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今回の研究では、チリ南部にある6つの火山――その中には現在は休止状態の「モチョ・チョシュエンコ火山」も含まれます――を対象に、過去の氷期と噴火の関係を調査しました。
究チームは、火山岩に含まれるアルゴンガスを年代測定に利用し、さらにマグマ中で形成された鉱物結晶を分析することで、過去の火山活動の履歴をたどりました。
すると、約2万6000年前から1万8000年前の最後の氷期の最盛期において、氷河が噴火を抑え込んでいたことが判明しました。
その間、地下にはシリカに富んだ大量のマグマが、地表下10〜15キロメートルの深さに静かに蓄積されていたのです。
そして氷期が終わり、パタゴニア氷床が急速に融解しはじめると、地下の圧力が解放され、一気に噴火が発生。
それがモチョ・チョシュエンコ火山の形成につながったと考えられています。
こうした「氷河の後退→マグマ膨張→爆発的噴火」という一連のメカニズムは、火山と氷河が重なる場所すべてで起こりうるといいます。
そしてその範囲は、決してアイスランドや南アメリカにとどまりません。
チームは今回の成果を踏まえ、次のような重要な指摘を行っています。
「問題は、氷河の融解が単に火山活動を増やすというだけではありません。
噴火によって放出される温室効果ガスが、さらなる地球温暖化を引き起こす“悪循環”を生む可能性があるのです」
ただし火山噴火による気候への影響は一筋縄ではいきません。
短期的には、噴火によって放出されるエアロゾルが太陽光を反射し、地球全体を一時的に冷やす効果があります。
たとえば1991年のフィリピン・ピナトゥボ火山の大噴火では、地球全体の気温が約0.5度低下しました。
一方で、複数の火山噴火が続くと、温室効果ガス(二酸化炭素やメタンなど)の排出が積み重なり、逆に地球温暖化を加速させる可能性があるといいます。
このように「氷河の融解が火山を活発化させ、火山の噴火がまた温暖化を進め、さらに氷河が融ける」というループが成立するのです。
この現象が確認されたのは南米のパタゴニア地域でしたが、同様の条件を持つ場所は世界中にあります。
2020年の研究では、世界で活動が予測される火山のうち、245カ所が氷河の直下または半径5キロ以内に存在することが確認されています。
特に南極、ロシア、ニュージーランド、北米などでは、分厚い氷河の下に休眠中の火山が多数眠っており、気候変動が進む今、それらが次々と活動を再開する可能性が懸念されています。
氷河はただの“冷たい自然の遺産”ではありません。
それは地下の火山を押さえ込む「重し」であり、地球の気候を安定させる「安全装置」でもあるのです。
しかし、その安全装置が今、音もなく崩れ始めています。
その先にあるのは、爆発的な火山活動と、それによってもたらされるさらなる気候変動かもしれません。
参考文献
Melting glaciers could trigger more explosive eruptions globally, finds research
https://www.eurekalert.org/news-releases/1089948?
Melting glaciers could trigger volcanic eruptions around the globe, study finds
https://www.livescience.com/planet-earth/volcanos/melting-glaciers-could-trigger-volcanic-eruptions-around-the-globe-study-finds
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部