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そして、楽しさがないまま日々を過ごしてしまうと、やがて次のような“幸福の罠”に落ちてしまいます。
それが、「自分は幸せか?」と問うことで、かえって幸せから遠ざかってしまうという現象です。
幸福を“評価する対象”として捉えると、人は無意識に自分の生活に点数をつけ始めます。
そして完璧ではない現実に不満を抱くようになり、「今を楽しむ」力を失っていくのです。
ここでラッカー博士は、幸福よりも「楽しさ(fun)」に注目することをすすめます。
なぜなら楽しさは「今この瞬間」にしか存在しない感情だからです。
幸福が人生の総合評価だとすれば、楽しさはその場のライブ体験です。
今の生活に“楽しい瞬間”が少しでもあれば、人は自然と前向きになれます。
では、どうすれば忙しい生活の中に楽しさを取り戻せるのでしょうか?
ラッカー博士が提案するのが、「PLAYモデル」と呼ばれる管理ツールです。
これは1週間の168時間を振り返り、自分の活動を以下の4つに分類するというものです。
これは気軽にできて心が和む活動のことです。
例えば、お気に入りのプレイリストを聴く、夜の星空を眺める、友達に電話するなどです。
午後を丸々開ける必要はありません。
努力も計画もいらず、それでいて確かなリフレッシュ効果が得られます。
楽しさを生じさるのは、壮大なイベントだけではありません。
実際には、こうした小さな日常の喜びから生まれることが多いのです。
新しいスキルの習得、習い事、読書、創作など、自分を少し成長させてくれる活動です。
最初はハードルがあるかもしれませんが、終えたときに得られる「やりきった感」が非常に大きくなります。
義務感やストレスが強く、「できれば避けたい」と思う活動のことです。
苦手な会議、通勤ラッシュ、面倒な人間関係の対応などが該当します。
この活動が多すぎるなら、大きな喜び得られず、疲れ果ててしまいます。
目標は、この苦痛を伴う活動をすべて排除することではなく、それらへの取り組み方を改善する方法があるか確認することです。
なんとなくスマホをいじる、YouTubeを見続ける、SNSを延々とスクロールする、といった“無意識で受動的”な活動です。
ほとんど努力を必要とせず、いかにも楽そうに見えますが、実は終わった後に虚無感を残しやすく、幸福感にはつながりにくい特徴があります。
適度に行うのは問題ありませんが、この活動に時間を用いすぎると、「幸せではない」という感覚が染み付くようになります。
PLAYモデルを考慮しました。
このように分類することで、自分が「どの活動にどれくらいの時間を費やしているか」が明確になります。
そして意識的にPleasingやLivingを増やし、AgonizingやYieldingを減らしていくことが、楽しさの増加=幸福感の回復につながっていきます。
では実際にどのように当てはめていけるでしょうか。7日間チャレンジを見てみましょう。
PLAYモデルの真価は「気づき」だけでなく、日々の行動を変えるガイドラインになることです。
ラッカー博士は、PLAYモデルを活用した「7日間チャレンジ」を紹介しています。
これは1日1つの小さな行動変化を通じて、生活に楽しさを再導入するという取り組みです。
たとえば、SNSを見る代わりに友人に電話をしてみるなど。
新しい料理を作る、行ったことのない場所に足を運ぶなど、小さな冒険がポイントです。
会えなくても、短いメッセージや通話だけで、幸福感が一気に上がることもあります。
何の生産性も求めない「遊び」の時間を確保しましょう。
たとえば、週1回の会議をメール対応に切り替える、苦手な業務を誰かに委任するなど、形を変える工夫がカギです。
未来に「楽しみなこと」があるだけで、現在の気分も良くなります。
1週間の中で「これはよかった」と思えることを続ける。それが“習慣化された楽しさ”への第一歩になります。
この7日間チャレンジを行ってみるなら、きっと日常の中で楽しさを味わえることに気づけるはずです。
ラッカー博士の主張は明快です。
「人生を根本から変える必要はありません。
小さな“楽しい習慣”の積み重ねが、幸福な日常を取り戻す有効な一歩となるでしょう」
私たちはつい、幸せを“追い求めるもの”だと考えてしまいます。
けれども本当は、「今この瞬間」をどれだけ楽しめるかが、幸福を決定づけるのかもしれません。
忙しい日々の中でも、少しの工夫と意識で「楽しい」は取り戻せます。
あなたも、今日この瞬間から「今を楽しむ」力を取り戻してみませんか?
参考文献
When Happiness Feels Elusive, Try Making Fun a Habit Instead
https://www.psychologytoday.com/us/blog/the-science-of-fun/202507/when-happiness-feels-elusive-try-making-fun-a-habit-instead
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部