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今回の研究では、ハウスダストダニによる喘息を人工的に引き起こしたマウスに対し、ラクダのミルクを与えるという実験が行われました。
研究では、マウスを次の3つのグループに分け、経過を比較しました。
・ダニで喘息を誘発したマウス
・ダニで喘息を誘発した上で、ラクダ乳を与えたマウス
・何もしない健康なマウス(対照群)
すると、ラクダ乳を摂取したマウスでは、ダニによる気道の過剰な収縮反応(いわゆる気道過敏性)が明らかに抑制され、咳や息切れの原因となる炎症性細胞の集まりも減っていたのです。
この過敏性は、健康なマウスと同じ水準にまで下がっていたといいます。
特に喘息の発症に深く関わる「好酸球」や「Th2細胞(ヘルパーT細胞の一種)」の数がラクダ乳によって顕著に減少したことが確認されました。
また、アレルギー性炎症を悪化させる「IL-4」や「IL-13」などのサイトカインの分泌も低下していました。
この結果は、単なる自然食品としてのラクダ乳を超え、科学的にも有効性がある可能性を示した初の本格的な実験として注目を集めています。
では、なぜラクダ乳が喘息に対してこれほど効果を発揮できたのでしょうか?
その秘密は、ラクダ乳に豊富に含まれる免疫調整成分(免疫を調節する作用をもつタンパク質や抗体)にあると考えられています。
ラクダ乳は、牛乳や他の哺乳動物のミルクに比べて、ミネラル、ビタミン、抗酸化物質が豊富です。
加えて、免疫をサポートするラクトフェリンや免疫グロブリンG(IgG)抗体も多く含まれており、これらが炎症反応の制御に関与している可能性があります。
実際、喘息患者ではIgGのレベルが低下していることが報告されており、ラクダ乳の摂取によってIgGを補うことで免疫バランスの回復が期待されます。
今回の研究では、ラクダ乳の摂取により、炎症性のケモカインである「CCL17」の濃度が肺で有意に減少していることが確認されました。
CCL17は、アレルギー反応に関与するTh2細胞(ヘルパーT細胞の一種)を肺へと誘導する役割を果たしており、この物質の抑制は気道での免疫細胞の過剰な集積を防ぎ、炎症を緩和する結果につながったと考えられます。
とはいえ、今回の研究はマウスを対象にした実験であり、人間にそのまま適用できるとは限りません。
また、ラクダ乳のどの成分が正確に効果を発揮しているかはまだ特定されておらず、成分分析や人間を対象とした臨床試験が必要です。
それでも、2022年に発表された小規模な臨床試験では、ラクダ乳が実際に小児喘息の症状を改善したという報告もあり、今回の研究結果とあわせて、さらなる科学的探究が求められます。
将来的には、ラクダ乳を食事療法や補助的治療法の一環として取り入れる可能性も視野に入ってくるかもしれません。
参考文献
Camel milk found to reduce asthma severity
https://newatlas.com/allergies/camel-milk-allergic-asthma-house-dust-mites/
元論文
The effect of camel milk on house dust mite allergen induced asthma model in BALB/C mice
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0327504
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部