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上空からの映像と船上からの観察により、その動物が若いザトウクジラであることが判明しました。
クジラは幸いにも「健康状態に問題なく、漁具に絡まった様子もなかった」とFacebookの投稿で報告されています。
ただし、クンバナ湾は比較的浅く、クジラが長く留まることには座礁や体力の消耗といったリスクがあります。
なんとかしてクジラを沖へ誘導しなければいけません。
そんなとき、複数のイルカが自然と現れ、クジラの周囲を遊ぶように泳ぎ始めたのです。
イルカたちは、まるで会話でもしているかのように、クジラの動きに合わせて方向を取り、結果として湾の外側、つまりより深い海域へと導き、本来の回遊ルートへと戻るよう助けて助けていました。
この一連の行動を撮影した映像は、センターのFacebookページに投稿され、大きな注目を集めました。
コメント欄には「信じられない!」「なんて素晴らしい光景」といった驚きや感動の声が多数寄せられています。
では、どうしてこのような出来事が生じたのでしょうか?
ザトウクジラやイルカの性質を考慮してみましょう。
そもそも、なぜザトウクジラが湾内に迷い込んでしまったのでしょうか?
ザトウクジラは、毎年5月から11月にかけて、南極の冷たい海からオーストラリア北部の温暖な繁殖地へと移動する長距離回遊動物です。
その移動距離は往復1万キロを超え、なかには1万3000kmという記録を持つ個体も確認されています。
その旅の途中で、捕食者に追われたり、体調不良や傷を負ったり、あるいは船の音や漁具の干渉によって混乱し、進路を誤ることがあるのです。
そうした場合、ザトウクジラは一時的に静かで安全な浅瀬に避難することがあります。
今回の迷子クジラも、おそらくそういった理由からクンバナ湾に入ってしまったと考えられます。
では、イルカたちの行動は本当に「助ける」意図があったのでしょうか?
これは動物行動学でも難しい問いです。
イルカは非常に知能が高く、群れで狩りをしたり、傷ついた仲間を支えたりする社会的行動を見せることで知られています。
しかし、異種の動物に対して明確に利他的な行動を示すケースは非常に稀です。
それでも、今回のイルカたちの動きは、少なくとも「邪魔をする」でも「攻撃する」でもなく、むしろ誘導や同行に近い行動だったことは間違いありません。
Dolphin Discovery CentreのFacebook投稿では、「イルカたちはクジラの周囲で遊びながらゆっくりと沖合に導くような動きを見せた」と記されており、「協力行動かどうかは断定できないが非常に珍しい自然現象だ」と言えます。
そして、過去にはイルカが溺れそうな人間を支えたという記録や、犬が他種を助けた事例など、異種間協力と思われる例は存在しており、今後さらなる研究が求められる分野です。
自然界には、私たちの理解では説明しきれない行動・現象が多く存在します。
ときには、異なる種の間にも予想もしない関係性が築かれる可能性があります。
もしかしたら、今も世界のどこかで、動物たちが異種間で助け合っているかもしれません。
参考文献
Watch Friendly Dolphins Help Lead A Lost Humpback Whale Into Deeper Waters
https://www.iflscience.com/watch-friendly-dolphins-help-lead-a-lost-humpback-whale-into-deeper-waters-79740
Young humpback whale a bit lost in Koombana Bay🐳 –dolphins to the rescue 🐬!
https://www.facebook.com/dolphindiscoverycentre/videos/769887368728550
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部