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人の心の中では、常に2つの声が会話をしています。
片方は、「やらなきゃ、やるべきだ」という“理性的な声”。
もう片方は、「でも今は面倒くさいし、怖いし、やりたくない」という“感情的な声”です。
これは、何かを「すべき」と感じながらも「したくない」と感じる心の葛藤状態であり、人が行動を起こす前にしばしば経験するごく自然な心理状態です。
そして、ここで外から「ほら、やらなきゃダメでしょ!」と片方の意見について強く言われると、本能的に強く反発して、もう片方の「やりたくない側”の声を強めてしまう」ようです。
つまり、「説得するほど、やらない理由が強まってしまう」という逆効果が起きるのです。
では、やる気をださせるための正しい方法とはどのようなものでしょうか。
やる気を育てるための3原則とは何でしょうか。
グローバー氏らが提唱するのは、「動機づけコミュニケーション」の3原則です。
「時間がない」「なんとなく気が進まない」といった言葉に対して、すぐに解決策を提示するのではなく、まず相手の話を聞いてあげることが大切です。
たとえば「忙しくて病院に行けない」と言われたとき、
このようになかなかやらない理由に軽く触れ、耳を傾けるなら「この人は私の話をちゃんと聞いてくれる」と感じてもらえ、より深い話がしやすくなります。
「やりたいけど不安」「行かなきゃいけないけど緊張する」という感情に対して、
葛藤は誰しもが抱える自然な心理です。
それを受け止め、言語化することで、相手自身が“自分の中の迷い”を理解しやすくなります。
「これをやるべき!」と強制するのではなく、「最終的にはあなたが決めること」という姿勢を見せることで、相手の自律性を尊重します。
たとえば、
このように伝えることで、「やらされている」ではなく、「自分で決めた」という気持ちが生まれ、やる気が育まれやすくなります。
この方法は、実施の医療現場でも効果を挙げています。
前述した3つの原則は、確かに効果があります。
2024年、アメリカのEEG検査センターでは、予約をキャンセルする患者に対しては、「この検査がどれだけ重要か」を説得する方針が取られていました。
しかし、キャンセル率は一向に改善しませんでした。
そこでスタッフたちは「キャンセルの裏には患者の葛藤がある」と理解し、3つの原則を当てはめることにしました。
「どう感じているか」を聞き、不安や迷いを言語化・理解し、決定権を患者に委ねる という対応を徹底したのです。
その結果、同日のキャンセル率が最大で50%も減少しました。
しかも、通話時間は長くならなかったというのですから、これは驚くべき結果です。
さらに重要なのは、キャンセルした患者でも、その多くが後日「再予約」したという点です。
私たちも、やる気を引き出すための「対話の3原則」を日常に応用できます。
例えば、子どもが宿題を後回しにしているときには、「今日は何が一番気になってるの?」と尋ねることから始められます。
同僚が仕事を後回しにしているときには、「やるべきことが多くて、どれから手をつけたらいいか迷うよね」と理解してあげられます。
このように、“理解する姿勢”を見せることで、相手の内側から変化が生まれる土壌が整うのです。
やる気を引き出す方法は、「指摘」でも「説得」でも「正論」でもありません。
相手の心の中にある「迷い」と向き合い、“聞き手”に徹することで、初めて本当のモチベーションが育ち始めます。
これは誰かのためでもありますが、自分自身がイライラしたり、無力感に悩まされたりしないためにも重要なスキルです。
次に誰かの「やる気がない」場面に遭遇したなら、ぜひ試してみてください。
参考文献
Why Trying Harder to Motivate People Doesn’t Work
https://www.psychologytoday.com/us/blog/live-better/202506/why-trying-harder-to-motivate-people-doesnt-work
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部