際の業務効率化に役立つツールの活用方法をご紹介してまいります。

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情報提供元: DXportal
記事名:「 【中小企業のDX】モバイル×クラウドの業務効率化<前編>成功の秘訣とは?