2011年に起きた「アラブの春」を発端とするシリアでの民主化運動は結果的に、6年にも及ぶ大規模な内戦状態を引き起こした。シリア人権監視団によれば、内戦による死者は現在までに32万人以上にも上るという。


しかし、こうした悲惨な状況を伝えるニュースをTVやネットで見かけて、関心を持ち、心を痛めたとしても、そうした情報を眺める私たちは心のどこかで「遠い国での出来事」と割り切ってはないだろうか。


こうした(地理的にではなく)心の「距離」を埋め合わせるMRコンテンツの存在が少し前に発表された。


パキスタン出身のAsad J. Malikさんの制作した「Hololens from Syria」だ。


このコンテンツについては以前に紹介した


今回VRInsideはMalikさんにインタビューを申し込み、その結果幾つかの質問に回答して頂くことが出来た。


本記事ではその内容をご紹介していきたい。


「Hololens from Syria」とは





Holograms from Syria


When I got back from school on a particularly warm Spring day in 2011, the TV told me that Osama Bin Ladin had been killed 5 minutes away from the hospital I was born in. I was raised in Pakistan, a country where the impact of the post 9/11 war on terror were felt in everyday life. The images of violence that frequented our television screens were from the same cities and towns we populated.Since I’ve moved to the US, the images of war have followed. Cat videos, Trump memes, mutilated dead bodies in Syria, beautifully designed mattress ads one after the other on a scrolling newsfeed. The country is at war but something’s fundamentally different;there is no war. At least not here. No drones in the sky, no fear of public spaces, no reason to hide. Here the war is merely in rising defense stock and a series of images on a 4 inch screen. A simulation for a country stuck between the bomb &the supermarket.FIND OUT MORE –https://1ric.com/syria


1RICさんの投稿 2017年6月22日



「日常」に「非日常」をオーバーラップ


「Hololens from Syria」は遠く離れた地で起こる戦争という「非日常」を、我々の「日常」にリアルに再現してみせる、Hololensを利用したMRコンテンツプロジェクト。


プロジェクトは最初にアメリカのベニントン大学に設置されているVisual and Performing Arts Centreで実施された。


「Hololens from Syria」によってHololens着用者は日常の至るところで戦争の風景を見かけることになる。


たとえばベニントン大学の学生が頻繁に利用するソファーには、トルコの砂浜で亡くなっていたAlan Kurdiくんが横たわっている姿が現れる。


HPによれば「Hololens from Syria」を体験した学生たちは、


「もうHololensを着用していようがしていまいが、あのソファーをこれまでと同じようには見れない」


と語ったという。


「日常」と「非日常」の交錯する光景が、彼らに少なからずショックを与えたのだろう。


イマーシブジャーナリズムとしての側面


お気づきの方も多いだろうが、「Hololens from Syria」は体験者に対してイマーシブジャーナリズムとしての機能している側面がある。


つまり遠く離れた地における問題に対して、他のメディアに比べ、視聴者により当事者意識をもたせることが出来るのだ。


これからXR技術が発展、また関連デバイスが普及していくと共に、イマーシブジャーナリズムもより広く社会的浸透を遂げていくことが期待されている。


Malikさんへのインタビュー


前節までの内容を踏まえ、VRInsideはMalikさんへインタビューをおこなった。


「Hololensは最も優れたARヘッドセット


――MalikさんはなぜHololensを「Holograms from Syria」の対応デバイスとして選んだのですか?


Malikさん:体験者の方々に、可能な限り豊富な没入体験を提供したいからです。(その点において)Hololensは、世間一般で最も優れたARヘッドセットなのです。


 


―― 体験者は「Holograms from Syria」の中でどのようなイメージに接することになるのですか?


Malikさん:体験者はシリアで生じている戦争のイメージを見ることになりますよ。


 


「「Holograms from Syria」は「挑発的」」


―― HPを拝見したところ、Malikさんはパキスタン出身と記載されていました。このプロジェクトに「シリア」を選んだのはなぜでしょうか?


Malikさん:現在、シリアで生じている戦争は最も多くの関心を集めている紛争です。


戦争のシミュレーションを制作しなければならないのであれば、シリアから得たイメージを使ってそうしたシミュレーションを制作することは理に適っていると言えるでしょう。


 


――Malikさんはアメリカ人の日常にシリアの惨状をオーバーラップさせることで、彼らの行動や態度が変化するとお考えですか?また変化するとすればどのように?


Malikさん:「Holograms from Syria」は間違いなく「挑発的」です。


体験者は、彼らの生活が本質的に戦争に影響されている人々と繋がっていることに気付く必要があります。


私は「Holograms from Syria」のことを反戦運動の一部として考えているんです。


 


――最近、「イマーシブジャーナリズム」が話題です。Malikさんはこうしたタイプのジャーナリズムの発展に期待されていますか?


Malikさん:拡張現実はとてつもなく大きなジャーナリズムの可能性を確かに秘めていますね。


 


シリアとの「繋がり」


今回のインタビューで最も印象深かったのは、私たちの生活が「本質的に戦争に影響されている人々と繋がっている」というMalikさんの発言だ。


凄惨さを極めるシリアの内戦は、しかしいまだに終結する気配がない。国内地域のイスラム過激派による支配、またアメリカやロシア、イラン、サウジアラビアといった国外勢力による働きかけなど、複雑な政治的、経済的、軍事的勢力図が展開されていることもその一因だ。


こうしたグローバルな連関という意味でもシリアの内戦と我々の生活は「繋がっている」。


それだけでなく、シリアで起きている出来事を、我々にとって等身大の出来事として考えることが重要だというMalikさんの考えが伝わってきた。


今後も引き続き、「Holograms from Syria」のようなイマーシブジャーナリズムに類するXRコンテンツについて積極的に情報発信をしていこうと思う。


参照URL:


Holograms from Syria

https://1ric.com/work/holograms-from-syria/


BBC:Why is there a war in Syria?

http://www.bbc.com/news/world-middle-east-35806229


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情報提供元: VR Inside
記事名:「 シリアの「今」を伝える。「Hololens from Syria」制作者インタビュー