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博物館や美術館に展示される品物は歴史のあるものが多く、数十年から百年前の美術品というのは珍しくない。展示のテーマによっては、千年以上前に使われていた道具や何万年も前に生きていた生物の痕跡を展示する施設もある。そのため、展示される品物自体がここ数年で変わるようなことは起きていない。
だが、そうした収蔵品を来館者に見せる展示の仕方はテクノロジーの進歩によって大きな変革を遂げつつある。ただ展示物を並べるだけではなく、より来館者の興味を引きつけるため、あるいは展示される作品の背景や作者の情報を伝えるために最新のテクノロジーが利用されている。
多くの博物館や美術館が来館者を楽しませるためにVRやARのような技術を活用しており、実際にその効果が出ているようだ。
これはアメリカでの数字だが、アメリカ博物館協会によるとアメリカにある博物館には毎年8億5千万人が訪れるという。これはメジャーリーグ全試合の観客動員数とテーマパークの来場者数を合わせたもの(2011年のデータで4億8千3百万人)よりもはるかに多い。
その規模の大きさゆえに経済への影響力も大きい。40万人を越える雇用を生み出し、毎年210億ドル(2.4兆円)の経済効果をアメリカにもたらしているという。
しかも、この数字は直接的なものだけだ。博物館を訪問する来館者による間接的な出費(彼らは交通機関を利用し、飲食店で食事をする)を加味すれば、博物館にはさらに何十億ドルもの経済効果がある。
この訪問者の多さを支えている要素の一つが、スマートフォン用に作られたアプリケーションだ。アプリの高画質映像で展示品の一部を見られるものや、館内で利用できるARアプリなどが開発されている。
アプリだけでなく、最近ではオンラインで提供される絵画や蔵書などのデータへのアクセス者も非常に多いという。オンラインで博物館を訪れるユーザは毎年増加しており、5億6千8百人にもなる。
日本はアメリカに比べると博物館の数や施設あたりの規模が小さいので影響力も小さくなっているはずだが、テクノロジーの活用法を真似ることで来館者を増やすことも可能かもしれない。
伝統的な芸術と最新のITとの融合はあまり相性が良いようには思えないかもしれない。絵画や彫刻といった芸術作品は一点ものであり、デジタルデータと違ってコピーできないからこそ価値を維持できる面がある。
VRアートの市場では、海賊版の不安が付いて回る。アナログなアートのように高い価格を付けるのではなくCDやゲームソフトのように手に取りやすい価格帯でVRアートが広まっていく可能性もあるが、先行きは不透明なままだ。
だが、美術館に並ぶような作品に関して言えばテクノロジーによって人々が芸術作品を鑑賞しなくなることはないようだ。
むしろ、パソコンやiPadのようなデバイスが芸術の分野で使用されるようになって美術館を訪れる人を増やすと語る専門家もいる。こうしたデバイスは来館者が作品と関わる全く新しい形を作り出しており、これまで一度も美術館を訪れたことがないようなユーザが美術館を訪れるきっかけとなっているという。
最近のカメラは非常に解像度の高い画像を撮影できるようになっており、収蔵作品の高画質な画像データをインターネット上で無料公開している美術館もある。こうしたサービスを活用すれば、直接美術館を訪れ、入館料を支払わなくても世界中の貴重な芸術作品をディスプレイで鑑賞可能だ。
もちろんこういったサービスを利用するユーザも多いが、彼らの多くは「スマートフォンで見たから本物を見る必要がない」とは考えないらしい。彼らは、より記憶に残る直接的な体験を求めて美術館を訪れる。
Artsy(世界最大の芸術作品のオンラインコレクション)の創設者でCEOでもあるCarter Clevelandは、この違いは「デートとオンラインデートの違い」のようなものだとCNBCに対して語っている。
オンラインで出会った相手と気が合えば、今度は実際に会って話してみたいと思うのが自然だ。芸術作品との出会いも同様で、画像を見て気になった作品があれば美術館に行って実物を見ることができる。
美術館を訪れる人の中には、芸術そのものが好きでたまらないという人もいるはずだ。彼らは最新のテクノロジーなど使わなくても美術館を訪れるだろう。だが、そうした人は全体の中で見れば少数派である。
多くの来館者は、家族との時間を過ごすために美術館を利用したり、トレンドを追いかけて企画展を覗きに来る。こうした人々にアプローチするための方法として、スマートフォンアプリなどが利用されているのだ。美術館を特別な場所ではなく、気軽に行き先として考えてもらうためにテクノロジーが使われる。
最新の技術を示す産業博物館やITがテーマの展示ではVR/AR技術をトレンドとして紹介することもできる。しかし、美術館の場合はテクノロジーではなく芸術こそが主役だ。クリーブランド美術館ではアイトラッキングやジェスチャー認識の技術を使った展示が行われているが、あくまでもメインはそれらの技術ではなく作品である。
同館のJane Alexanderは、デジタルの最良の使い方は芸術を意識させ、テクノロジーを意識させないことだとコメントしている。
技術と芸術を組み合わせることによるメリットとして、誰でも芸術に触れられるようになるという点も忘れてはいけない。
美術館を訪れるよりもVRアーケードでゲームがしたい、メジャーリーグの試合を観に行きたいというのは好みの問題だ。だが、時間やお金が無くて美術館に行くことができないという人もいる。デジタル技術を利用して彼らの手元のスマートフォンで、あるいは公共交通機関の広告用モニターで芸術作品を見ることができるようになっている。
アメリカの博物館や美術館は最新テクノロジーの採用に積極的だ。VRツアーやARを使った展示解説アプリを用意する、収蔵品の画像を無料で提供するなど、多くの人が文化・作品に触れることができるようなサービスを行っている。
一見相性が良くないように見えても、人と芸術の接点を増やすためにテクノロジーを活用することができるようだ。
参照元サイト名:CNBC
参照元サイト名:American Alliance of Museums
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