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これまでの研究でも、メスのグッピーが「オレンジ色の目立つオス」に惹かれる傾向があることは知られていました。
しかし、なぜその色が好まれるのか、そしてどんな遺伝的背景があるのかは、明確にされていませんでした。
そこで研究チームは今回、ディープラーニング(深層学習)を活用し、3,000匹以上のグッピーの体色パターンを詳細に分析。
特に「オレンジ色の分布」と「面積」に着目しました。
さらに3世代にわたる選抜育種によって「よりオレンジの強い系統」と「薄い系統」を作り出し、オレンジ色がどれほど遺伝するかを検証しました。
その結果、オレンジ色は遺伝的にしっかりと受け継がれており、オスの“性格”や“行動”にも密接に関係していることが明らかになったのです。
色が濃いオスほど、メスへの求愛行動が最大で2倍活発であり、アピール時間も長く、メスに選ばれやすくて、交尾の試行回数も多かったのです。
まさに「モテ色」と呼ぶにふさわしい性質です。
さらに驚くべきことに、オスの色彩パターンをつくる細胞は、脳や神経を形成する「神経堤(しんけいてい)細胞」から発生していることが判明しました。
つまり、見た目の美しさと、行動特性や性格のような内面の特性が、遺伝的に深く結びついている可能性があるのです。
またチームは、グッピーの体色に関わる遺伝子を全ゲノム規模で解析。
結果として、色彩は多数の常染色体(オートソーム)と性染色体(Y染色体)にまたがる複雑な遺伝構造のもとに成り立っていることが明らかになりました。
その多様性は驚異的で、オレンジ色のバリエーションだけでも7種類、黒色は8種類。
理論上は3万通り以上の模様パターンが存在可能とのことです。
こうした遺伝的な複雑さは、気候変動や寄生虫などの外部環境に対する柔軟な適応力を高める「進化の素材」として働いていると考えられています。
今回の研究は「派手な模様は単なる飾りではない」という進化生物学の視点を見事に裏付けました。
オスのグッピーにとって、オレンジ色はただの色ではなく、健康の証であり、繁殖力の象徴であり、そして“メスにモテる武器”でもあるのです。
自然界における「美しさ」には、実は非常に合理的な理由が隠されていることを、グッピーたちが静かに教えてくれているのかもしれません。
参考文献
Orange is the new aphrodisiac—for guppies
https://news.ubc.ca/2025/07/orange-is-the-new-aphrodisiac-for-guppies/
元論文
Deep learning reveals the complex genetic architecture of male guppy colouration
https://doi.org/10.1038/s41559-025-02781-w
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部