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先月開催された同社の年次総会「F8」では、VR・ARに関して市場に大きく影響を与える発表が多数披露された。
ARに関する発表は、以下のように要約できる。
(同プラットフォームの詳細は、本メディア記事「Facebook、ARカメラプラットフォーム「Camera Effects Platform」をリリース」を参照)
新造語「ライトAR」とは、スマホを活用した現在体験可能なARのことを意味している。対して「フルAR」とは、Hololensのような専用のARデバイスを活用した現在のAR体験よりリッチなそれを指している。
同社の発表によれば、フルARが普及するのは20〜30年後と予想される。フルARにおいては、ARデバイスを使って、現在のVRヘッドセットによるバーチャル体験がリアルな世界にいながら体験できるので、現在のVRとARの区別はもはや意味をなさなくなる、とのこと。
同イベントにおけるARに関する発表で最も注目すべきは、ライトARとフルARの区別の提示である。
この区別の提示には、ふたつの意味が込められている。ひとつは、フルARというアイデアを披露することによって、同社が20〜30年先の未来を見据えていることを市場にアピールすることだ。
もうひとつの意味は、フルARと対比してライトARはユーザーの手の届くところにあるとアピールして、同社が描くAR戦略にユーザーを巻き込むことだ。
同社のARビジネスにユーザーを巻き込む「仕掛け」も、抜かりなく用意されていた。ARカメラプラットフォーム「Camera Effects Platform」が画期的なところは、アプリやプロダクトではなくプラットフォームとしてリリースされたところにある。
世界中の開発者やクリエイターが同プラットフォームを使って、数多のカメラアプリが間もなくリリースされるだろう。こうしたカメラアプリにユーザーが親しんでいるうちに、「ARと言えばFacebook」というブランド性が確立されるだろう。
そして、ライトARの先には、もはやVRとARの区別が無意味となるフルARの未来が同社によって提供されるとなると、ユーザーはFacebookから離れられなくなるだろう。
同イベントにおけるVRに関する発表は、何と言っても「Facebook Spaces」のリリースにつきる。
同アプリの詳細に関しては、本メディア記事「Oculus対応アプリ「Facebook Spaces」は今体験できる最高のVRソーシャルアプリだ」を参照。
「Facebook Spaces」は、実のところ、唯一無二なアプリというわけではない。VRソーシャルアプリは、すでに多数リリースされているのだ。
「Facebook Spaces」の注目すべき点は、「Oculus Spaces」とネーミングしなかったことにある。つまり、アプリを使うためのVRヘッドセット「Oculus Rift」ではなく、ソーシャルメディア企業である「Facebook」を強調したのだ。
周知の通り、Oculus社はFacebook傘下の企業である。それゆえ、「Oculus Spaces」とネーミングしても何の問題もない。にもかかわらず「Facebook Spaces」と命名したのはなぜか。その理由は、同アプリが現時点ではハードコアなゲーマーが主な消費者となっているOculusユーザーではなく、まだVRを使ったソーシャル体験の存在にすら気付いていない一般的なFacebookユーザーを意識したから、と推測されるのである。
以上のような推測の傍証として、同アプリに実装されたMessanger機能を挙げることができる。同機能は、Oculus Riftを持っていないユーザーに対して電話をすると、電話をうけたユーザーとビデオ通話できるものだ。同機能は、Oculus Riftユーザーのみを消費者と想定していたら、不要なものである。
同機能が実装されている理由を考えてみると、同アプリの新のメインターゲットが(Oculus Riftユーザーより圧倒的に多い)Facebookユーザーであることが明るみになるのだ。
同イベントでは、同社が開発した360°カメラ「x24」とその廉価版「x6」も発表された。
これらのカメラの最大の特徴は、「ボリュメティック」機能を実装していることである。同機能は、ユーザーの頭の回転だけではなく、頭の位置移動にも連動して画像が変化するものである。
既存の360°カメラでは、カメラを固定した位置がちょうど座標軸の原点となり、その原点からの周囲360°が撮影範囲となる。このとき、原点以外の位置からの撮影は不可能である。その結果として、360°動画を視聴するユーザーはこの原点からしか動画を見ることができない。
対して「ボリュメティック」機能を実装した360°カメラでは、撮影した範囲であれば「カメラ原点の移動」をも許容するのだ。同機能を実装したカメラを使えば、ユーザーはリアルな世界を撮影した360°動画であっても、ゲームエンジンで描画したような「ルームスケール」な体験が可能となる。
「ボリュメティック」機能は、360°カメラの存在を知っているユーザーにとってさえも、馴染みの薄いものである。事実、同社が発表したカメラ以外で同機能を実装しているのは、本メディアで以前に報じたLytro社のライトフィールドカメラくらいだ。
しかしながら、今後同社が「ボリュメティック」機能をフル活用した360°コンテンツを発表し続ければ、同機能の知名度が急速にあがるであろうことは想像に難くない。さらに言えば、ボリュメティック・カメラの方が、既存の360°カメラより360°動画の魅力を適切に伝えることができる。
F82017を総括すると、FacebookはVR・AR市場において、もはやアプリメーカーあるいはプロダクトメーカーを目指してはなく、プラットフォーマーを志向していることが鮮明となった、と言える。
2017年Facebook年次総会「F8」の市場への影響を分析したVRScoutの記事
https://vrscout.com/news/f8-2017-adoption-immersive-technologies/
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