UploadVRに、VRの発展と映画の発展を比べた記事が掲載された。長文のため、主な流れのみを紹介する。


1895年12月、パリの舞台芸術家だったジョルジュ・メリエスは新技術のとりことなった。静止画や動画を映し出すキネマトグラフである。この装置は彼の創造力に火を点けたが、発明者であるリュミエールはそれを彼に売ることを断った。そのため、メリエスは一年をかけて独自のカメラを設計・製造した。彼は独自に映画の技術を磨いた。その後スタジオを設立し、プロダクションチームを組織して俳優を募集した。彼らは創造性に満ちており、500を超える短編映画を制作した。その中で何ダースもの映像テクニックが発見された。そこで作られたのは単なる「壁に映された演劇」以上のものであり、全く新しい制約と能力を持つ新しいメディアだった。


現在VR映像を制作している人々は、ちょうどメリエスのような立場にいる。かつて映画を作成した人々と同様に、新しいメディアの技術的制約の中で作業せざるを得ない。VRの作品を作るためには独自のツールを構築する必要が頻繁にある。


箱の中での制作



現代では、映画制作に使われるテクニックが豊富に用意されている。それらは、初期の映画製作者が限界に苦しみながら産み出したものだ。カット、クロスカット、ディゾルブといった技術は映画の登場から数年で見出された。他の技術は10年以上が経ってから発見されたものである。


まだ揺籃期であるVRにおいても、使えるテクニックは限られている。シーンが一つしか用意されていないのは、メリエスが初期にぶつかった壁と同じである。




映画ではクローズアップ、パン、ズームを利用して視聴者の注意を引き付けることができる。しかし、VRではこれらの手法はほとんど利用できない。強制的にカメラを動かすと、視聴者を不快にさせて吐き気すら起こしてしまうかもしれないからだ。VRにおいては、これまでのところ光、音、動きによって視線を誘導するテクニックを使っている。


重要なイベントが起きるときに視聴者が異なる方向を見ている場合は、それが視界に入るまでイベントを継続させるという手法もある。あるいは、視聴者が見ている方にイベントを発生させるという方法も考えられる。映画では不可能なインタラクティブな方法も試みられている。いくつかのイベントが同時に発生し、見ている側が注目するイベントを選ぶのである。この場合、一方的なストーリーテリングではなく、双方向性を持った作品となる。


物語作品では、こういった手法が試されている。一方でゲームデザイナーは編集における問題にも取り組む必要がある。Gunfire GamesとOculus Studiosが共同制作した『Chronos』ではこれまでのゲームにおけるカメラワークの常識を破るテクニックが使われている。



映画では、あるカットから別のカットに移るときに俳優が向きを変えてしまうと、カット間の繋がりが失われてしまう。しかし、『Chronos』でプレイヤーキャラクターが部屋を移動するときには、プレイヤーの視点が元の部屋から次の部屋へとジャンプすることになる。そのため、プレイヤーキャラクターが逆方向を向くことになる。しかし、VRにおいてこの「逆転」は悪影響をもたらすことがない。



パレットを広げる


初期の映画製作者は、演劇から映画へと様々な表現を進化させた。それだけでなく、演劇で不可能なことも映画では可能となる。ロケーション撮影は、映画の製作者が世界を舞台にすることができるようにしてくれる。クローズアップすれば、舞台よりも観客を近くに連れて行くことができる。クロスカッティングは、複数の場所で同時にストーリーを展開させることができる。他にも舞台では不可能なカメラワークがある。


VRは、映画の可能性を超えていく。100年以上前の映画がスタジオの縛りやコンベンションに惑わされることなく進歩していったのと同様に、VRも芸術的な自由と技術の進歩の段階にある。



Penrose Studiosは視聴者が場面の中を移動できるようにするだけではなく、物語を追うために自発的にそうするように促すことに挑戦している。Penroseの最初の作品は、5分間の『The Rose &I』である。この作品の主役は、視聴者の目の前に浮かぶ小さな惑星に住んでいる。次のシーンで主役は遠くに連れて行かれてしまうため、物語を追うためにプレイヤーは彼を追いかける必要がある。このスタジオの次の作品は20分の『Allumette』である。これはVR映画としては最長の部類である。


1980年代の最初の映画は、数秒の長さしかなかった。その数年後には、12分の『The Great Train Robbery』が制作された。そして、製作者は長編映画が受け入れられることを理解した。VRで作る作品がどのくらいの長さであるべきかは議論されている問題だ。今、それを理解するために進んでいるといえる。



その先へ


VRでストーリーテリングを行う製作者のほとんどは、VRというメディアがまだジョルジュ・メリエスの時代と同じ段階にあることを理解している。 最初のOculus Connectではリュミエール兄弟の『Arrival of a Train at La Ciotat』がパネルで示された。そしておそらくは意識的に、D. W. グリフィス『Intolerance』(1916年)で使われたバビロンを模したフルスケールのレプリカがあるホテルでConnectは開催された。


これは『The Story of the Kelly Gang』よりも10年後に、技術がより成熟してから作られた作品である。VRはまだVRにおける『Citizen Kane』を作るまでには至っていない。しかし、リュミエールやメリエスのような人々が精力的に努力を続けている。彼らそれぞれが、自分自身『Trip to the Moon』を作るような発見の喜びを見出すことになるだろう。


参照元サイト名:uploadvr

URL:http://uploadvr.com/vr-industry-silent-film/


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情報提供元: VR Inside
記事名:「 無声映画の時代に現代のVRを見る