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「退屈なスポーツジムでの運動にVRを取り入れて、楽しみながら運動をする」というアイデアは、さほど珍しいものではない。
以前VRInsideでも紹介した「The Trip」のように既存のマシンによるワークアウトとVR映像を組み合わせたり、VR映像を利用することを前提に設計されたオリジナルのフィットネスマシン「Icaros」だったりと、今までにないワークアウトが登場している。
こうしたマシンを実際に利用できる施設も登場しているが、その数はまだまだ少ないのが実情だ。こういった最新設備を取り入れたジムでは、本当に成果が挙がっているのだろうか?
Bloomberg Technologyに、こうしたVR×フィットネスに携わる人々の意見が掲載されている。
Icarosを開発したミュンヘンのスタートアップ企業、Icaros GmbHのJohannes Schollは、VRが運動に対するユーザのモチベーションを維持する役に立つと確信している。
同社のIcarosは、ユーザの体幹を鍛えるコアトレーニングを行うためのマシンであり、VRへの没入感を高めるマシンでもある。
最初に用意されていた『Icaros Flight』では空、次の『Icaros Deep』では深海、最新作の『Icaros Gravity』では宇宙空間がVRの舞台となっている。空や宇宙を飛んだり、深海でのダイビングをしたりする経験を楽しみながら体幹を鍛える運動を実現する。
Icaros本体は商業施設向けの製品であり、送料なども含めると10,000ドル程度(約100万円)の費用がかかる。それでも、ロンドンから東京まで、200施設のジムやエンターテイメント施設がこのマシンを導入した。
Icaros GmbHは家庭用の廉価版の開発にも取り組んでおり、来年の初めにも登場の可能性があるようだ。そちらの価格はおおよそ2,000ドル(22万円)となっており、個人での購入も現実的になってくる。
フィットネス業界では、何十年も前から運動への「飽き」との戦いが行われてきた。トレッドミルにテレビを取り付けたり、スマートフォンのアプリによってスケジュール通りに運動するように通知が送られたりといった工夫が行われているが、いまだにワークアウトの単調さを吹き飛ばすには至っていない。
そうした要素は無いよりマシだが、それでも運動を長く続けられない人は多い。その原因の多くは「退屈」「面倒くさい」「効果が見えないのでやる気が出ない」といった理由だ。
Schollは、VRの持つ没入感の強さとテレビゲームの持つ中毒性のコンビネーションがその解決策になると考えている。
もちろん、そうした考えを持っているのはSchollだけではない。
マサチューセッツ州ケンブリッジのVirZOOMは、サイクルマシンとVRを組み合わせてユーザを飽きさせないようにしている。同社のコンテンツで、ユーザはペガサス、ボート、F1マシン、武装ヘリコプター、戦車といったものを操縦する体験が可能だ。
単に風景が流れていくだけではなく、F1マシンでレースをしたり、ヘリコプターから地上の砲台を爆撃したりといった要素が用意されている。こうしたゲーム性の存在は、繰り返し運動するモチベーションになるはずだ。
ヘルシンキのスタートアップが開発したAugmented Climbing Wallは、日本でも体験できる場所が増えてきたボルダリングとAR技術との融合だ。光によって使う突起を指示されるシンプルなクライミングのサポート機能だけでなく、触ってはいけない場所を避けながら登るモード、二人が並んでボールを押し付け合う対戦モード(上の動画)なども用意されている。
家庭用のVRプラットフォームでも、ボクシングやアーチェリーといったスポーツをモチーフとした作品で上半身を鍛えることは十分可能だ。
VRやARのような技術によって、本当に運動する人は増えているのだろうか。Schollのように肯定的な人々は、ポケモンGOの例を挙げる。
ポケモンGOはウォーキングを促進するためのゲームではないが、結果的に多くのポケモントレーナーが街や公園を歩き回ることになった。スタンフォード大学とマイクロソフトが行った研究によると、特に熱心なプレイヤーは通常より25%も多く歩くようになったという。
日本の個人レベルであれば、通常の100%以上に歩いたユーザも居るのではないだろうか。ポケモンGOの効果はそれほどまでに大きかった。
