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企業の売上や利益が正しく記録されているかどうかは、経営の健全性を示すうえで欠かせない要素です。しかしその一方で、実態のない取引を繰り返して売上を水増しする「循環取引」と呼ばれる不正が、いまだに多くの現場で見逃されています。複数の企業が協力して帳簿上の数字だけを動かすこの手口は、外部からの確認では見抜きづらく、表面的な財務データでは真実にたどり着くことができません。
そうした不正を正確に見極めるためには、契約書や稟議書、取引データなど、企業内部の文書を丁寧に読み解く必要があります。ただし、それらの情報はPDFやメール、システム内データなどに分散しており、経験や勘に頼った属人的なチェックには限界があります。
こうした課題に対して、AIを用いた新しい分析手法が現れています。ジュリオ株式会社が提供する「粉飾リスク分析AI」は、契約書や証憑データをもとに会計処理の“ズレ”や資金の不自然な動きを検出する仕組みを持ち、従来の目視や定型チェックでは見落とされがちなリスクの把握を支援します。数字の整合性だけでなく、取引の実態に迫る手段として注目されています。
企業が売上を計上するタイミングにはルールがあります。たとえば「検収完了後に売上を認識する」といった契約条件に基づく処理です。しかし現実には、こうしたルールと実際の会計処理にズレが生じることもあります。
新たに提供されたAIは、契約書や稟議書に書かれた収益認識の条件を自然言語処理で読み取り、検収完了の通知メールなどの証拠と突き合わせて、売上計上のタイミングに矛盾がないかを自動的に検知します。「検収前に売上が計上されている」といった不正の兆しを、AIが膨大な書類の中から見逃さずに指摘できる点が特徴です。
これまで人の目に頼っていた作業を、AIが迅速かつ網羅的に補助することで、会計の透明性が一段と高まることが期待されています。
不正取引の兆候は、数字だけでは見えてこないことがあります。たとえば、特定の取引先への売上が急増した直後に、別の会社への支払いが発生している場合など、資金の流れに不自然なパターンが隠れていることがあります。
今回のAIは、そうした異常を見つけ出すために、まず請求書や会計データにある取引先名の表記の違いを自動で正規化します。「(株)ジュリオ」「ジュリオ㈱」などの揺れを統一し、取引データを整理することで、資金の動きを正確に分析できるようにしています。
名寄せされたデータをもとに、売上と支払いのタイミングや相関関係をAIが読み解き、循環取引や架空売上のリスクを浮かび上がらせる仕組みです。人の目では見落としがちな繋がりを、構造的に捉える点がこの技術の強みです。
循環取引のような不正を見抜くには、契約書や証憑、取引データなど、膨大な文書を横断的にチェックする必要があります。しかし現場では、確認作業の多さや担当者の経験に依存する体制が課題となってきました。情報の形式や保管場所がバラバラなため、効率的な分析も難しいのが実情です。
こうした限界を補うために開発されたのが、今回のAIソリューションです。監査の現場で「もっと深く証憑を見られたら」という思いを抱いてきた公認会計士が設計に携わり、人の目では気づけないズレや違和感をAIが代わりに拾い上げる仕組みをつくりました。
不正を見つけることが目的ではなく、健全な企業が正しく評価される社会を支える――そんな視点が、この取り組みの根底にあります。
このAIが活躍するのは、監査や会計の現場だけではありません。銀行の与信審査、M&Aのデューデリジェンス、投資家による企業分析など、さまざまな場面で「見えにくいリスク」を可視化する力が求められています。数字だけでは判断できない取引の実態を、契約書や取引データなどの裏付け情報から読み解くことで、判断の精度が大きく向上します。
また、従来のように不正が発覚してから対応するのではなく、兆しの段階でリスクを察知し、未然に防ぐという“予防的”なアプローチが可能になる点も大きな特徴です。今回、サービス名に「リスク分析」の言葉が加わったことも、その姿勢を象徴しています。
企業を厳しく裁くのではなく、正しく理解し、信頼できる基盤を築く。AIが果たす役割は、そうした前向きな社会の仕組みづくりへと広がり始めています。
不正を暴くことが目的ではなく、誠実に事業を進めている企業が正当に評価される仕組みをつくること。その視点こそが、今回の取り組みの根底にあります。
循環取引や不自然な売上の計上が見逃されてしまう背景には、人の目だけでは届かない“情報の壁”が存在してきました。そこにAIが入り込むことで、これまで埋もれていた違和感や矛盾をすくい上げ、企業の姿をより正確に映し出せるようになりつつあります。
テクノロジーによって不正が起きにくい環境が整えば、結果として企業も投資家も、より健全な形で未来に進むことができます。会計とAIが交わることで見えてくる新しい景色は、単なる業務効率の話ではなく、透明性と信頼に支えられた社会への一歩と言えるかもしれません。