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360°動画撮影の「民主化」を論じた1回目の記事「【海外連載コラム】アメリカ360°動画産業の過去・現在・未来(1)〜撮影技術編〜 」は、こちら。
1回目のコラム記事で論じたように、近年になって360°動画制作環境のコスト面が改善されて、360°動画を作ることが手の届くプロジェクトとなった。その当然の結果として起こったことが、360°動画制作スタジオの乱立である。同氏によると、3年前には360°動画制作スタジオは5社程度だった。それが今や500社ほどに増えたのだ。
しかし、現在アメリカの360°動画制作スタジオは曲がり角に来ている。消滅するスタジオが急速に増えているのだ。
360°動画制作スタジオの淘汰が起こっている理由は、大別してふたつある。ひとつがアメリカ動画制作者の雇用事情、もうひとつが大手メディア企業の進出である。まずはひとつめの理由から解説する。
急速にその数を増やしたアメリカの360°動画制作スタジオを支えていたのは、スタジオが直接雇用したクリエイターではなく、プロジェクト毎に契約するフリーランスのクリエイターなのだ。フリーランスのクリエイターは、その立場上、契約した制作スタジオの将来性や経営方針といったものにはあまり関心がなく、契約金の価格こそがプロジェクト参加の決め手となる。
それゆえ、フリーランス・クリエイターが支えるアメリカ360°動画の制作現場では、高い契約金を払えないスタジオはもはや動画制作ができなくなって来ている。制作が継続できなくなったスタジオは、倒産するか資本力のあるスタジオに統合されることとなる。
もうひとつの理由である大手メディア企業の進出には、さらにふたつの観点から解説できる。
本メディアでも過去に報じたように、今やワーナーブラザーズやNew York Timesといった大手メディア企業が360°動画制作に乗り出している。
こうした大手企業は、制作をさらに360°動画スタジオに依頼するのではなく、直接フリーランス・クリエイターと契約して自社制作するのだ。
資本力において大手メディア企業と新興の360°動画スタジオでは雲泥の差がある。そうなると、大手メディア企業が企画するプロジェクトに多数のフリーランス・クリエイターが集まり、新興スタジオの制作現場は閑古鳥が鳴くこととなった。
さらに近年、大手メディア企業は360°動画への多額の投資に躊躇しなくなっている。
大手メディア企業が多額の投資を躊躇わなくなった理由は、やはり(伝統的動画制作のような)360°動画制作以外の分野で安定的な収益が期待できるからであろう。
以上のような大手メディア企業の強気な360°動画制作戦略に関して、いつまで続くかを予測することは難しい。しかしながら、アメリカ360°動画制作現場では、大手メディア企業への一極集中が急速に進んでいるのだ。
360°動画制作現場の大手メディアへの一極集中が進んだ結果、現場がどのようになったかNew York Timesが制作した中編サスペンス360°動画「Great Performers L.A. Noir」を例に見てみよう。
同作品は360°動画としては15分という長尺のため、50名以上のクリエイターが参加する大きな予算がかけられたものだ。製作期間は6ヶ月に及んだのだが、その全行程に参加したクリエイターはわずか2名だ。そのほかのクリエイターは、必要とされた期間だけプロジェクトに参加していた。
それでは、同作品に参加していない時は他の360°動画プロジェクトに関わっているかというと、そうではないのだ。大手メディアへの一極集中が進んだ結果、360°動画の制作本数が減って来ており、クリエイターは360°動画制作だけでは仕事がとれなくなっているのだ。
最近、Armando Kirwin氏は制作スタジオやクリエイターから「VRの冬」「VRバブルの崩壊」という言葉をよく耳にすると言う。現在のアメリカ360°動画制作市場では、明らかに供給(クリエイター)が需要(制作本数)を上回っている思わしくない状況なのだ。
以上のような状況は、簡単には解消されないだろう。解決策があるとすれば、大手メディア企業が長編360°映画の制作に乗り出すことくらいではなかろうか。長編360°映画の制作には、前例のないほど多数のクリエイターが必要になるだろうから。
Armando Kirwin氏によるアメリカ360°動画産業に起こった構造変化を論じているRoadtoVRの記事
http://www.roadtovr.com/360-film-industry-midst-reboot-part-2-workforce/
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