映画『ジュラシック・パーク』で一躍有名になったヴェロキラプトル

その鋭い爪は観客の記憶に焼き付いています。

しかし新たに発見された恐竜の化石は、そのイメージをさらに凌駕する存在かもしれません。

仏ポワティエ大学(University of Poitiers)の研究者らはこのほど、モンゴルの後期白亜紀の地層から新種の恐竜化石を発見し、 「シュリ・ラパックス(Shri rapax)」と命名しました。

本種はヴェロキラプトルと近縁関係にあり、同程度の大きさでありながら、親指にヴェロキラプトルの2倍もの長さを持つ巨大な爪を備えていました。

研究の詳細は2025年7月13日付で科学雑誌『journal Historical Biology』に掲載されています。

目次

  • ヴェロキラプトルの「いとこ」登場
  • ヴェロキラプトルといかに共存できたのか?

ヴェロキラプトルの「いとこ」登場

シュリ・ラパックスが生きていたのは、およそ7500万年前から7100万年前にかけてのモンゴルです。

当時ここは砂丘と湖が点在するゴビ砂漠のような環境で、多くの恐竜たちが共存していました。

ヴェロキラプトル・モンゴリエンシスが同じ地層から産出していることから、両者は同時代に生きていた「いとこ」のような関係にあります。

発見された新種化石の画像はこちら

ヴェロキラプトルと同じく体長は頭から尻尾の先までを含めて約2メートル。

しかしシュリ・ラパックスはより頑丈な腕と手を持ち、特に親指の爪は8センチ近くに達する鎌状の刃でした。

これは同程度の体格を持つラプトル類の爪のほぼ2倍。

研究者たちは、指の骨格に発達した筋肉の付着痕が見られることから、獲物をしっかりと掴み、切り裂いたり突き刺したりするのに適していたと推測しています。

また、頭骨はヴェロキラプトルよりも幅広く、咬合力が強かったと考えられています。

こうした特徴は、シュリ・ラパックスがより大型で頑丈な獲物を狙うハンターであったことを示唆しています。

実際、研究者たちは彼らがプロトケラトプスや若いアンキロサウルス類といった、力強い草食恐竜を獲物にしていた可能性を指摘しています。

ヴェロキラプトルといかに共存できたのか?

一見すると同じような体格を持つヴェロキラプトルとシュリ・ラパックスが、なぜ同じ環境で共存できたのでしょうか。

その答えは「役割分担」にあります。

ヴェロキラプトルは鋭い足のかぎ爪で素早く攻撃し、素早い小型獲物を仕留める戦法を取っていたと考えられます。

一方でシュリ・ラパックスは、強靭な腕と手を使って獲物を押さえ込み、強力な咬みつきでとどめを刺すという異なる戦法を取っていたと推定されます。

つまり、両者は狙う獲物の種類や狩猟方法を分け合うことで、同じ地域で生態的に棲み分けていたのです。

このような違いは、ドロマエオサウルス類(ラプトル類)の多様性を示す好例です。

同じ砂漠に複数のラプトルが生息していた事実は、彼らが単なる「類似した恐竜」ではなく、それぞれが異なる獲物や環境に適応した存在であったことを物語っています。

さらにシュリ・ラパックスの尾は、骨化した腱によって硬直化しており、俊敏な動きを維持するのに役立っていたとされます。

羽毛の痕跡は残っていませんが、近縁の種の証拠から、七面鳥のような羽毛をまとっていた可能性が高いと研究者たちは推測しています。

つまり見た目は羽毛に覆われた“猛禽類サイズ”の恐竜でありながら、手には巨大な「カミソリ」を備えた存在だったのです。

今回の研究は、ヴェロキラプトル類の知られざる多様性を浮かび上がらせました。

小型獲物を俊敏に狩るヴェロキラプトルと、大型の獲物を豪腕で押さえ込むシュリ・ラパックス。

両者は同じ砂漠に生きながらも、異なる戦略で獲物を狙っていたのです。

「2倍の爪」を持つ恐竜の発見は、ラプトルたちの生き残り戦略を新たな視点から理解するきっかけを与えてくれます。

シュリ・ラパックスの存在は、私たちが思い描くラプトルのイメージをさらに豊かにしてくれる発見なのです。

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参考文献

This Deadly Velociraptor Cousin Brandished Giant Razors For Its Thumbs
https://www.sciencealert.com/this-deadly-velociraptor-cousin-brandished-giant-razors-for-its-thumbs

Newly described Shri rapax hunted with stronger hands than cousin Velociraptor
https://www.naturalsciences.be/en/science/news/newly-described-shri-rapax-hunted-with-stronger-hands-than-cousin-velociraptor

元論文

A new bird-like dinosaur from the Upper Cretaceous of Mongolia with extremely robust hands supports niche partitioning among velociraptorines
https://doi.org/10.1080/08912963.2025.2530148

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 新種の肉食恐竜を発見、ヴェロキラプトルの2倍の爪の長さ