かつてニュージーランドの森林を悠然と歩いていた巨鳥「モア」。

彼らは人類の入植による乱獲が原因で、15世紀頃に絶滅しています。

しかしその姿が、近い未来に再びこの地上に蘇るかもしれません。

今週、絶滅種の復活を目指すバイオ企業「コロッサル・バイオサイエンシズ」が、モアを遺伝子工学で“蘇らせる”という壮大なプロジェクトの始動を発表。

さらに同プロジェクトには、ニュージーランド出身で、映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで知られるピーター・ジャクソン監督も参加していることが報じられました。

チームは今後10年以内のモアの復活を目指すとのことです。

 

目次

  • 巨鳥「モア」を10年以内に復活させる計画
  • 復活するのは本物のモアではない

巨鳥「モア」を10年以内に復活させる計画

プロジェクトの対象となっているのは「ジャイアント・モア(Dinornis robustus)」という、全長3.6メートルにも達する巨大な飛べない鳥です。

かつてニュージーランド全土に生息していましたが、およそ600年前に人間による乱獲によって絶滅しました。

この復活計画を主導するのは、「絶滅を逆転させる(de-extinction)」というビジョンを掲げる米バイオ企業「コロッサル・バイオサイエンシズ」。

同社はこれまでにもマンモスやドードー、ダイアウルフ(絶滅した大型オオカミ)などの“再生”を発表し、世界中の注目を集めてきました。

今回のモア計画には、ピーター・ジャクソン監督とそのパートナーであるプロデューサーのフラン・ウォルシュ氏が、1500万ドル(約24億円)を出資。

さらにニュージーランドの先住民研究機関「ナイ・タフ研究センター」も協力し、モア復活に向けた研究が始まっています。

ジャクソン監督は、モアの骨の個人コレクションを300~400点以上も所蔵しており、「映画は本業、モアは趣味」と語るほどの熱の入れようです。

 

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とはいえ、モアの復活プロジェクトはまだ始まったばかり。

研究の第一段階では、保存状態の良い骨からDNAを抽出し、現存する鳥類、特に近縁種とされるエミューなどのDNAと比較します。

そして、モアに特有の遺伝子を特定し、それを現存種のDNAに組み込むという手法が取られます。

こうして蘇った個体は、囲われた自然保護区で生活させる予定で、野生には放たれず、動物園での展示も行われないとされています。

復活するのは本物のモアではない

プロジェクトは華々しく発表されましたが、専門家たちからは厳しい意見も寄せられています。

ニュージーランドのオタゴ大学で動物学を研究するフィリップ・セドン教授は「復活するのはあくまで“モアのような鳥”であり、本物のモアではない」と断言しています。

絶滅してから何世紀も経過し、生態系の中での位置づけや進化的文脈を失った今、元通りの生物を復元するのは不可能だというのです。

また、過去にコロッサル社が「ダイアウルフを復活させた」と発表した際も、実際には灰色オオカミに20カ所の遺伝子改変を加えた“似た姿の動物”にすぎず、多くの専門家から「名ばかりの復活」と批判されました。

さらに保全生態学の第一人者であるスチュアート・ピム教授(デューク大学)は「見た目だけが似ている生き物を作り出すのは、まるでフランケンシュタインの物語のようだ」と懐疑的です。

こちらはプロジェクトの概要をまとめた動画。

一方で、研究によって得られる知見や技術は、他の絶滅危惧種の保護にも役立つという見方もあります。

人工卵の開発やDNA操作技術の応用によって、絶滅寸前の鳥類を救う道が開けるかもしれません。

専門家は「復活の過程で得られるDNA情報や進化的知見は、モアという種の理解を大きく前進させる可能性がある」と評価しています。

科学技術の急速な進歩によって、私たちはすでに「絶滅生物を蘇らせる」という禁断の領域に足を踏み入れています。

果たして今後、モア復活プロジェクトはどのような展開を迎えるのでしょうか。

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参考文献

‘We’re bringing back avian dinosaurs’: De-extinction company claims it will resurrect the giant moa in next 10 years
https://www.livescience.com/animals/extinct-species/were-bringing-back-avian-dinosaurs-de-extinction-company-claims-it-will-resurrect-the-giant-moa-in-next-10-years

‘Lord of the Rings’director backs long shot de-extinction plan, starring lost bird
https://abcnews.go.com/Technology/wireStory/lord-rings-director-backs-long-shot-de-extinction-123579057

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 絶滅鳥モアの復活プロジェクト始動、ロード・オブ・ザ・リング監督が参加