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これが、ミルン氏らが着目した「報復的慈善活動」の出発点となりました。
研究チームはこの行動の動機や仕組みを明らかにするため、まずインタビューを実施しました。
報復的寄付を行った人物や、その対象となった人々への聞き取りを通じて、共通する3つの動機を見出しました。
次にチームは、より広範な実社会のデータを使ってこの仮説を検証しました。
2022年、カナダで発生した「フリーダム・コンボイ」(ワクチン義務化に反対するトラック運転手による抗議運動)において、支援団体への寄付が急増。
ところが政府の介入により、クラウドファンディングサイト「GoFundMe」でのキャンペーンが強制停止されました。
その直後、寄付者たちは新たなプラットフォーム「GiveSendGo」に移行し、短期間で数百万ドル規模の寄付が集まりました。
この寄付データ10万件超を分析したところ、「GoFundMe」や政府に対する怒りのコメントを書いた寄付者は、他の人より平均23ドルも多く寄付していたことが分かりました。
怒りの表現(「裏切り」「検閲」「腐敗」など)を含む投稿の多くが「モラルに反する抑圧」として認識されており、ここにも「報復」の意図が明確に表れていました。
この2つの初期研究によって、「怒り」や「道徳的違反の認識」が寄付動機となる現象が、定性的・定量的に裏付けられたのです。
続く第3の実験では、この報復的寄付のメカニズムをさらに細かく検証するため、548名の学生の参加者が集められました。
参加者のうち1つのグループには、架空のニュース記事を読んでもらいます。
「ある大学教授が授業中に意図的に人種差別的な発言をした」というものです。
そして別のグループには、同教授が意図せず似たような言葉を使ったという非意図的事例を提示。
さらに、それぞれのグループには、「この教授に反対する団体(寄付のたびに教授の解任を求める手紙を送る)に寄付できます」という報復オプションを提示する場合と、通常の寄付先だけを示す(=報復オプションなし)場合の2パターンが用意されました。
その結果は明快でした。
「意図的に差別発言をした」と判断されたケースで、報復オプションありの寄付が最も選ばれたのです。
そして研究全体の成果から、以下の主要な発見が浮かび上がってきました。
これらは、従来の寄付の動機とは大きく異なるものですが、現在でも確かに存在するのです。
では、この寄付や動機を「利用」することはできるでしょうか。
研究者たちは、この報復的慈善活動が寄付総額を増やす可能性に注目しています。
なぜなら、「従来なら寄付をしない層」でも、怒りや正義感を引き金に行動を起こすからです。
つまり、人々の怒りの傾向を利用すれば、多くの寄付を集められるかもしれません。
しかし、重大なリスクも存在します。
例えば、「敵」を作るようなキャンペーンは社会を分断する可能性があり、通常の支持者が疎外感を抱く危険性があります。
また、誤ったターゲティングが名誉毀損や対立の激化を招くこともあるでしょう。
そのため研究チームは、「報復的慈善活動」の活用には以下のような慎重な条件が求められると述べています。
この研究では、「怒りを動機にした寄付」に焦点を当てました。
正義感と怒りが交差するところに、これまでにない新しい社会運動の形が生まれています。
もしかしたら、あなたが「寄付したい」と感じた時にも、その内側には「怒り」が秘められている可能性があるのです。
参考文献
Giving back or getting back? The rise of retributive philanthropy
https://phys.org/news/2025-07-retributive-philanthropy.html
元論文
Retributive Philanthropy
https://doi.org/10.1177/00222437251320021
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部