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ディズニーは、ディズニーランドのアトラクションにVRを採用しない(ARは採用の可能性あり)という方針を打ち出している。一方で、ナッツベリー・ファームは2017年の春に常設のアトラクションとしてVRシューターを設置した。常設の本格的なVRアトラクションは、アメリカのテーマパークで初めての試みだ。
期間限定のものを含めるならば、他にも多くのテーマパークがVRを取り入れたアトラクションを用意してゲストにアピールしている。
The Orange County RegisterがVRや他の方法を使って没入感を高める各テーマパークの試みを紹介している。
各業界の人々が集まる会合のようなイベントはどの業界にもあるものだ。それはテーマパーク事業も例外ではない。
2017年の4月、ディズニーランド・ホテルのコンベンションセンターでThemed Entertainment Associationサミット2017(TEA 2017)が開催された。
TEAにはテーマパークのデザインに関わる人々が参加し、その年のトレンドを検討する場となっている。ときには、ここで密かにビジネスが進められることもあるようだ。
それぞれが携わる施設やアトラクションへの集客においてはライバル同士となる彼らだが、TEAは彼らが交流するための中立的な場所である。
2017年のTEAに参加したデザイナーたちの流行語となっているキーワードが三つある。
没入感、インタラクティブ性、そしてVRだ。
2016年に多くのテーマパークが取り入れたのが、ジェットコースターのようなライド系のアトラクションとVRを組み合わせるアイデアだ。この方法は、既存のライドとモバイルVRヘッドセットを使用するので低コストで実現できる。
ヘッドセットによって前が見えない状態になることで、乗客はライドがどのように動くかを予想できなくなる。一般的なジェットコースターであってもこれまでにないスリルのある体験を提供できるのが特徴だ。
新しいアトラクションを作るよりも低コストなので、規模が小さくて体力のない施設でも取り入れられるのが施設側にとっての魅力だ。こうしたアトラクションに特別なインタラクティブ性はないが、VRの映像と音声に合わせて身体を動かされる。それだけでも非常に没入感の高い経験が可能だ。
VRライドアトラクションを手がけるMack Ridesは、ドイツのEuropa Parkを始めとして世界29のテーマパークでライドとVRを組み合わせたアトラクションを提供している。
Mack RidesのMichael Mackは、次の段階についても考えているようだ。現在のアトラクションはVR映像を見ながらライドに乗るだけだが、次は他の乗客とのインタラクトがポイントになるという。
VRを取り入れる代わりに、インタラクティブ性を重視して「遊べる」要素をアトラクションに取り入れている施設もある。ラスベガスのウェット&ワイルドでは、ウォータースライダーとシューティングゲームの組み合わせが人気となっている。
このウォータースライダーでは、防水コントローラーが用意されている。下っていくチューブの途中には色が付けられており、その色に合わせたボタンを押して得点を競うのだ。正確に・素早くボタンを押すことで、より高いスコアを獲得できる。
このシステムを開発したDenise Chapman Westonは、息子の意見が開発のきっかけだったという。彼女は息子がウォーターパークに飽きてしまったというのを聞いて、新しいアトラクションを考案した。
このアトラクションでは、自分自身のハイスコアに挑戦したり、レベルを選んで他の来園者とランキング上位を争ったりといった従来のウォーターパークにはない遊び方が可能となっている。
当日やシーズン毎といった単位で集計されており、園内のディスプレイでライドに乗った回数やスコアを確認できるようだ。Westonとともにシステムを構築したWhitewaterのマーケティング・ディレクターは、このシステムがリピート訪問の理由になるという。
これまでも、陸上の遊園地にはシューティングゲームの要素を持つライドがあった。しかし、プールには水という障害があって機械を導入しにくい。本格的にこうしたシステムを採用したのは、この施設が初めてだろう。
ウェット&ワイルドでは、アトラクションを実現するために防水仕様のコントローラーを採用している。プールは、当初想定されていたコントローラーの利用環境から外れていると言えるだろう。
現在のVRデバイスは水に濡れる環境での使用を想定していないが、水中でVRを使う研究も行われている。将来的には防水VR/ARデバイスが開発され、こうした施設でも利用されるようになるかもしれない。
VRのような最新の技術を使う以外の方法で、来園者をテーマパークの世界に没入させる取り組みをしている施設もある。フランスのテーマパーク「ピュイ・デュ・フォー(Puy de Fou)」では、本物の馬や火薬を使ったショー、生身のスタッフが村人を演じる村の様子によって過去の世界を作り上げている。
ショーでは、剣闘士や騎士による迫力ある戦闘が展開される。これがパークの目玉アトラクションだ。
パーク内は複数のエリア毎に時代の異なる村を再現しており、18世紀、8世紀、5世紀のフランスがそれぞれのテーマとなっている。また、パークのホテルもこうした時代の様式に則って作られている。
この工夫により、来園者はホテルの部屋でもその時代の雰囲気を感じることができるのだ。
ピュイ・デュ・フォーのスタイルはテーマパークの基本形の一つであり、その先にディズニーランドやユニバーサル・スタジオのような特に規模の大きなテーマパークが存在する。パーク内で建造物、小道具、そしてスタッフが作り上げるのはある種のバーチャル・リアリティにほかならない。
ピュイ・デュ・フォーはVRのような技術を利用していないが、観光地にVR映像が見られるマシンを設置したTimescopeの例もある。上手く技術を取り入れれば、園内のイメージを壊すことなくより深い体験が可能になりそうだ。
初めての「ビデオゲームを作るために生まれた企業」として有名なアタリの創業者、Nolan Bushnellは消費者が求めるものの性質が大きく変わっていることを指摘する。
「『物』から『経験』へと消費者が購入するものに大きな変化が起きています」
現在の消費者が求めているのは、単なる「物」ではなく「経験」なのだという。高性能な家電やきらびやかな宝飾品よりも、旅行や体験イベントが人気となっているのも、この変化の一旦と言えるだろう。
Bushnellは例として夕食を挙げる。
彼らが夕食のためにレストランを訪れる場合、お腹が膨れるだけでは足りないのだ。求めているのは食べ物ではなく(もちろんおいしい料理が出てくることは最低条件だが)、楽しい夕食という経験なのである。
パーク内のレストランや売店が作品中に登場する店を模していたり、キャラクターの顔が描かれたケーキを販売していたりするのも食事を楽しい経験にするための努力だ。テーマパークのデザイナーたちは、施設を設計するにあたって飲食店のデザインに時間をかけているという。
テーマパークのデザインもVRゲームのデザインも、ユーザに楽しんでもらうという目的は同じだ。Bushnellの指摘はエンターテイメントという枠の中でVR業界にも応用できるだろう。
過去にユーザが求めたのは、VRで言えば解像度や反応速度といったスペックの充実だった。だが、現在のユーザは数字よりも体験の質を求めていると思われる。
爽快感があったり感動できたりといったフィーリングの部分を満足させることができれば、多くのユーザがVR体験を楽しいと感じてくれるはずだ。
ユーザが「別のゲームも買ってみよう」と継続的にコンテンツを購入するリピーターになったり、「友達にも遊ばせてあげよう」と口コミで紹介したりすればテーマパーク業界のようにVR業界も成長していけるだろう。
参照元サイト名:The Orange County Register
URL:http://www.ocregister.com/2017/05/01/disneyland-and-other-theme-parks-go-all-in-with-immersion-interactive-experiences/
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