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「老化細胞」とは、年齢やストレスによってダメージを受け、正常に働かなくなった細胞のことです。
こうした細胞は自ら増殖することはありませんが、周囲に炎症を引き起こす物質を放出するため、組織全体の機能を悪化させる原因になります。
今回、研究チームは、25人の重度肥満の被験者について、減量手術の前後で腹部の脂肪組織を採取し、17万個以上の細胞を詳細に調べました。
さらに24人の健康体型の人の脂肪細胞とも比較しました。
その結果、肥満状態の脂肪組織には、老化細胞が多く存在することが確認されました。
特に、脂肪細胞そのものだけでなく、脂肪を作り出す前駆細胞や血管の細胞にも、老化のサインが強く現れていました。
しかし驚くべきことに、体重を平均25kg減らしたあとには、これらの老化細胞が劇的に減少していたのです。
なかでも、細胞の老化を示す代表的な指標「p21タンパク質」を持つ細胞は、減量後にはほとんど検出されなくなっていました。
つまり、体重を減らすことによって、体の中の「老化した脂肪細胞」が自然と除去されていたのです。
この発見は、減量がただの脂肪の減少ではなく、組織そのものの「細胞レベルの若返り」を引き起こす可能性を示しています。
もうひとつ注目すべきは、脂肪組織の代謝機能にも変化が見られたことです。
肥満状態では、脂肪細胞の代謝の「柔軟性」が失われており、脂肪酸やアミノ酸などの処理がうまくできなくなっていました。
これはインスリン抵抗性や2型糖尿病、脂肪肝などのリスクと深く関係しています。
しかし減量後には、脂肪細胞の代謝活動が全体的に活発化し、エネルギーを効率的に利用する能力が大きく改善していました。
具体的には、脂肪の「合成」と「分解」のサイクルが活発になり、蓄積しすぎた脂質を処理するようになったのです。
また、減量によって体内の炎症反応も大幅に抑えられました。
脂肪組織に侵入していた炎症性の免疫細胞は数が減り、炎症を引き起こす遺伝子の活動も沈静化しました。
ただし完全な回復とまではいかず、肥満時に「記憶」された炎症状態が一部の細胞に残ることも分かっています。
つまり、減量は劇的な改善をもたらすものの、「肥満になる前から予防しておくこと」の重要性も示されたかたちです。
さらに減量によって細胞のストレス応答や線維化(硬くなる変化)も緩和され、組織全体が柔らかく健康な状態に戻っていく様子も観察されました。
今回の研究は、減量によって体の内部で何が起きているのかを、細胞レベルで明らかにした貴重な成果です。
脂肪が減るというだけでなく、「老化細胞の除去」「代謝機能の回復」「炎症の沈静化」など、まさに組織が若返るような変化が起きていました。
こうした変化は、糖尿病や動脈硬化などの病気を防ぐだけでなく、体そのものの健康寿命を延ばす可能性を秘めています。
もちろん、急激な減量は体に負担をかける可能性もあるため、医師の指導のもとで行うことが推奨されます。
しかし「やせること」がただの見た目の問題ではなく、「体の中からの若返り」であることが、今回の研究によって裏付けられたのです。
参考文献
Study reveals the hidden benefits of weight loss on fat tissue
https://www.ukri.org/news/study-reveals-the-hidden-benefits-of-weight-loss-on-fat-tissue/
Weight loss may ‘rejuvenate’fat tissues, clearing away aged cells
https://www.livescience.com/health/weight-loss-may-rejuvenate-fat-tissues-clearing-away-aged-cells
元論文
Selective remodelling of the adipose niche in obesity and weight loss
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09233-2
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部