だが、中にはこうした技術の効果に懐疑的な意見もある。ブリスベンのクイーンズランド工科大学で運動と栄養学を研究するRemco Polmanは、懐疑的な意見を唱える一人だ。
Polmanは、水中で使えるイヤホンや、自動的に靴紐を調節してくれるスポーツシューズといった機器の例を挙げた。こうしたガジェットは、運動を楽しく、便利にしてくれそうだ。だが、これらが水泳や陸上競技の人口を増やしたという話は聞かない。
Polmanは、こうした技術を利用しているのが既に運動している人だと指摘する。今まで運動しなかった人が運動を始めるのではなく、普段からエクササイズに取り組んでいる人が利用するというのだ。
運動のゲーミフィケーションで脳を騙すのではなく、アウトドアを趣味にするなどの方法で運動そのものを楽しむべきだと彼は主張する。
「外的な動機づけの問題点は、報酬がある限りモチベーションが維持されるという点です。
もし全てのポケモンを集めたら、運動を続ける理由がなくなってしまうのではないでしょうか」
VRでの運動に可能性を感じているSchollも、Icarosで伝統的なスポーツの代替ができると考えているわけではない。
「私は、スノーボードやロードバイクが大好きです。しかし、それをVRではなく外で楽しみたいと考えています。
VRでは、ずっと夢に見ていた、現実ではできないようなことを実現したいと思います」
スノーボードのようなスポーツは、季節や天候によってできないときもある。Icarosでのトレーニングはその代わりにはならなくても、本番に向けて筋肉を鍛えたり、バランス感覚を維持したりといったサポートの役割を果たすことができるだろう。
ペガサスに乗る経験は、実際の乗馬とはまた違った楽しみがあるはずだ。それでユーザのモチベーションが維持できるなら、VRはワークアウトの役に立っていると言える。
SchollはIcarosの家庭用バージョンだけでなく、ジムでの使用を前提とした第2世代の開発にも取り組んでいるという。そのマシンは、動物のような動きを通して心肺機能や筋肉をより強く鍛えるものになるようだ。
東京のThe Body Rideジムは、Icarosを導入したジムの一つだ。Icarosの導入でウェブ、雑誌、新聞、テレビといったメディアが多数取材に訪れたようだ。それだけVRを利用したフィットネスへの期待は大きいということだろう。
だが、現在では多くのメンバーがIcarosのFlightとDeepに飽きてしまい、月に1回か2回しかマシンを使わなくなっているという。Icarosの購入をジムに頼んだトレーナーは、新しいソフトウェアの登場に期待している。それはおそらくジムの利用者も同じだろう。
彼は、それ自体が楽しいものではない運動もIcarosによって違うものになるという。
もちろん、理想は運動そのものを楽しむことだ。しかし、普段全く運動をしない現代人がいきなり楽しめるような種目は多くないのではないだろうか。
まずは身体を動かす習慣を付けるためのとっかかりとして、目新しいVRゲームができるマシンを使うというのは一つの方法だ。
The Body Rideジムでは多くの会員がIcarosに飽きてしまっているというが、それはコンテンツの少なさに加えて負荷の小ささも理由かもしれない。
ワークアウトに慣れると人はさらに強い刺激を求めてしまうもの。以前からジムに通っている会員には物足りなかったのではないだろうか。
Icarosには、公式が開発した新コンテンツに加えて外部の開発者向けサービスも追加が予定されている。サードパーティ製のコンテンツが作成されるようになれば、コンテンツの数は増加していくだろう。
また、第2世代では現行モデルよりもハードなトレーニングを期待できそうだ。今度は、ワークアウトに慣れたビルダーたちも満足できるかもしれない。
参照元サイト名:Bloomberg Technology
URL:https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-04-25/virtual-reality-hits-the-gym-will-it-make-working-out-more-fun?cmpid=socialflow-twitter-business
参照元サイト名:Augmented Climbing Wall
URL:http://augmentedclimbing.com/
参照元サイト名:The Body Ride
URL:https://thebodyride.com/
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